エンタープライズ:ニュース 2003/06/11 21:34:00 更新


東大の伊藤教授、「生き残りたいなら競争企業を消せ」

日本ユニシスの「Business & IT Strategy 2003」のキーノートで、東京大学大学院経済学研究科の伊藤元重教授が講演した。企業が生き残る方法は、「競合相手を消滅させる」「もっとがんばる」「人と違うことをやる」の3つしかないという。

 日本ユニシスは6月10〜11日、同社の今後の戦略や、ユニシス研究会の研究成果について紹介するカンファレンス「Business & IT Strategy 2003」を都内のホテルで開催した。キーノートでは、東京大学大学院経済学研究科の伊藤元重教授が「変革の時代の企業経営」をテーマに講演を行った。同氏は、企業が市場競争で生き残る方法は、「競合相手を消滅させる」「もっとがんばる」「人と違うことをやる」の3つしかないと話した。

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「ITで儲かるのはITインフラを提供する企業ではなく、IT化できないビジネスをITを使ってやる企業」と話す伊藤氏。

 講演の冒頭、伊藤氏は多くの来場者を見渡し、「ほとんどが40〜50代の中高年の男性で女性の姿は非常に少ない。これ自体が日本の戦後のサラリーマン社会を象徴している」と切り出した。同氏は、米国では既にクリントン前大統領の婦人であるヒラリー氏やヒューレット・パッカードのフィオリーナCEOなど、女性が十分に社会進出しているが、日本ではまだ女性を生かし切れておらず、逆に今後の成長の源になると話した。

 同氏は、日本のマクロ経済について、デフレ下で銀行融資残高420兆円もあることに触れ、「構造調整にはまだ5〜10年はかかかる」とする。しかし、この構造調整が企業として生き残るためのビッグチャンスであり、「今ほど経営者にマクロ経済の潮の変化を見る目が求められる時代はない」と加えた。

競争相手を消せ

 具体的な例として挙げられたのが、ダイエーとイトーヨーカドーの歩みだ。高度成長期の1972年、ダイエーが売上高1位であったのに対し、イトーヨーカドーは14位。イトーヨーカドーの伊藤雅俊社長は「石橋を叩いて渡らない」ほど慎重な経営をする一方、ダイエーは知られるとおり、拡大戦略を身上としてきた。ダイエーの戦略は、1980年〜90年代のバブルを伴った好景気には功を奏し、小売業市場における絶対的な存在感を確立した。

 しかし、現在は、ダイエーが過重債務に悩まされる一方、イトーヨーカドーは健全な財務体質と好業績を維持している。イトーヨーカドーや、先日小売日本一に躍り出たイオンの好調さの裏側に、ダイエーの低迷があることは明らかという。バブル時の正解は不況下の不正解であり、ダイエーには潮目の変化を見誤ったツケが回っていると考えるのが自然だ。「競争相手が消滅するように仕掛ける」という伊藤氏の戦略にもリアリティが出てくる。

マスマーケティングは終わった

 また、マスマーケティングの終焉も同氏の持論だ。一世を風靡したユニクロのフリースは、以前なら5000円してもおかしくない製品を1980円で販売した。しかも、中国で生産する一着当たりのコストは380円。粗利は5割を超えるほどのすばらしい戦略商品だったという。しかし、限界は意外にもすぐ、日常生活の中で見え始めていた。

 「バスの中でもどこでも、同じ服を着た人に遭遇してしまうのです」(伊藤氏)

 ユニクロは、すべての消費者を対象とするマスマーケティングの限界にぶつかった。

 この苦悩を解消するためのヒントとにもなりうる事例が、この日の講演で同氏から紹介された。「まずいー、もう一杯」のキャッチコピーで一躍有名になったキューサイの青汁だ。同社は元々、健康食品市場で特に珍しくない新製品を販売する予定だったという。しかし、市場の特性から、競合企業の追随は早く、厳しい競争になってしまうことが多かった。

 そこで、顧客との接点を見直し、マーケティングを深堀戦略に切り替えた。自社にとって大事な客をターゲットに、パーミッションマーケティングの視点に立ったという。パーミッションマーケティングは、顧客が許可を与えることにより、企業が情報を発信したり、商品やサービスの提供が許されるという考え方のこと。これにより、競合製品の登場によるコスト競争にもすぐには巻き込まれず、利幅の高いビジネスを展開できたという。

吉野家が牛丼を280円にした理由

 また、伊藤氏は、吉野家が牛丼1杯を280円とする価格戦略について触れた。理由は明快で、「従業員1人が1時間あたりに対応する客数を以前の10人から17人に引き上げたかったから」という。その上で、牛丼自体の味にも同社のさまざまな仕掛けが盛り込まれている。

 伊藤氏は高級店の牛丼について、「ほんとに旨い。これで1年は食べなくていいと思ってしまう」と表現した。一方で、吉野家の牛丼は、味の濃い汁を使わず、白ワインで煮ることで「あっさり感」を出しているという。毎日でも飽きずに食べられる味が、吉野家を支えているというわけだ。

 この日一番考えさせられたのは、「もっとがんばる」の話。伊藤氏の知人は着物屋を経営していたという。時代の流れに従い、着物を着る人も少なくなり、市場は一頃と比べて半分になった。しかし、この知人はとても元気そうだったという。

 「一生懸命仕事をしていたら、競合他社がみんな倒産してしまったのです」

 とにかく頑張ることで勝ち取った独占市場だ。

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[怒賀新也,ITmedia]