エンタープライズ:コラム 2003/07/28 15:37:00 更新


Gartner Column:第103回 日本ベンダーに求められるのは国際的エコシステムの構築

ハードウェアやソフトウェアの技術において、日本ベンダーが特に劣っているということはないものの、国際的なエコシステムの構築は苦手だ。しかし、それをうまくやらなければ、日本は世界の下請工場となってしまうリスクを負うだろう。

 2年前にガートナーが米国で開催したストレージカンファレンスにおいて、来場者に対してストレージ製品の満足度調査が行われた。そこで最高得点を得たのはHDS(Hitachi Data Systems:日立の米国子会社)の製品であった。特に、信頼性については他を圧倒する高得点を得た。HDSが米国国内の市場シェアの点ではトップクラスではないことを考えると、これは興味深い結果である。

 話は変わって、今、最もスケーラブルなUNIXサーバ製品は何かご存じだろうか? 何をスケーラビリティの基準とするかはあるが、現実世界のOLTP性能を比較的よく表しているというSAP R/3 SDベンチマーク(2層)の結果から見れば、それは、富士通のPRIMEPOWER 2500(128CPU)である。PRIMEPOWERは、Sun MicrosystemsからSPARCおよびSolarisのライセンス供与を受けて富士通が独自のハードウェアを開発した、いわば、サンの互換機であるが、既に本家を上回る性能を達成できているのである。これは、富士通のメインフレーム、スパコン、通信などの総合的技術力を結集した結果だろう。

 これらの例を見てみると、少なくとも、高性能かつ高信頼性のハードウェアの開発製造能力という点では、日本ベンダーの国際競争力は高いという事実は依然として変わらないと思える。

 また、日本はハードには強いがソフトには弱いという一般論が聞かれることがあるが、少なくとも個別のソフトウェアの品質という点では、国内ベンダーが米国と比較して大きく劣るかという全くそんなことはないと考える。

 では、どうして、日本ベンダーの世界のIT市場に対する影響力は弱まっているように感じるのであろうか? 実際、ガートナージャパンが定期的に行っているベンダーイメージ調査においても、日本ベンダーの先進性に対する評価は年々低くなっている。日本ベンダーの弱みはどこにあるのか?

 一般に、日本ベンダーの弱さはエコシステムの構築にあるのではと筆者は考える。特に国際的なエコシステムの構築である。

 エコシステムとは、かなり以前のこのコラム記事でも述べたが、他社とある局面では競合しつつも協力し合うことで市場のパイと顧客への価値を高め、全員がメリットを得られるようにするという市場の共存共栄関係を、自然界の生態系にたとえたものである。

 例えば、Windowsの世界ではエコシステムがうまく機能している。各ハードウェアベンダーは競合しつつ、Windowsの世界を広げるという点では協力している、また、MicrosoftはIBMやOracleといったほかのベンダーと競合しつつも協力関係にもある。結果として、Windowsの世界では関連ソフトウェア群やスキルも世の中に普及し、結果としてWindowsという製品も広く普及した。

 エコシステムを成功させるためには、敵を援助するような臨機応変な考え方、呉越同舟のベンダーを率いるカリスマ性のあるリーダーシップ、市場の注目度を一気に集めるような強力なマーケティングなどの要素が必要とされるだろう。正直、あまり日本ベンダーが得意とする領域ではないように思える。しかし、ここをうまくやらなければ、日本は世界の下請工場となってしまうリスクを負うだろう。

 この観点から最近の情報家電向け組み込みOSの動きについて見ると興味深い。

 TRONの一構成要素であるITRONは組み込み機器、特に、携帯電話では圧倒的なシェアを有している。リソース消費量が小さくリアルタイム性が高いOSであるITRONは、テクノロジーとして見れば将来の組み込み機器向けとしては最右翼であろう。

 しかし、最近では、松下電器とソニーらが、情報家電向けの「CE-Linux」の共同仕様策定で合意した。明らかにテクノロジー的には優れているITRONではなく、Linuxがベースとして採用されたのは、ITRONの世界では共通して使用できるツールやミドルウェア群が不足していた点が大きかったらしい。つまり、Linuxにおけるエコシステムに相当するものが、ITRONの世界にはまだ確立していなかったということであろう。

 今後、テクノロジー、特に、基盤系のテクノロジーを世に普及させるためには国際的エコシステムの構築が必須であろう。「そんなことをしたらすべて米国大手ベンダーのコントロール下に置かれてしまう」という声が聞かれそうだ。もちろん、そのようなリスクはないとは言えない、しかし、逆に、コントロール下に置かれているようなふりをしつつ、相手をコントロール下に置くことができるかもしれない。それぐらいの図太い神経でやっていかなければ、日本発のテクノロジーが世界で主流になることはできないだろう。

[栗原 潔,ガートナージャパン]




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