エンタープライズ:インタビュー 2003/04/17 22:24:00 更新


Interview:ノベルCTOに聞くWebサービスの理想と現実

「確かに、言われているWebサービスの理想と現実の間にはギャップがある」――ノベルのCTOを務めるアラン・ヌージェント氏はこのように指摘し、現状に対する処方箋について説明した。

 BrainShare 2003において、NetWareにとらわれずLinuxにも同様のサービスを提供していくという方針を打ち出したノベル。他にもいくつかの発表があったが、それらを追っていくと「マルチプラットフォーム対応」「Webサービス」「アイデンティティ管理」といったいくつかのキーワードが浮かぶ。ノベルのCTO(最高技術責任者)を務めるアラン・ヌージェント氏に、これらを結ぶ同社のグランドビジョンと市場動向を聞いた。

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なんと日本語でにこやかに挨拶してくれたヌージェント氏。だがその指摘は示唆に富んだものだった

ZDNet BrainShare 2003では、NetWare上で実現されているサービスをLinuxカーネル上にも拡張するという発表がなされました。ただこれは、ノベル1社でできることではなく、何らかの提携が必要ではないでしょうか?

ヌージェント 提携に関してですが、現時点ではまだ具体的な計画があるわけではありません。また別の機会を設けて発表する予定です。ただ、Linuxへの拡張を成功させるためには良いパートナーが必要だということは認識しています。これから2〜3週間かけて、Linuxに関する計画の詳細を詰め、より良いポジションを作り上げていくつもりです。

 BrainShareにおける発表の目的は、今後の方向性を示すことにありました。顧客は選択肢を望んでいます。それと同時に、セキュリティや信頼性、スケーラビリティといった要素に加え、(NetWareと)同等のサービスも欲しています。そこでわれわれは、NetWareのすべてのサービスを、NetWareとLinux、両方のOS環境で提供すると表明しました。ですが、パートナーの選択までには至っていません。これはハードウェアについても同様で、ヒューレット・パッカードやNEC、富士通など、あらゆるハードウェアパートナーとの間で、この件について協議を始めています。

ZDNet マルチプラットフォーム対応というからには、Linux以外のプラットフォームへも展開しないのですか?

ヌージェント ノベルは既に、いくつかのサービスを他のプラットフォームにも提供しています。例えばeDirectoryはSolarisやWindows、AIXで動作しますし、NetMailもそうです。われわれは、市場や顧客のニーズに応じて、これらのサービスを他のプラットフォームへも展開しようと計画しています。

 われわれは顧客の声に耳を傾け、それにうまく応えていると思います。顧客のリクエストの中でも大きかったのは、NetWare以外のプラットフォーム、例えばLinux上でもサービスを利用できるようにすることでした。ノベルでは、NetWare上のサービスだけでなく、サポートやトレーニングといった側面も提供していくことにより、Linuxを、多くの企業にとって非常にリーズナブルで優れた選択肢にしていくつもりです。ノベルは、ニーズに応じてマルチプラットフォームをサポートすると言明しています。

ZDNet ところで、最近の大きなトレンドであるWebサービスですが、これは企業ITシステムをどのように変えるのでしょう?

ヌージェント 1つ目は、非常に多様な多くのユーザーがエンタープライズアプリケーションを利用できるようになることです。現在のエンタープライズアプリケーションの大半は、例えば経理や発注、在庫システムなど、特定のビジネス分野に特化したものになっており、それぞれ部署や役割ごとに個別にアプリケーションを利用しています。Webサービスはそれを拡張し、これらのアプリケーションを利用し、さらには働き方までを変えていく手助けとなります。

 また、Webサービスが登場する前は、今言ったことを実現しようとすると、一からアプリケーションを作り出す必要がありました。しかしWebサービスを活用すれば、既存のシステムを再利用できます。これは新たなビジネスチャンスも生み出します。異なるWebサービスを組み合わせ、接続することにより、それぞれのビジネスに適した新しいWebサービスを作り出せるのです。

