エンタープライズ:コラム 2003/03/17 18:43:00 更新


Gartner Column:第83回 サンは再びコストイノベーターとなれるのか

恒例のアナリトスカンファレンスでサンは、「スループットコンピューティング」戦略とプロジェクト「Orion」を発表している。かつて、UNIXワークステーションとサーバで2度、コンピュータインダストリーを変革したサンは、再びチャレンジを始める必要がある。

 サン・マイクロシステムズによるワールドワイド・アナリスト・カンファレンスが2月末に行われた。そこでのアナウンスなどについては同僚アナリストが正統的な分析を行ったであろうから、私は少し違った視点から検討を加えてみたい(第81回 地味だが中身は濃かったサンのアナリストカンファレンス)。

 今年のアナリストカンファレンスでサンは、「スループットコンピューティング」戦略とプロジェクト「Orion」を発表している。

 スループットコンピューティングでは同時に数十ものスレッド処理を実行できるチップマルチスレッディング(CMT)技術を採用した新たなSPARCチップによって、データ処理を格段に高速化することを目指している。また、プロジェクトOrionではソフトウェアの設計、開発、提供に全く新しいアプローチから取り組み、現在のソフトウェアインフラのコストダウンとシンプル化を目指すとしている。ただし、Orionに関しては全体像の一部のみを披露したものだ。

 ところで、サンは、これまでにイノベーターとしてコンピュータインダストリーの変化の中心に少なくとも2度いたと言っていいだろう。

 最初はその創業時である。アポロを筆頭に固有アーキテクチャをベースとするエンジニアリングワークステーションがその覇権を競い合う中で、モトローラ68000系CPUとバークレー版UNIXをベースに参入してきたのがサンであった。比較的安いが既存の固有OSをベースとしたワークステーションが提供する機能に到底及ばない、というのが当時の競合やインダストリーアナリストの評価だった。しかし、実際には競合のほとんどが市場から姿を消し、サンが生き残るばかりか、大きな成長を遂げたのは読者が目にしているとおりである。

 それは、従来あった価格性能比のレンジを破壊すると同時に、「オープンシステム(=UNIXベースのシステム)」のトレンドを演出し、その中心に位置することができたからと言える。オープンシステムは、固有アーキテクチャへの囲い込みとそれに起因する保有コストの割高感を回避できるという期待を背景にして急速に広がっていた。

 つまり、価格性能比のイノベーションが当時のサンにとっての推進力であったならば、UNIXの選択とオープンシステムコミュニティーへの積極的な協力と貢献の姿勢は揚力を得るため翼であったとたとえることができるだろう。

 2度目は、インターネットの商用利用とWebの急速な普及を背景としたものだ。このときは、サーバ領域でのコストイノベーションが新たな成長の推進力であり、Javaが揚力を産みだしてきたと言っていいだろう。

 そして、そのイノベーションを起点とする成長が止まった今、サンは再びチャレンジを始める必要があるはずだ。今年のアナリストカンファレンスでのアナウンスは、それを感じさせるものだったろうか?  また、納得の行く方向性を指し示すものだっただろうか? システムインフラを再定義し、そこでのコストイノベーターとなる、というのが今回のメッセージならば、あらたなチャレンジの意思は確認されたといっていいだろう。

 チップ内でのマルチスレッドを実現することによるコンピューティングコストの低減と、Webアプリケーションサーバ層までを含む形で再定義されたシステムインフラストラクチャの管理可能性とコストの削減を追求するというプロジェクトOrionは、3度目のコストイノベーションを仕掛けるという宣言となっている。

 しかし、これだけならばJava登場前の状態と同じである。風はどこに向かって吹いているのか? 新たな「翼」はどのような形をしているのか? どうやって準備するのか? プロジェクトOrionの中でそれらが将来姿をみせるのだろうか?

 今回のアナリストカンファレンスには登場しなかったが、サンのグルたちは今、何を、そしてどのように議論しているのだろうか。気になるところである。

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[浅井龍男,ガートナージャパン]