Gartner Column:第1回 Webサービス登場の必然性

【国内記事】 2001.06.04

eWEEK読者のみなさん,はじめまして。ガートナーの栗原と申します。これからしばらくの間,この場をお借りして,ITの重要トレンドとそのビジネスへの影響について,IT業界アナリストとしての見方をご紹介していきたいと思います。内容に関するご意見,今後扱ってほしいトピックなどありましたら,是非,メールにてお寄せください。

 連載最初のトピックとして,最近,かなりの注目を集めているテクノロジーであるWebサービスについて何回かに分けて分析していこうと思う。ガートナーでは,Webサービスを「インターネットの標準テクノロジーを使用して提供される疎結合型のソフトウェア・コンポーネント」と定義している。他社も,微妙なニュアンスの相違さえあれ,ほぼ同じ定義を行っているようだ。いわば,従来からあるソフトウェア部品化技術であるコンポーネント(分散オブジェクト)の考え方をインターネット上で展開したものであると言える。アプリケーションを一枚岩構造で構築するのではなく,(別のシステム内にあることもある)特定機能を実現するソフトウェア部品を必要に応じて組み合わせることで,求める機能を実現するという現在では当たり前の考え方だ。

 ところで,この「Webサービス」という名称(最初に使い出したのはIBMだと思うが)は何とかならなかったのか。非常に実体がイメージしにくい言葉だし,サーチエンジンで検索しても,「Web経由で提供される顧客サービス」というそのままの使用例が数多く返ってきてしまう。「インターネット・コンポーネント」や「グローバル・コンポーネント」という名前にでもすれば,もう少し,名が体を表すようになったであろうに。

 また,e-サービスという用語が使用されることもあるが,これは,Webサービスの概念を業界に最初に提示した大手ベンダーであるHPが使用している用語だ(残念なことに,HPは,せっかくの先進的なWebサービスのビジョンを市場のリーダーシップにうまく活かせていないようだが,この点については,また後日,分析していきたい)。e-サービスとWebサービスは同義と考えて良いが,今後はベンダー中立な用語としてはWebサービスの方が一般に普及していくことになるだろう。

 今までにも多くの記事でWebサービスが紹介されており,その概念については広く理解されていると思うが,「CORBAやCOMなどの分散オブジェクト・コンピューティングの仕組みが既に存在するのに,なぜ,わざわざ全く新しい枠組みを作らなければならないのか?」という疑問を抱えている人は多いのではないだろうか。この疑問に答えるために,インターネット環境では従来型の分散オブジェクト基盤にどのような限界があるのかについて考えてみよう。そうすることで,同時にWebサービスの登場の必然性も明らかになってくるはずだ。

 まず第一に,従来型分散オブジェクト技術では,受け手と送り手が同じコンポーネント・コンピューティング基盤を使用することが前提となることが挙げられる。これらの技術では独自のバイナリ形式のメッセージを採用しており,その構築と解読にはかなり複雑なシステム機能が必要となるからだ。COM/DCOMやCORBA/IIOPなどの共通基盤が,あらゆるプラットフォーム上で実装されることで相互接続性が実現されると考えられていた時期もあったが,インターネットの世界でそれを期待することは非現実的だ。同一社内や関連企業のシステム間通信をCOM/DCOMで統一する(要するに,Windows NT/2000サーバとIISを導入する)ことは何とか可能だとしても,インターネットにつながるあらゆるコンピュータ,さらには,あらゆる情報通信機器上でCOM/DCOMを実装できる可能性はゼロに近い。これは,CORBAであろうが,EJBであろうが同様である。

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[栗原潔日本ガートナーグループ]