エンタープライズ:コラム 2002/10/28 19:37:00 更新


Gartner Column:第67回 提携と合併――富士通/アクセンチュアやIBM/PwCCの思惑は?

今月からGartner Columnは、4人のアナリストによる持ち回りとなっている。今週は、リサーチディレクターを務める黒須豊氏にお願いをした。今年は、富士通/アクセンチュアやIBM/PwCCのように、大型の提携や合併に踏み切ったIT企業が目立つ。あまりメディアが書かない、それぞれの企業の思惑に焦点を当てている。

 かねてより予測していたとおり、今年は大型の提携や合併が目立つ年となった。これらの提携や合併は果たしてどのような影響をユーザー企業に与えるのだろうか? 今回は、今年発表があった大型の提携や合併として、前者から富士通とアクセンチュア、後者としてIBMとプライスウォーターハウスクーパーズのコンサルティング部門(PwCC)の合併について、それぞれの本音について推察してみよう。

 まず、提携や合併には方向性がある。この方向性を整理してみたい。1つは、垂直型であり、他方は水平型である。垂直型とは、例えば、戦略、設計開発、統合、運用、という各レイヤーにおけるお互いの強弱を補うものを指す。例えば、戦略領域で活躍する企業が開発領域では伸び悩んでいる場合に、開発領域で活躍しているが戦略領域で伸び悩んでいる企業と提携する場合などがある。富士通とアクセンチュアのケースは、まさにこのパターンに分類できる。

 次に、水平的な提携は実際にはあまり多く見られない。なぜならば、水平方向の提携とは顧客ベースの拡大を目的とすることが多く、それは商圏の奪い合いを意味するからである。すなわち、水平方向の企業連携は、提携というよりも吸収合併の色合いが濃くなる場合が多い。IBMとPwCCの合併がその形態と取ったものと言えるだろう。あるいは、ヒューレット・パッカード(HP)とコンパックコンピュータも全く同様である。

 ところで、これらの企業連携における各企業の隠れた思惑とは何か? 

 先ず、富士通とアクセンチュアについては、特にユーザーが注意すべき富士通の思惑について考えてみたい。富士通としては戦略領域の補完を狙い、アクセンチュアは主として統合レイヤー以降の補完を狙ったものであることは間違いない。一部の意見として、この提携は巨大なカスタマーベースにアクセス可能になるため、アクセンチュア側のメリットの方が大きいのではないかという見方がある。

 しかし、富士通の本音を推察すると、実は別の狙いが見え隠れしている。それは、マスコミ発表においては詳しく触れられていない事実だが、両社の単価の差の扱いにある。

 例えば、同じ開発レイヤーであっても、両社のエンジニア単価には大きな差が存在する(富士通の方が安い)。つまり、富士通の本音としては、戦略案件からアクセンチュアの案件として取ることによって、中長期的に下降傾向にある設計開発以降のレイヤーにおける単価の維持向上を期待しているのである。

 次に、IBMとPwCCの合併をどう見るかであるが、まず、米証券取引委員会(SEC)のプレッシャーもあって、監査事業とコンサルティング事業の切り離しは、PwCとしては必然的な選択であった。問題はIBMが買った理由だが、IBMは既にコンサルティングファームが得意とする戦略領域においても、それなりのプレゼンスがある。財務系のコンサルティングにおけるノウハウ吸収という意味においては、垂直的な補完の意味合いもないわけではないが、少なくとも、富士通のケースとは異なることは言うまでもない。設計開発以降の単価も、メーカー系としては最も高価な部類に入る。そして、何よりも、世界のITプロフェッショナルサービス市場のシェアにおいて、IBMは既に首位なのである。

 にもかかわらず、なぜIBMはPwCCを買ったのか? IBMにとって、財務系を中心する戦略コンサルティングに一日の長を持つPwCCのノウハウを得ることが有益であることは確かだが、隠れた本音としては、結果的には失敗に終わったが、2000年にHPがPwCCの買収を試みた記憶があったに違いない。

 2000年時点でIBMがPwCCをどれくらい欲しいと思っていたかは不明だが、コンパックの合併でメインフレームを除くプラットフォーム領域でIBMの強大なライバルとなったHPが、今後コンサルティングをはじめとするプロフェッショナルサービス領域においても、IBMの牙城を狙ってくる可能性は高い。

 IBMの本音としては、HPがPwCCを買収して、一気にこの市場に出てくることに少なからず警戒感を持ったことは容易に推察できる。現在この市場におけるトップ3は、IBMを除けば2社(EDSとアクセンチュア)ともメーカー系ではない。つまり、IBMとしては自社製のハードウェアとソフトウェアを供給するという意味においてほかのライバル2社とは差別化が可能な市場である。

 ところが、もしも、HPがこの市場でIBMの視野に入ってくるとなれば、この構図が崩れてしまう。昨年以降、評価額が2000年に比べて激減していたPwCCに、再びHPが近づく可能性を否定できなかった。また、HPではなくても、ほかのメーカーがPwCCを買収する可能性も十分存在した。

 IBMの本音としては、短期的にはこれを防ぎ、中長期的には、比較的弱い財務系コンサルティングを強化し、たとえHPやそのほかのメーカーがこの市場に参入してきたとしても、財務系のノウハウで差別化されることを防ぐ狙いがあったものと思われる。つまり、この水平型合併は、IBMがPwCCのカスタマーベースを吸収するという意味と同時に、このカスタマーベースがほかの特にメーカー系のライバルに渡ることを防止したものと言える。文化的な統合など、真に効果を出すには課題が山積みな両社の合併ではあるが、少なくとも、対ライバル向けの封じ手としては、短期的にも十分価値があると言えるだろう。

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[黒須 豊,ガートナージャパン]