エンタープライズ:ケーススタディ 2003/09/04 23:21:00 更新


業界総出のプロジェクト、三共の成功の理由は社長のトップダウン実行

IT業界の9社が共同で、製薬業の三共のBPRプロジェクトが完了したとが8月に発表された。このプロジェクトが成功した最大の要因は、社長が自ら業務改革本部長に就任し、トップダウンでプロジェクトを進行したことにあったという。

 先月の初旬、IT業界の9社が共同で、製薬業の三共のBPRプロジェクトが完了したと発表した。マイクロソフトや日本ユニシス、デルコンピュータ、EMC、SAP、NEC、日立製作所など、IT業界を代表する企業による共同発表となった。SAP R/3の導入を柱にした業界でも注目度の高いプロジェクトとなっている。

 三共のパートナーとしてプロジェクトに参加したアクセンチュアによると、この業務改革が成功した大きな理由の1つは、社長自ら業務改革本部長に就任したことだという。

 アクセンチュアの医薬品グループ、宇梶知巳パートナーは、「研究開発、営業部門を除くすべての領域に対して、2001年7月に行った3カ月の診断プロジェクトにより、合計で200億円の改革機会があることが分かった」と話す。業種的に見ても保守的なイメージは強い製薬業界だが、総務部門の作業も正社員が行っていたり、営業支援部隊が必要以上に多いなど、いわゆる「体質の古い」状態にあり、大きなコスト削減余地があったという。

創薬力強化と収益性アップを目指す

 同社は、メバルチンの売り上げ低下、ゲノム研究進展への対応、外資系製薬企業の合併による巨大化といった市場環境に対応するため、中期経営計画において業務改革の実施を決めた。

 目的は、資金の確保による創薬力の強化、グローバル化の進展だ。ビジョンとして、2010年におけるグループ売上高1兆円、ROE10%以上および営業利益率20%以上の収益性、グローバル新薬を生み出し続けることを掲げた。

教科書通りの導入思想

 宇梶氏によると、このプロジェクトの成功の理由は、戦略と業務、組織、ITという4つの側面から適切にアプローチを取ったことにあるという。

 特に、社長がプロジェクトを先導するなど、経営層が前向きに参加したことが大きな要因になっている。ERPの導入は、企業の業務を抜本的に変えるものであり、成功するためにはトップダウンによる全社的な導入スタイルが求められる。ERPはいわば、全身に血液を送る心臓のような役割を果たすからだ。三共はこの「教科書的な」導入形態を忠実に守った。社員へのコミュニケーションも頻繁に行ったという。

 プロジェクト期間は初めから2年に限定し、業務改革で200億円、在庫の削減で150億円という明確な効果目標を設定した。また、各システム単位ごとにアドオンに予算を決め、それを超える要件は却下する「Design to Budget」を徹底したことで、想定外の出費を極力抑えたという。

 また、製薬業界において実質的な業界標準になっていることから、生産、経理、人事の業務にSAP R/3を採用し、業務プロセスをR/3に合わせて変更した。さらに、R/3と関連システムの導入により、部門ごとに40以上あった業務システムを統合し、単一システムのように運用できるようになった。同じデータを別々の部門で都度入力するといった手間もなくなり、業務の効率化が進んだという。

 また、生産や在庫に関する最新データも全社で共有できるようになったため、生産計画の細かな調整も可能になり、生産計画のサイクルをこれまでの月単位から旬(10日)単位に短縮した。これにより、資材調達や在庫状況に応じた生産計画の立案も効率化されたという。結果的には、在庫の適正化によるコスト削減を実現できるとしている。

システム定着化にも注力

 よく「ERPを導入したがほとんど使われていない」といった話を耳にする。導入にどれだけの費用がかかったのかを考えるだけでも、その企業の内外を問わず、誰もが「もったいない」と思うはずだ。

 こうしたケースの原因として、新しいシステムの定着に十分な力を入れなかったことなどが指摘されることがある。三共のプロジェクトでは、新しい業務やシステムを定着化させるために、緻密な研修やユーザーへのテストを実施したという。

IT各社が強みを提供

 三共のシステムは、サプライチェーン、会計、人事の3つの領域で、16のR/3モジュールと、ほかに12のシステムを導入した。業務改革計画と実行支援をアクセンチュアが行い、システム導入サポートは主にSAPが担当した。さらに、サプライチェーン領域をB-EN-G、また基盤面と製造業務の支援を日立が手がけ、プラットフォームにはマイクロソフトのWindows 2000 Datacenter Server、Microsoft SQL Sever 2000が全面的に採用された。

 ハードウェアでは、データベースサーバを日本ユニシス、Webサーバなどはデルコンピュータ、ストレージにはEMC、アーカイブにはイキソスの製品が採用されている。稼動後の運用保守はNECが全面的にアウトソースを請け負っている。

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[怒賀新也,ITmedia]