エンタープライズ:コラム 2002/12/24 19:41:00 更新


Gartner Column:第74回 日本でのCRM普及を目指して(後編)

前編ではROI測定手法を持つCRMユーザーが極めて少なく、そのことがCRMの普及を阻害していると書いた。CRMに対する潜在需要を実需に変えていくための主要なポイントを、2002年8月に行った大規模なユーザー調査の結果をベースに幾つか紹介しよう。

 前編では、CRMの持つ本来の役割はROI(Return on Investment)の向上であるのに、そのROI測定手法を持つユーザーが極めて少なく、そのことがCRMの普及を阻害している、と書いた。後編では、CRMの高い潜在需要を実需に変えるための主要なポイントを、2002年8月に行った大規模なユーザー調査の結果をベースに幾つか紹介しよう。

 日本でのCRMの潜在需要は極めて大きい。2002年8月時点の導入済みのユーザー企業は10%未満だったが、「導入予定」と「具体的な予定はないが興味はある」と答えたユーザーを合わせると、その比率は実に50%近くになる。すなわち、日本におけるユーザー企業の50%がCRMの潜在ユーザーと考えると、CRMの潜在需要がどれだけ大きいかが分かる。

 ところが、実際にCRMシステムを利用しているユーザーに、懸念する事項は何かと尋ねると、

1.費用対効果が不鮮明

2.現場が使いこなせない

3.リーダーシップの欠如

4.変化に対する社内の抵抗

 という項目が上位4つに挙がる。

 しかも、費用対効果が分からない、と答えたユーザーは70%近くになる。言い換えれば、CRM導入に対するROI向上という効果が分らないと答えたユーザーが7割も存在するということで、CRM普及を目指すベンダーにとってこのことは一大事だ。

 さらに、CRMシステムを利用中と導入予定ユーザーに対して、CRMシステムの費用対効果測定手法の有無を尋ると、下の図のように、開発済みユーザー(CRMのすべてに対して)はわずか2%、開発予定まで合わせても、わずか24%程度だ。

fig01.gif

 米国市場でのガートナーの戦略的プランニング仮説は、「2006年までに、CRMプロジェクトの55%は、継続的な効果測定手法を開発できず、期待通りの成果をあげることができない」(可能性指数:0.7)である。この仮説を日本市場に単純に当てはめると、「2006年までに、CRMプロジェクトの76%(先に紹介した調査で“費用対効果測定手法がない”としたユーザー)は、継続的な効果測定手法を開発できず、期待通りの成果を上げることができない」ということになる。しかも、実際にCRMを利用しているユーザーの7割が費用対効果は不明と答えているのだ。

 CRM普及のためには、ROIの測定手法の開発が不可欠であることは言うまでもない。しかし、開発したくても、どうしてよいかさえ分からないユーザーが70%も存在する。CRMの導入予定があるにもかかわらずだ。

 おのずと、ベンダーの役割は、ユーザー企業のビジネス全体と、営業、顧客サポート、マーケティングにおける各ビジネスプロセスを深く理解し、ユーザー企業のビジネスパートナーとして、ROI測定手法開発のサポートをすることになるだろう。

 CRMを利用中のユーザーが懸念する事項は、「費用対効果が不鮮明」だけではない。「現場が使いこなせない」というのも大きな問題だ。

 これは2つの見方ができる。1つは、IS部門と現場(営業/顧客サポート/マーケティング)のコラボレーションがうまく取れていないこと、もう1つは、CRMアプリケーション(SFAやBIツールなど)がITの素人にとって使いやすいものになっていないということだ。

 今や、ITはIS部門が主流になって利用するものでなく、ITに素人の現場社員が主体的に利用するものだ。そうであれば、現場本位の操作性を持つアプリケーションの開発が不可欠になるだろう。

「リーダーシップの欠如」や「変化に対する社内の抵抗」も重大な問題だ。まず、経営者自身にCRMの本来の役割(ROIの向上)を理解してもらうことが必要で、逆にベンダーがユーザーにCRM導入を勧める際には、経営者を避けては通れないだろう。そして、理解してもらえば、その経営者の下、全社を挙げて、CRMを使った顧客中心ビジネスを展開できるような体制も作りやすくなるはずだ。

 また同時に、現場社員による変化に対する抵抗も少なくなるに違いない。この不景気の中、ROI向上が実現できるCRMという戦略の導入に反対する社員がいれば、その社員は企業にとって不要な存在とさえ言えるだろう。

 ROI測定手法の開発は容易ではない。しかし、CRMを普及させるには避けて通れない課題だ。ROI向上に特に大きく影響するような、各ビジネスプロセスにおける指標(例えば、顧客クレームへの平均回答時間、特定項目における顧客満足度、新規商品開発数など)を見つけ出すことがまず重要である。

 そして、それら指標の目標値を設定し、CRM導入前のシミュレーションを実行、さらに導入後は継続的な指標の変化を観測し、最終的にそれら指標によってROIがどう変化したかを、半期や1年などある特定の期間で区切って測定していく地道な作業も必要になるだろう。

関連リンク
▼Gartner Column:第69回 日本でのCRM普及を目指して(前編)

[片山博之,ガートナージャパン]