 もう1つはシステムのリプレースに関するメリットです。ひとたびWebサービスを導入しておけば、バックエンドシステムをリプレースする必要に迫られたとしても、インタフェースまで作り変える必要はありません。移行に関して大きなチャンスが生まれます。

ZDNet しかし、Webサービスの理想と現実の間にはギャップがありますね。

ヌージェント そのとおりで、宣伝はしても実現できていないケースが見受けられます。これはいくつかの企業にとって大きな問題です。これに対してノベルは、非常にユニークなポジションにあります。既に多くの企業顧客が、われわれの製品を用いて、Webサービス上でアプリケーションを実現し、導入しているからです。プロトタイプや評価導入ではありません。

 Webサービスの導入を妨げている要因は3つ挙げられるでしょう。1つは、標準仕様が完全に定義されていないこと。2つめは、使いやすさに欠けていることです。大半の人にとって、Javaのプログラミングはまだ難しい作業ですから。それから3つめの原因は、アイデンティティ管理の統合が欠如していることです。

 ノベルはこれら3つの障壁に対するソリューションを用意しています。まず、標準化団体に参加し、積極的に仕様策定に関わっています。2つめの使いやすさについては、「exteNd」があり、これがあればJavaプログラマーである必要はありません。さらに安全なアイデンティティ管理も提供します。デモンストレーションでお見せしたように、ノベルはアイデンティティ管理とWebサービスを統合できるのです。さまざまな調査・分析からいっても、Webサービスの課題はこの3つに集約されるのですが、ノベルはこれらに対する優れた答えを用意しています。

ZDNet では、Webサービスに限らず、企業ITシステム全般における課題には何があると思いますか? セキュリティでしょうか?

ヌージェント 企業は2種類の問題を抱えていると思います。1つは技術上の問題。もう1つはお金の問題です。技術上の問題としては、複雑さが挙げられるでしょう。IT組織は常にこの問題に取り組んできました。ただこの問題も、結局は、コストや予算に行き着くものです。CIOが抱える課題リストの上位には、セキュリティや複雑さへの対処、管理といった項目が必ずといっていいほど並びますが、これらは結局は予算の問題だとも言えるでしょう。ただ、技術的な課題の上位3位を挙げるとすれば、複雑さとセキュリティ、それから、ビジネス上の要求にいかにITチームが対応していくかということです。

ZDNet 今回はあまり触れられなかったeDirectoryの今後について教えてください。次世代ディレクトリの「Destiny」はいったいどんなものになるのでしょうか?

ヌージェント まだすべてをお話しすることはできませんが、Destinyはノベルにとって非常的に戦略的なものです。

 Destinyの第1の目的は、新たなディレクトリアーキテクチャを作り上げることです。つまりモジュラー化ですね。新しいディレクトリの枠組みを作り上げ、その中に特定のコンポーネントを組み入れられるようにします。LDAPが必要ならLDAPのコンポーネントを、UDDIが必要ならばUDDIをという具合です。これは現時点でも実現は可能なのですが、かなり煩雑なプログラミング作業が必要になります。そこで、次世代のeDirectoryアーキテクチャでは、これをもっと簡単にできるようにします。並行して、ディレクトリ用コンポーネントを作り上げ、その上で価値を実現するために、多くのパートナーと協力していきます。

 同時にパフォーマンスの向上も図ります。レスポンス速度の面で改善を図るのはもちろん、拡張性も追及します。今でも(eDirectoryには)10億のオブジェクトを格納できますが、これを100億か、できればそれ以上に拡張していきたいと考えています。もう1つ、重要な要素が「フェデレーテッド(協調型)アイデンティティ」です。

ZDNet これはいつ市場に登場しますか?

ヌージェント 2004年第1四半期に出荷の見込みです。



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[聞き手:高橋睦美,ITmedia]