エンタープライズ:コラム 2003/01/06 17:52:00 更新


Gartner Column:新春特集 2003年のキーワードは運用管理効率化とデータ有効活用

2003年度のIT投資も、景況が大きく改善しない限り、増加に転じる可能性は少ない。CRMやERPなどの導入予定状況を見ても、潜在需要は大きくても、実際に導入を計画するユーザーは減っている。このような状況下でのユーザーの関心事は、既存のシステムをどのようにすれば効率良く、かつ効果的に運用できるかだ。

 景気の大きな回復がない限り、2003年度も2002年度と同様、IT予算を減少させるユーザーが増える可能性が高いが、そのような状況下でも、システム運用管理の効率化と、データの有効活用に対するユーザーの関心は高い。

 ガートナーITデマンド調査室のユーザー調査では、2002年度のIT予算額を前年度に比べて減少させると答えたユーザー数は、増やすと答えたユーザー数を上回り、増減率平均でもマイナス0.7%という結果になった。2003年度でも景気の大幅な回復が見えない限り、この傾向が続く可能性が高い。

 ところで、日本の多くの企業は、IT投資案件に対する予算額を決定する際、何を基準に決めているのだろうか。2002年8月のユーザー調査から以下が明らかになった。

 IT予算額決定基準は、ITに対する企業の考え方によって大きく異なる。ITを経営上最も重要と考える、あるいは競争優位獲得のための手段と考える企業では、経営計画、IT投資効果、翌年度業績などをより重要視する傾向にある。すなわち、そのような企業は、経営環境向上のための先行投資としてIT投資を考える企業が多いということだ。

 一方、ITを経営上重要視していない企業、あるいは単なる合理化や効率化のためのツールとしてしか見ていない企業では、これら経営環境を決定基準としてそれほど重視していない。

 どちらかというと過去の業績(前年度利益額、前年度売上額など)や、自社の戦略結果に関係のない景気動向をより重視する傾向にある。すなわち、ITを競争優位の手段と見ていない企業では、IT投資を先行投資として考えず、予算が余ったらIT投資に回すという程度の考え方である。そして、日本では後者の考え方を持つ企業の方が多いのだ。

 このことから、2003年度のIT投資も、景況が大きく改善しない限り、増加に転じる可能性は少ない。CRMやERPなどのマネジメント系アプリケーションの導入予定状況を見ても、潜在需要は大きくても、実際に導入を計画するユーザーは減っているというのが現状だ(第69回 日本でのCRM普及を目指して)。

 このような状況下でのユーザーの関心事は、既存のシステムをどのようにすれば効率良く、かつ効果的に運用できるか、ということである。システム運用管理のアウトソーシング需要は、このような景気低迷下でも増加傾向にある。例えば、ASP(Application Service Provider)、MSP(Management Service Provider)、システムの一括運用管理、BPO(Business Process Outsourcing)などのサービスだ。

 これらのサービスに対して、ユーザーにとってメリットのある内容と価格を提供することができるベンダーが日本のIT市場で生き残ることができるだろう。もちろん、ベンダー側も、比較的低い価格設定でも、自社の利益を損なわないような体制を整える必要はある。

 また、IT投資効果を数値的に明確にし、ITがビジネスにどれだけ効果的かを証明することも、IT投資を景気に左右され難くするためのひとつの方法だ。ITをビジネス実行上、合理化・効率化のためのツールと考える企業が多いから、IT投資も景気に左右されやすくなってしまう。ITを経営環境向上のためのツールと考える企業を増やすことができれば、景気にも大きく左右されず、先行投資的にIT投資を増やす企業が増えるはずである。

 データの有効活用も2003年のIT市場におけるキーワードのひとつであり、また同時に、ITの投資効果を高めるための必須事項でもある。

 システム上のデータ容量は、インターネットの普及やストレージ装置の低価格化に伴い、爆発的に増えている。ところが、これらの大容量データを有効活用できていると言い切れるユーザーは少ないだろう。

 各システムに分散し整合性の取れていないデータや、単に溜め込んでいるだけで分析もしていないデータ、さらに数種類のアプリケーションを導入したにもかかわらず、プロセス連携が取れていないために、効果が制限されてしまっている場合もあるだろう。

 これらを考えると、データウェアハウス、BI(Business Intelligence)ツール、システム連携やデータ連携のためのEAI(Enterprise Application Integration)やEIP(Enterprise Information Portal)ツール、さらにこれらを使ってデータを有効活用するためのコンサルテーションやトレーニングなどのサービスがより重要になってくるはずだ。ユーザー調査の結果でも、これらデータ有効活用のための製品やサービスの需要は比較的高くなっている。

 2003年度のIT市場のキーワードは、最小限のIT予算で最大限の効果を上げたいユーザーの考えに沿った、システムの運用管理の効率化とデータの有効活用である。そして、これらを実現するための効果的な製品やソリューションを提供できるベンダーが勝者となるであろう。

[片山博之,ガートナージャパン]