一番働いているのは「白紙の時間」:困っている人のための企画術
考え抜いて出した企画が反対されて、悔しい思いをすることもあります。しかし、それを受け入れて順番にクリアしていくと、企画に深みとひねりが生まれてよくなることもあるのです。
連載:困っている人のための企画術
この連載は書籍『困っている人のためのアイデアとプレゼンの本』(日本実業出版社)から抜粋、再編集したものです。
すごいアイデアを思いついて自信満々で発表したのにスルーされてしまった……。こういうケースは少なくありません。アイデアが支持され印象に残るかどうかは、内容の善し悪しに加え、段取り、流れやタイミング、そしてプレゼンのしかたなど、さまざまな要素に左右されます。
本書は、BOSS「宇宙人ジョーンズ」やジョージア「明日があるさ」などのヒットCMを生み出した著者が、アイデア出しとプレゼンの方法で困っている人のために書いた本です。
今でこそ多くの人気CMに携わっている著者ですが、「人とのコミュニケーションをとるのが苦手」と公言するように、実は著者自身がアイディアやプレゼンで「困っている」人でした。そんな著者が伝えるのは、
・「プレゼンがうまそう」という感じを出さない
・人は、自分にできることしか、できない
・説得しないで説得する
など、ダメな人、苦手な人、困っている人でも、自分なりのやり方を見つけられます。数々のほろ苦い経験をもとに、そのままま役立つ「アイデアの出し方」と「伝え方」を紹介します。
大事なのは、考える時間をとること
ここまでいろいろ、「企画術」について書いてきましたが、なんだかんだと言っても企画で一番大事なのは「考える時間をきちんととる」ということかもしれません。
よく広告会社の営業の人が、打ち合わせやプレゼンのスケジュールを入れようとして私の手帳をのぞきこみ、「あ、この時間空いてますね」などとおっしゃいますが、正直に言うと、その時間帯は空いてないのです。
実は、CMプランナーが一番働いているのは、手帳に何も予定が書いてない「白紙の時間」なのです。そこが、まさに“考えている時間”ですから。
私の場合、以前にも紹介しましたが、毎日午前中の10時から12時までを「企画をする時間」と決めています。仕事が忙しかったり前の晩遅くまで飲んでしまったとしても、この時間をいかにキープし続けるか、ということが大事なのです。
企画というのは、考えないとでてこないものです。「気が付いたら企画ができていた」ということには、残念ながらなりません。
例えばCMの場合、打ち合わせやプレゼン、撮影に編集といろいろなことがあり、なんとなく忙しくしているとまるでがんばって働いているような錯覚に陥りがちです。しかし、「自分の仕事の中心が企画」ならば、その錯覚はすぐに捨てたほうがいいです。
忙しくしているのは、ただ単に、企画をさぼっているにすぎないのかもしれない。そして、予定には、なるべく“白紙の部分”を多くするようにしています。
企画は毎日やってないとできない仕事?
そもそもCMの企画というのは、ハッキリ言うと、ものすごく面倒くさいです。
商品のどういうところを訴求するか――それにはどんなストーリーがいいのか、ということを考えるだけでも大変です。なのに、「このタレントさんの場合、アップを2回入れないとまずい」とか、「音楽はタイアップ曲が決まっている」とか、「今回は予算が限られているから大きなセットは建てられない」とか、ほかにもさまざまな要素がからんできます。
これらをすべて解決しながら、きちんと広告効果もあげ、世の中でも評判になる企画にしないといけません。しかも、たったの15〜30秒のCMで――ということですから、みなさんが思っているよりも、けっこう大変なのです。
こんな面倒くさいことは、毎日毎日続けてやっているからできるのであって、1週間まったくやらなければ、もうできなくなるかもしれません。だからこそ、考える時間を取り続ける必要があるのです。
それと同時に、少なくとも私の場合は、その時間がこの仕事の中で一番好きな時間であることも確かなのです。
1人で企画をじっくり考える時間――。これが好きな人は、基本的に企画に向いている人、と言えるのではないでしょうか。
著者プロフィール:
福里真一(ふくさと・しんいち)
ワンスカイ CMプランナー・コピーライター。1968年鎌倉生まれ。一橋大学社会学部卒業。92年電通入社。01年よりワンスカイ所属。
これまで1000本以上のテレビCMを企画・制作している。主な仕事に、吉本興業のタレント総出演で話題になったジョージア「明日があるさ」、樹木希林らの富士フイルム「フジカラーのお店」、トミー・リー・ジョーンズ主演によるサントリーBOSS「宇宙人ジョーンズ」、トヨタ自動車「こども店長」「ReBORN 信長と秀吉」「TOYOTOWN」、ENEOS「エネゴリくん」、ダイハツ「日本のどこかで」、東洋水産「マルちゃん正麺」などがある。
ACC(全日本CM放送連盟)グランプリ、TCC(東京コピーライターズクラブ)グランプリ、クリエイター・オブ・ザ・イヤー、など受賞。その暗い性格からは想像がつかない、親しみのわくCMを数多くつくりだしている。
著書に『電信柱の陰から見てるタイプの企画術』(宣伝会議)がある。
関連記事
- 30歳過ぎまでさえなかった、「あまちゃん」ディレクターの仕事術
NHKで「サラリーマンNEO」や「あまちゃん」を担当したディレクターが、企画やアイデアの作り方、特に、新しいアイデアをいかに多くの人に受け入れてもらうか、そのコツをまとめました。 - 提案が通るようになる――「相手の立場に立つ」3つのコツ
提案しても通らず、やりたい仕事ができない。その結果、モチベーションが下がる――。こんな悪循環を断ち切りたい人に、「相手の立場に立つ」3つのコツをご紹介しましょう。 - 要注意! そのプレゼン、ストライクゾーンはどこですか?
プレゼンテーションで失敗しない予防策は、前回の「聴衆分析」と聴衆のストライクゾーンを知ること。ストライクゾーンを事前に、正確に把握しておきたいところです。このため、先方とのヒアリングが重要になりますが、どうやってヒアリングをすればいいのでしょうか。 - 岐路に立ったら、常に面白いコンテンツになるほうを選ぶ
ライターの松田然さんは、ベンチャーから大企業まで800社以上の取材・広告制作を経験。起業、フリーランス、上場企業、海外企業などのさまざまな働き方を経験し、「挑戦する人のHubになる」をテーマにこれからのライフスタイルのヒントを発信している。 - あなたの企画を“宝石”にする3つのステージ
会社の仕事で企画書を作る場合、肝心の内容が面白くないと他人の心に響かない。そこで、3つのステージで企画を“宝石”にするやり方を紹介しよう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.