エンタープライズ:コラム 2002/08/05 22:42:00 更新


Gartner Column:第58回 Webサービスはビジネスになると断言しよう

今回は、現時点において、単なる実験ではなく、ビジネスとしての価値を提供しているWebサービスの事例を幾つか紹介してみたい。

 今回は、現時点において、単なる実験ではなく、ビジネスとしての価値を提供しているWebサービスの事例を幾つか紹介してみたい。

 第53回では、Webサービスは、社内の簡便なシステム統合から応用が進んでいくであろうと述べた。実際、このような事例は増えている。ガートナーが把握している事例の中で、顧客名公開の許可を得ているものの1つとして、オレゴン州の農業局の事例がある。SOAPを使ったシステム統合により、ヘラジカの挙動を監視するためのレポート作成に要していた時間を、6週間からほぼリアルタイムへと短縮できたそうである。ガートナーは、2004年までの間、開発者が8人以下で済むような小規模なシステム統合において、Webサービスが有効な選択肢となるとみている。

 さらに、インターネットの世界でも、数としては多くないが興味深い応用が出現しつつある。一般に、ブラウザ経由で人に対して価値を提供できているWebアプリケーションがあれば、それを、Webサービス化し、プログラムから呼び出し可能にすることで、さらに価値を高められることが多いと言ってよいだろう。

 ひとつの例として、マイクロソフトが欧米で提供開始した有償地図情報提供サービスであるMapPoint .NETを挙げよう。

 MapPoint .NETはスタンドアローン型のアプリケーションであったMapPointのActiveXコンポーネントをラッピングすることでSOAP対応としたものである。

 地図情報の提供など別に珍しくはなく、Webサービスを使用しなくても実現できるではないかという声が聞こえてきそうだ。しかし、人間のWebブラウザ操作ではなく、プログラム中から地図情報を呼び出せることで新たな応用と価値が生まれてくることもあるのだ。

 例えば、テルミー・ネットワークスは、音声認識と合成技術を応用し、道案内情報を画面ではなく一般の携帯電話経由で音声で提供しようとしている。

 英国の大手小売チェーンであるマークス&スペンサーは、日本でも今問題になっている偽造クレジットカード対策のためにMapPoint .NETを活用しようとしている。

 クレジットカードの偽造はスキミングと呼ばれる方法で行われることが多い。他人のカードを磁気カードリーダーに通し、内容を別のカードに複製してしまうのである。同じ日に、別の店舗で同じ番号のカードが使用された場合には、どちらかが偽造である可能性が高い。しかし、たまたま本人が別の店舗で買い物をしただけの可能性もあるだろう(同社の店舗は英国の至るところにある)。

 カードの使用者が同一人なのか否かを判断するために、マークス&スペンサーはMapPoint .NETが提供するドライブ平均所要時間検索の機能を利用している。つまり、仮に車でどれほど急いだとしても到達不可能な時間内で、複数の店舗で同じ番号のカードが使用されたときには、いずれかが偽造であると判定するわけだ。

 これは、地図情報を画面で提供しているだけでは実現できないサービスである点、フロムスクラッチ型の構築ではなく既存アプリケーションをWebサービス化することで実現されている点、そして、明らかなビジネス上のメリットを提供している点で、Webサービスの有効性を証明する重要な事例と言えるだろう。

 また、大手サーチエンジンのグーグルは、SOAP経由でサーチ機能にアクセスできる仕組みをベータ版として無償公開している。どんどんアイデアを出して使ってみてくださいというわけだ。筆者もこの機能を何か有効に使えないものかといろいろと考えてみたが、画面レベルの連携でも実現できそうなアイデアしか思いつかなかった。

 しかし、世の中ににはおもしろいことを思いつく人がいるものだ。インターネット上のミススペル統計を実現した人がいる。例えば、googleのヒット数から見る限り、“ambiguous”を“ambigios”とミススペルするケースが1.13%、“ambigous”とするケースが0.82%あることなどが分かる。

 これだけで有償サービスになり得るかというと疑問だが、少なくとも修正精度が高いスペルチェッカーを開発する上では有効だろう。これも、画面レベルの連携では実現しにくく、Webサービスのプログラムレベルの連携があって初めて実現可能になった機能だ。

 米ガートナーのWebサービス分野のアナリストであるデビッド・スミス氏は、「Webサービスの重要性はインターネットをプログラマブルにしてくれる点にある」としている。現在のWebサービスには未成熟な点が多く、大規模な展開が実用的になるまでには時間を要するだろう。

 しかし、世界中のエンジニアやビジネスマンが、プログラマブル・インターネットの世界で、今までに思いもつかなかった新しいビジネスのアイデアを生みだしてくれることには十分期待できそうだ。

[栗原 潔,ガートナージャパン]