インターネットは「グリッド」へ進化,真のe-ビジネス基盤に
【国内記事】 | 2002.2.28 |
1967年に入社したIBMのベテランが来日,都内で行われている「IBMフォーラム 2002」で同社の取り組む技術革新について話した。
ニック・ドノフリオ上級副社長は,ICやメモリの開発を振り出しに,ストレージ,プロセッサ,PC,サーバに至るさまざまな開発および製造チームを率いてきた。その経験を買われ,現在は先進テクノロジーの開発と製品化に関するIBM全体の戦略に責任を持っている。
ドノフリオ氏は,絶えず進化を遂げているテクノロジー,e-ビジネスを基盤として支えるインフラ,そしてこれらを活用して真のビジネスバリューを生み出すIBMの取り組みについて話した。
「ムーアの法則に限界が訪れるという人もいるが,そうは思わない。プロセッサの性能はそれを凌駕する勢いで向こう10年は進化を続ける」とドノフリオ氏。
IBMは,カーボンナノチューブを利用したプロセッサの開発に取り組んでいることでも知られている。ドノフリオ氏は「10年後には現在のシリコントランジスタに取って代わるかもれしない」と話す。1991年,NECによって初めて発見されたカーボンナノチューブは直径が1ナノ〜数十ナノ程度で,さまざまな用途があり,トランジスタへの応用もその1つ。集積回路の飛躍的な高密度化が期待されているという。
またドノフリオ氏は,スーパーコンピューティングのロードマップを示し,2005年以降には「Blue Gene」と呼ばれるペタフロップス級のコンピュータが出現し,今とは全く異なる世界が開けてくると話す。
ただ,彼はインターネットによるe-ビジネスは,これまでのビジネスのやり方を変えたが,完全に置き換えているわけではないとし,「次のステップに進むには,柔軟で堅牢なインフラが必要だ」とする。
IBMがその未来を賭ける技術としてにわかに脚光を浴びているのが「グリッドコンピューティング」だ。グリッドは,オープンなプロトコルをベースとし,インターネット上に仮想的に構築される1台の巨大なコンピュータといっていい。
「プロセシング,I/O,OS,ストレージ,データ,アプリケーション……,ネット上に存在するリソースを集め,水道や電気のように必要に応じて使える。何年も前から学術分野では取り組まれていたが,いま企業分野でも花開こうとしている」(ドノフリオ氏)
IBMでは,そうしたグリッドコンピューティングには,「Autonomic Computing」と呼ぶ,自己管理機能が不可欠だと考え,Self-configuring(環境の変化に自己を適応させる),Self-healing(自己修復),Self-optimizing(外部に合わせて自己を最適化),そしてSelf-protecting(外部からの侵入を防ぐ)の4つを実装したシステムの開発に取り組んでいる。
こうした技術とインフラの進化に伴い,IBMは得意とする革新的なビジネスバリューをさらに生み出そうとしている。
ドノフリオ氏は,シチズン時計と共同で開発しているWatchPadや,東芝およびソニー・コンピュータエンタテインメントと取り組んでいるブロードバンド時代に向けた「スーパーコンピュータ・オン・チップ」を新しい時代へのイノベーションとして紹介した。
「技術のための技術はもはや過去のもの。技術で自分や人のために何ができるかが真のバリューとなる」とドノフリオ氏。
IBMでの35年は彼にとって目を見張る革命だったが,21世紀はさらにそれを超えようとしている。
「われわれは情報化時代をつくったが,次の人たちは想像を超える世界をつくることになる」(ドノフリオ氏)
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[浅井英二 ,ITmedia]