エンタープライズ:コラム 2003/08/25 13:45:00 更新


Gartner Column:第107回 日本の製造業のためのコラボレーション環境とは?

製造業向けソリューションのベンダーからコラボレーションという言葉を聞かない日はないほどだが、実際のところ日本の製造業企業でのコラボレーションの特徴はどのようなもので、なにが必要とされているのだろうか?

 ERPやPLMなどに代表される製造業ソリューションの世界でも、コラボレーションという言葉が多く使われるようになってきている。コラボレーションを支援するとされている機能の多くが、実際にはネゴシエーションや情報の共有といった内容の場合が多いということは以前のコラムで触れたことがある。

 とはいえ、コラボレーションの必要性が減じているというような話ではなく、その重要性はますます増してきている。ただ、日米では製造業企業の関心の違いあり、それがコラボレーション機能に対する要求の差となって表れていることが予想できる。日本企業は自ら求めるところを意識的に明確化し、必要な製品機能を要求していく努力が必要だろう。

 では、SCMを例にして、日本と米国の差というのがどのようなものなのかを考えてみたい。

 SCMの標準的な方法論は、当時経済の牽引役であったIT産業やハイテク産業からの要求にこたえる形で発展してきた要素が大きい。これらの企業は、「選択と集中/バンドルとアンバンドル」という言葉で知られる戦略的アウトソーシングを軸に事業を構築し、株主の利益の最大化を運営上の主題としていたのであるが、そこでの最大の関心は、「どうやって作るのか」という点にあるのだといってもいいだろう。

 組み立て加工業向けSCMの標準的なシナリオの源流がトヨタ自動車のカンバン方式であるのは有名な話だ。であればこそ標準シナリオにおけるコラボレーションが結局は下請けをシンクロナイズさせるための調整やネゴシエーションを意味することになるのは当然の結果だとも言える。

 これに対して、日本のメーカーが「どうやって作るのか?」という問題に加えて大きく焦点を当て始めているのが「何を創るのか?」という点であり、コラボレーションという言葉もこの文脈の中で解釈されたり要求されたりすることが多い。別の表現をすれば、製品ファミリーを展開する中で製品スペック(仕様)の迅速な変更を垂直統合的な環境の中で行うためのコラボレーション環境を日本の先進的なメーカーは求めているとも言うことができる。

 当然、業界ごとに求める内容は異なるであろうし、そもそも「日本のメーカー」とひとまとめにして議論すること自体が乱暴な話だというのは承知しているが、複数の業界でリーダーと目される企業との議論からは、これまで記述してきたようなコラボレーション環境がこれから行うべきこととして共通に認識されているさまがうかがえる。

 「何を創るのか?」を中心的な課題とするとき、それにこたえるコラボレーション環境の持つべき要件とはどんなものかを考えるにあたって、次の事柄を出発点として議論を進めていくことができそうだ。それは、まず「何を」が明確に(そしてできれば柔軟に)表現され、「創る」場に参加するさまざまな立場の人々に了解可能な形で共有される必要がある、ということである。

 ここで注意してほしい点は、「どうやって作るのか?」という問題が、「この段階でだれと何をして、それがクリアできたらどこそこに承認を得た後、製造部門に伝達する」などといったプロセスとして記述できるのに対して、「何を創るのか?」という問題は、少なくともある段階までは先に挙げたような形のプロセスとして記述してもさして効果はなさそうだということだ。

 「何を創るのか?」が決まっていく過程は、プロセスとして表現するには、あまりにもさまざまな相互作用とそれによる変化が並行して生起していると考えられるからである。このような相互作用をコラボレーションと呼ぶのであれば、コラボレーションのためにITができることは、「何を」に関する時系列情報を保持することでコラボレーションする主題の発散を許さないことと、コラボレーションに参加する全員をつなぐことでコラボレーションの場を維持することが中心だといっていいだろう。そしてそのためには、堅牢であると同時に柔軟なデータモデルの構築というのが第一義的に必要とされている、と言えるはずだ。

 実は、ここまでの議論は、PDM(Product Data Management)やCPC(Collaborative Product Commerce)、そしてPLM(Product Lifecycle Management)などで行われているものと表面的にはほぼ同じだと言っていい。これらに関する世界規模の製品ベンダーとして、EDS、PTC、ダッソーやコ・クリエイトなどを挙げることができる。多くの企業にとってこれらの製品を評価することは意味のあることのはずだ。

 しかし、世界レベルでのトップランナーとしての日本の製造業が、何か新しいチャレンジをするとき、もし、日本国内で答えを見つけることに意味があるのだとしたら、オブジェクト指向技術を基にしたカーネルシステムであるSPBOMや、製造業ソリューションに関して独自の方法論を開発してきたネクステックなどの動きに注目しておくのも有意義だろう。

関連記事
▼Gartner Column:第65回 システムの美しさとコラボレーション

関連リンク
▼SPBOM
▼ネクステック

[浅井龍男,ガートナージャパン]