エンタープライズ:コラム 2003/02/10 11:41:00 更新


Gartner Column:第79回 日本は本当に「メインフレーム大国」なのか?

日本は「メインフレーム大国」と言われているが、だから遅れている市場だと捉えるのは短絡的に過ぎる。本当の問題は、メインフレームが必要でない領域でも惰性でメインフレームを使用し続けたり、実はメインフレームが必要なほどの高要件の領域なのに無理やりにUNIXやWindowsへ移行しようとすることだ。

 市場シェアから見る限り、日本はメインフレームが最も売れている国のひとつである。だが、それだけをもって、「日本はメインフレーム大国であり、遅れている」「米国はメインフレームから脱却しており、先進的である」と考えるのは、ちょっと短絡的に過ぎる見方だろう。

 日本国内のメインフレームのサーバ全体に占めるシェアは金額ベースで、およそ30%である。米国をはじめとする他国では、この数値は10%台なので、確かに日本ではメインフレームが売れているということができる。

 では、米国でメインフレームが売れていないかというとそういうわけでもない。米国で新規メインフレームの販売ほとんどIBMによるものであるが、IBMの新型メインフレームであるzSeriesは、2001年に米国において爆発的に受け入れられ、金額ベースの総売上高は前年より増大した(これは、1989年以来のことである)。

 ハードウェアの性能当たりの価格は継続的に低下していることから、金額ベースで伸びるということはかなりの需要増と言うことなのである。

 一般的に言って、米国の大手メインフレームユーザーの購買対象は上位モデルに集中している。超大規模なトランザクション処理やデータウェアハウスなどの集約された環境でメインフレームを活用するケースが多いのである。

 このガートナーコラムの第60回61回、そして62回にも書いたように、このような環境ではメインフレームは依然としてほかのプラットフォームに対するテクノロジー的な優位性を維持しているとガートナーは考えている。つまり、米国のこれらのユーザーは、メインフレームが最も得意とするところ(さらに言えば、メインフレームでなければできないところ)にメインフレームを使っているのである。

 逆に、米国のローエンドのメインフレームユーザーは、UNIXやWindowsへの移行を積極的に推進している。IBMは、対抗策として、z800という低価格モデルを発表したり、メインフレームのLinuxサポートを推進しているのだが、このような移行の動きを完全に食い止めるには至っていない。ハイエンド以外の領域では、価格性能比と上位ソフトウェアの品ぞろえの点で、主流UNIXやWindowsが優位性を持つからである。

 これに対して、日本ではハイエンドのメインフレームは米国ほど売れておらず、多くのユーザーが下位モデルを購入している。ガートナーの小規模ユーザーの基準(500MIPS以下)を適用すると、日本の企業の多くが小規模ユーザーとしてカテゴライズされてしまう。

 実際、このような日本市場の特異性に対応するために、IBMは、デチューン(性能をわざと低下させるための「逆チューニング」)により性能と価格を抑えたモデルを日本向けのみに販売していた。米国で販売されているモデルでは最小構成でも「速過ぎる」からである。

 ちなみに、このようなデチューンはマイクロコード(アプリケーションプログラムからは見えない内部的ソフトウェアと思えばよい)に空ループを挿入することで実現されることが多い。ユーザーが必要な料金を支払えば、ハードはそのままでマイクロコードの入れ替えだけで、アップグレードすることができるわけである。

 デスクトップPCの世界ではプロセッサのユーザーによる勝手なオーバークロックが許容されていることを考えれば、メーカーの都合で人為的に性能を落としているのは、ちょっと「ずるい」ように思えるかもしれないが、メインフレームの世界では昔から行われてきた手法である。ユーザーは、コンピュータのハードと言う金物を買っているのではなく、ハードが提供する処理能力を買っているという発想である。

 UNIXサーバの世界でも、第59回で述べた「置き薬コンピューティング」、つまり、プロセッサが実際に顧客のマシンに装備されていても使用していなければ料金が発生しないタイプの販売形態が利用され始めているが、これも同じ考え方である。

 日本では国産ベンダーのメインフレーム製品も数多く使用されている。そして、国産ベンダーは、IBMよりもさらに小規模のメインフレームを多数販売している。要件だけから言えば、十分PCサーバに移行可能な環境で、多くのユーザーがメインフレームの利用を続けている。これが、日本のメインフレームの市場シェアを押し上げている最大の要因である。いわば、日本はローエンドメインフレーム大国なのである(その流れで言えば、米国はハイエンドメインフレーム大国と言ってしまってもよいかもしれない)。

 メインフレームを使用すること自体が問題であり、UNIXやWindowsへ移行すれば問題が解決されると考えるのは、少し短絡的に過ぎるだろう。真に問題なのは、本当にメインフレームが必要でない領域でも惰性でメインフレームを使用し続けていること、そして、本当にメインフレームが必要なほどの高要件の領域で無理やりにUNIXやWindowsへ移行しようとすること、つまり、適材適所の考え方ができていないということなのである。

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[栗原 潔,ガートナージャパン]