エンタープライズ:トピックス | 2002年6月03日更新 |
Gartner Column:第49回 ガートナーのベンダー評価: マイクロソフトはPositive
ガートナーのベンダー評価の結果は米本社のWebサイトで公開されている。現在のところ、クライアントだけではなく一般向けにも公開されているが、一部の関連レポートについてはクライアント限定であり、一般ユーザーのダウンロードは有償となっている。
ガートナーのベンダー評価は、ITベンダーの総合的な健全性と各分野における強さを、高いほうから順に「Strong Positive」「Positive」「Promising」「Caution」「Strong Negative」の5段階で評価したものである。ムーディーズやS&Pなどの格付け会社とも類似した方式であるが、これらの格付け会社はあくまでも企業が発行した証券を投資対象として評価するのに対して、ガートナーはユーザー企業がITベンダーの製品やサービスに安心して投資できるかという観点から評価を行っている。
もちろん、証券投資の対象としての格付けが低いということは、経営が安定しないということであり、そのようなベンダーの製品へのIT投資は当然リスキーなので、格付け会社の格付けとガートナーの評価はある程度は一致するはずである。しかし、ガートナーは短期的な業績よりもより長期的なバイアビリティを評価しており、また、バブル的な株高により一見業績好調に見える企業も、そのテクノロジーのユーザーとっての有効性に疑問符がつく場合にはガートナーの評価は低くなってしまうだろう。証券は(うまくやれば)短期的に売り抜けることも可能だが、IT投資については、特定ベンダーを選んだ以上、そのベンダーや製品とは長期的に付き合っていかなければならないため、これは当然のことだ。
今回は、5月28日付けの最新のマイクロソフトの評価をご紹介しよう。総合評価はPositiveである。Strong Positiveではないのは、独禁法、セキュリティ、デスクトップビジネスの成長性鈍化、人材流出などの懸念要因が存在するからである。財務状況と企業戦略はStrong Positiveとしたが、これについて異論を唱える人は少ないだろう。
マイクロソフトの事業ラインはデスクトップ、エンタープライズ(サーバおよびミドルウェア製品)、そして、コンシューマー(MSNやXBoxなど)に大きく分けられるが、デスクトップ事業は文句なしにStrong Positiveだ。このビジネスの成長率は年率7%程度にとどまっているが、依然としてマイクロソフトのドル箱であり、StarSuiteなどの脅威はあるもののマイクロソフトの寡占状態は動かず、ユーザーも安心して投資を行うことができるだろう(ただし、後述のライセンス料金の上昇に関する考慮は必要だ)。
エンタープライズ領域では、WindowsサーバおよびSQL Serverなどの上位ソフトウェア群が、UNIXにプレッシャーを加え続けており、Positiveと評価された。可用性やスケーラビリティの点ではUNIXには一般的に劣るものの「Windowsでも必要にして十分」な領域は今後も拡大していくだろう。
コンシューマ市場はXBoxのつまづきなど経験不足が目立つ分野だが、マイクロソフトの強力な投資意欲と資金力を考慮しPromisingとした。
個別のイニシアチブについて言えば、Webサービスそしてグローバル・クラス・コンピューティング(第3回参照)において、ガートナーはマイクロソフトを高く評価している。
大きな批判の的となっていたセキュリティ問題について、マイクロソフトはようやく本腰を入れ始めたようだが、現時点での評価はCautionとせざるを得ない。第20回、21回、22回でも分析したように、マイクロソフトのセキュリティ問題はテクノロジーというよりも、企業カルチャーに根ざしたものであると考えられるからだ。正しい方向性に向けた努力は評価できるが、その結果が出るのはもう少し先のことになるだろう。
サービス/サポートにおいて価格体系/ライセンシングがCautionとなっているのは、ユーザー側の立場に立ってみた評価である。パソコンの普及率増加に依存するだけでは十分な成長を達成できなくなる以上、マイクロソフトはさまざまな形でのソフトウェア料金値上げを続けていくことになるだろう。
マイクロソフトはコンサルティング事業を含むサービス/サポート事業を大幅に強化している。この領域、マイクロソフト製品中心型の環境では、同社は実行力を大きく伸ばし、Positiveと評価された。しかし、残念ながら、異機種混合環境(要するにほとんどの大手企業の環境)の環境では、同社のサービス/サポート能力は力不足であり、Strong Negativeとせざるを得ない。この状況は今後数年間は変わらないだろう。というよりも、同社は、このような「ややこしい」分野にはリソースを投入したがらない傾向を依然として持っており、パートナーに依存する方向性を維持していくだろう。
このベンダー評価は定期的に更新されている。今後も興味深い評価が行われた際には、適宜、このコラムでも紹介していきたい。
●総合評価 | Positive | |
●企業の長期的存続性 | ||
企業戦略/総合的財務状況 | Strong Positive | |
●事業ごとのポジション | ||
デスクトップ | Strong Positive | |
エンタープライズ | Positive | |
コンシューマー | Promising | |
●製品/サービス/テクノロジー | ||
●主要 イニシアチブ | ||
.NET/Webサービス | Positive | |
セキュリティの課題 | Caution | |
グローバルクラスコンピューティング | Positive | |
中小規模企業向けビジネス | Promising | |
E-ワークプレース/コラボレーション | Caution | |
モーバイル | Promising | |
●顧客サービス/サポート | ||
価格体系/ライセンシング | Caution | |
サービス(マイクロソフトのみの環境) | Positive | |
サービス(異機種混合環境) | Strong Negative |
[栗原 潔,ガートナージャパン]