エンタープライズ:ニュース 2003/09/10 15:09:00 更新


基調講演:「10gでビッグサーバ開発競争に終止符を打つ」とエリソンCEO

IBM System 360の発表以来、業界はビッグサーバの開発競争を繰り広げてきたが、エリソンCEOは、「ようやくここにたどり着いた」とし、最終兵器のOracle 10gでビッグサーバの開発競争に終止符を打つことを宣言した。

 OracleWorld 2003 San Franciscoは米国時間9月9日午後、Sun MicrosystemsIntelの両CEOを露払いにしたメインイベント、「ラリー・ショー」を迎えた。Oracleの総帥、ラリー・エリソンCEOは、自信に満ちた語り口で、ついにOracleが最終兵器「Oracle 10g」によってビッグサーバの開発競争に終止符を打つことを宣言した。

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「グリッドのパワー」を語るエリソンCEO


 IBM System 360が発表されたのは今から40年前の1964年。エルビスやビーチボーイズが活躍した遠い昔だ。「まだ大学生だった」とエリソン氏。その後、アムダール博士がIBMを辞め、1974年に性能の優れた互換機をつくり、ビッグサーバの開発競争が始まった。また、今年はMicrosoftも、64ビットのWindows ServerとSQL Serverによってビッグサーバ市場に足がかりを得た。

 「Microsoftは40年後にようやく、Windowsメインフレームを開発しようとしている。IBMの様子を探ろうと人を送り込んだが、間違ってIBMミュージアムから情報を得たんじゃないか。そうとしか考えられない」とライバルをこき下ろし、エリソン氏が聴衆を沸かせた。

 コンピュータ業界は過去40年間、より大きなコンピュータをつくろうと競争してきたが、結局問題は積み残したままだった。1台のビッグサーバでは、容量の限界があり、コストもかさみ、そして単一障害点がシステムのアキレス腱となってしまう。

 「われわれはメインフレーム誕生から40年後、ついにOracle 10gというオルタナティブを提案する」(エリソン氏)

 Oracle 10gの「g」は「Grid」を意味するのだが、エリソン氏は「Oracle Enterprise Grid」という言葉を使うことで科学技術分野で広まりつつあるグリッドコンピューティングとは明確に区別している。Storage Grid、Database Grid、Application Server Grid、そしてGrid Controlソフトウェアから構成され、アプリケーションや管理ソフトウェアからは1台の大きなコンピュータに見えるのが特徴だ。すべてのレイヤで仮想化を実現する「ソフトウェアエンジニアリングの集大成」(エリソン氏)といえる。

Enterprise Gridの恩恵

 Oracle Enterprise Gridの恩恵は、既に触れたが、アプリケーションからは1台のコンピュータに見えるため、どんなアプリケーションでも書き換えなしにそのまま稼動する。Oracle9i RAC(Real Application Clusters)の場合と同様、要はISVがグリッド構成で動作保証をするかどうかだ。SAP、Siebel、PeopleSoftなど、ライバルたちのパッケージアプリケーションも動作する。

 また、Oracle9i RACをさらに進化させたOracle 10gでは、キャパシティを必要に応じて容易に拡張できる。しかも、IAサーバとLinuxの組み合わせを推奨しており、それなら1CPU当たり3000ドルの追加投資で済む。しかも、単一障害点がなくなるため、飛躍的に信頼性も増す。

 「IAサーバの場合、4ウェイよりも2ウェイの方が高度なエンジニアリングが要らないため、よりクロック数の高いプロセッサが早期に搭載される。つまり、Oracle Enterprise Gridでは2ウェイ×2台の方が、4ウェイよりも高速で、しかも価格は安い」とエリソン氏。

 もちろん、グリッドの恩恵は「追加」ばかりではない。企業は、例えば、給与システムであれば、毎月の計算処理のピーク負荷に合わせてシステムのサイズを決めるが、ピークは月に一度きりだ。どうしても個別につくられたシステムの場合、ITリソースの使用率は低く、IT投資の多くは無駄になっている。

 こうした既存のITリソースを最大限に活用すべく、使用率を高められるのもグリッドの大きな恩恵だ。Grid Controlソフトウェアを使えば、ポリシーベースでリソースの再配分が可能だ。例えば、月末には比較的空いているほかのシステムのリソースを給与システムに優先的に割り当てたり、あるアプリケーションの負荷が高まれば、自動的にCPUが割り当てられるといった具合だ。

 基調講演後に聴衆から価格に関する質問を受けたエリソン氏は、「既存ライセンスのアップグレードであれば、そもそも追加のライセンスは必要ない」とさえ答えている(Oracle 10gの価格は近く発表される予定)。

 Oracle 10gの目玉の一つに「Automatic Storage Management」(ASM)の提供がある。自動的にミラーリングやストライピングしてくれるほか、アクセスの集中する、いわゆる「ホットスポット」を検知し、解消も図ってくれるという。こうした管理ツールが組み込まれることによって、顧客企業はサードパーティーのツールを購入する必要はなくなるし、自動化によって運用管理者の労力も減らせる。また、人が介在する必要がなくなれば、人的なミスもなくなるというわけだ。

IBMのクラスタは機能しない

 エリソン氏は基調講演で、IBM On Demandとの比較も試みた。

 「IBMのアプローチは、1台のビッグサーバという考え方から抜けきれていない。オープン系のDB2はシェアードナッシング方式であるため、複数のコンピュータでSAPを走らせることができない」(エリソン氏)

 基調講演の後に行われた一部報道機関向けのラウンドテーブルでは、「SAPはIBMの有力パートナーであり、かつOracleにとっては最大の競合ベンダーだ。それにもかかわらず、SAPはIBMのクラスタで動作認定を取得しておらず、逆にOracle9i RACでは認定を取得している」とし、シェアードナッシング方式のオープン系IBM DB2ではクラスタが機能しないことを強調した。

 結局のところ、IBM On Demandのアプローチでは、大きな筐体を先に購入しなければならないという。しかも1CPU追加するのに4万6875ドルというから20倍近い。エリソン氏は「IBM On Demandは、“Finacial Engineering”と呼んだ方がいいかもしれない」と皮肉る。

 「IBM System 360誕生から40年を経て初めてEnterprise Gridに到達できた」とエリソン氏。Oracleは、10年前にOracleデータベースのコードすべて捨て去り、並列処理機能を強化したバージョン7をいちから作り直している。

 「バージョン7から8、8から9へとわれわれは絶えず改善を重ねた」とラウンドテーブルで話す彼の言葉は、いつもの毒舌が消え、確固とした自信を垣間見せた。

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[浅井英二,ITmedia]