エンタープライズ:コラム 2003/01/06 17:56:00 更新


Gartner Column:新春特集 2003年に求められるIT投資とは?

今年の新たなトピックとして付け加えるならば、それは「選択と集中」であろう。使い尽くされているキーワードだが、その重要性はますます高くなっている。「IT予算聖域論」がもはや成り立たなくなっている一方で、あらゆる領域のIT投資を抑えるというような、消極的な発想では企業の競争力そのものを衰退させてしまいかねないからである。

 昨年正月のコラムでは、TCO削減などの「地味な分野」に注目をし、「既にあるものを生かす」という発想で「ローリスク・ミディアム・リターン型」の投資にフォーカスすべきと書いた。これらの提言は今年もそのまま当てはまるだろう。

 日本の経済状況が短期的に向上する見通しはないと言っていいし、同僚アナリストのコラムにもあるように、ガートナージャパンの最新の調査によれば日本国内企業のIT投資意欲も平均して前年比で微減と言う状況は変わらないからだ。

 昨年度の新年コラムと同じ内容をここで再度書いてしまっても違和感はないような気もするが、今年の新たなトピックとして付け加えるならば、それは「選択と集中」であろう。このキーワードはあまりにも使い尽くされているが、その重要性はますます高くなっている。

 例えば、ITベンダーの世界で言えば、最も広範な製品とサービスを提供していると言えるIBMですら、歴史あるビジネスであるHDD事業を日立製作所に売却し、その代わりにPwCコンサルティングを買収するという「選択と集中」を余儀なくされている。IT市場のゼロサムゲーム化が進む中、すべての分野でリーダーになることは不可能であるし、望ましくもないことを十分認識しているのである。

 一般企業のIT投資においても「選択と集中」が今まで以上に必要となっている。いかに経済環境が厳しく、経費削減への圧力が高まっても、IT予算だけは拡大していくという「IT予算聖域論」がもはや成り立たなくなっている一方で、あらゆる領域のIT投資を抑えるというような、消極的な発想では企業の競争力そのものを衰退させてしまいかねないからである。非戦略的分野では効率化やアウトソーシングにより徹底的にTCO削減を行う一方で、戦略的分野、いわば「攻めのIT」では投資を大幅に増やすくらいのメリハリが必要だろう。

 では、「攻めのIT」とは具体的に何を指すのだろうか? これは、企業によりさまざまであり、1つの答を出すことはできない――もし、すべての企業が共通に行うべきIT投資案件があるとすれば、それはもはや攻めのIT(つまり、差別化要素としてのIT)とは呼べないだろう。

 しかし、多くの企業に当てはまる「攻めのIT」の例を敢えて1つ挙げるならば、それはビジネスインテリジェンス(BI)ではないだろうか?

 BIとは、1990年代初頭にガートナーが提唱した概念であり、「エンドユーザーがシステムとの対話的処理を行うことでビジネスに有用な知識を構築するためのプロセス」と定義される。BIの概念は決して革新的というものではなく、遥か昔から、EUC(エンドユーザーコンピューティング)、プロブレムソルビング(問題解決)などの名称で利用されてきたテクノロジーである。

 BIの概念が提唱されてきてから久しいが、DBMSやデスクトップPCの価格性能比向上により、テクノロジー的な敷居が低くなっている今こそ、企業は、この古くて新しいテクノロジーに注目すべきだろう。実際、米ガートナーでも、(BIの概念の提唱者としては恥ずかしい限りだが)今年になり初めてBIに特化したカンファレンスを開催する予定となっている(日本での開催は検討中)。また、海外のBIツールベンダーも日本市場に改めて力を入れているようだ。

 しかし、ガートナージャパンの調査によれば、日本国内企業のBIの利用率は約11%と決して高くない。同じ調査でデータウェアハウスの利用率が約23%となっていることを考えれば、これは不当に低い結果である。

 データウェアハウスにデータを蓄積するだけで、それをBIで活用しない(つまり、定型的な情報系アプリケーションでのみ使用している)という状況はデータを戦略的武器として活用できていないというほかはないだろう。逆に言えば、今、他社に先駆けて効果的なBI基盤を構築できれば、大きな差別化要素とできる可能性が高いわけだ。

 日本の企業にとってITの戦略的活用と言う点で転機をもたらすもう1つの要因となりそうなのは、西友の経営権を実質的に取得したウォルマートの存在であろう。世界最大の小売り業であり、かつ、売り上げで見れば世界最大の企業ともなったウォルマートは、米国企業の中でも最もIT投資に積極的な企業のひとつとして知られている。

 一例を挙げれば同社のデータウェアハウスは推定500テラバイトのデータをサポートしており、民間企業としては最大規模のものである。データウェアハウスのリアルタイム性も高く、BIも広範に展開しているようだ。これだけのIT基盤をサポートしていくためには相当なIT投資が必要なわけであり、まさに、ITを戦略的武器と位置付けるトップマネジメントの決断がなければ実現できないシステムと言えよう。

 ウォルマートが、米国で築いたITのノウハウを活用し、日本でも成功することができたならば、それは流通業のみならず、あらゆる企業のITの戦略的活用の重要なロールモデルとなるだろう。

 最後にまとめるならば、2003年は、「選択と集中」戦略を採り、自社の企業戦略に合致した「攻めのIT」を構築できるかどうかが企業の生死を決定するような年となると言っていいだろう。

[栗原 潔,ガートナージャパン]