エンタープライズ:ニュース 2003/08/11 18:56:00 更新

Oracle vs. DB2――仁義なき戦い データベース編
第1回 再燃するデータベース業界のシェア争い

1990年代後半、RDB市場のシェア争いにケリをつけたOracleだが、今、IBMから激しい揺さぶりを受けている。IBMは昨年から、市場調査会社のデータを振りかざし、磐石だったこの市場に「地殻変動」が起こっていることを強調する。再燃したデータベース業界の「仁義なき戦い」を総力取材する。

 もうデータベース業界では、だれもマーケットシェアのことなんて口にしないのかと思っていた。争点はとっくの昔に別のところに移り、データベースベンダーたちはそれぞれ自分たちの実力にふさわしい居場所を見つけて平和に暮らしているのだとばかり思っていた。ところが、実のところ、火種は残り、ブスブスと見えないところでくすぶっていたのだ。

 シェア争い再燃のきっかけは、1年前に発表された調査会社の数字だった。以来、IBMとOracleは、舌戦を繰り広げている。

 正面切って狼煙を上げたのはIBMだ。2002年5月に行った一つの報道発表がそれだった。ガートナー データクエスト部門の調査によると、データベース管理システム市場において、IBMが2001年度の新規ライセンス収入で世界トップになったことを告げるものだった。

 「首位の座を奪われた」とされたOracleがそれに異議を唱えた。過去のインストールベースを全く無視し、新規ライセンス収入だけで市場首位を宣言するのは実勢を正しく反映していないというのだ。日本オラクルは特に、「世界はともかく日本は情勢が発表とは全く異なる」と語気を強めた。

 数字というのは不思議なもので、それが細かければ細かいほど妙な信憑性を帯びる。グラフにもチャートにも加工しやすく、視覚に訴える。しかし、その数字がだれによってどのように導き出されたかという点については、意外に深く追求されない。ここに大きな注意を払わなければならないだろう。

 実際、ある企業のマーケティング担当者が筆者に打ち明けたことがある。「出荷本数では勝ち目がないから、出荷金額を比較の対象にした。それによってグラフの形勢はガラッと変わった。顧客は素直に信じてくれた」と。膨大な労力をかけて導き出された調査結果を決して疑うわけではないが、やみくもに論拠とするようなことは避けなければならない。

 データベースベンダーたちの舌戦が激しくなった背景の一つに、このソフトウェア製品の適用範囲が大幅に広がったことと、今日のデフレ経済があるような気がする。

 オンラインショッピングサイトで、一日300点ずつ増え続ける商品の属性情報や在庫情報を格納するのに必要なデータベースもあれば、部門の業務システムで人事情報システムを参照するためのポインタを格納する入れ物としてのデータベースもある。

 また、右肩上がりの売り上げ増加がなかなか見込めない昨今では、湯水のように情報システムに投資するわけにもいかない。おのずと製品購入に出せる金額も限られる。そうした中、一つのデータベース製品ですべてのニーズを満たすことは難しくなっているのではないか。問題は、そのボリュームゾーンが今どのあたりにあるかということだ。

 筆者の拙い推測に、答えを示してくれるのはだれだろう? つまり、日本におけるシステム開発のデータベース導入の実態を、最も知っているのはだれだろう? 顧客との接点が多いハードウェアベンダーかもしれない。それともシステム提案を受ける機会の多いシステムインテグレーターかもしれない。企業の間で最も投資意欲の高いといわれるアプリケーション、ERPやCRMパッケージを販売しているベンダーかもしれない。もしかしたらエンドユーザー企業を個別に訪問しなければ、本当のことは分からないのかもしれない。この特集を通じ、藪の中に分け入って、真実に近づく試みをしてみたいと思う。

 もう一つ、この特集で調べてみたいことがある。それは「今日、エンドユーザー企業にとって、ITプロダクトのマーケットシェアとは何なのか?」ということだ。この競争の実像を追いかける取材で、この競争の空しさを明るみにすることになるのかもしれないのだが、読者にとっても興味のあるテーマではないだろうか。

 1990年代後半までは確かに、「勝ち馬に乗れ」を合言葉に、エンドユーザー企業の多くはマーケットシェアを製品選択の指標として重視してきた。しかし、あれから企業経営も徐々に変化している。みんながみんな「他社が入れたからわが社も」と判断するようなことはなくなっていることを、筆者は日ごろの取材で実感している。

 一体、マーケットシェアは今でも重要な製品選択の指標なのか? もしかしたら製品を提供する側が予想しているのとは全く違う視点で、エンドユーザー企業は製品を選ぶようになっているのかもしれないではないか。そうした変化についても合わせて追いかけていきたい。

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[吉田育代,ITmedia]