エンタープライズ:コラム 2003/09/09 10:50:00 更新


Gartner Column:第109回 Oracleのグリッドは素晴らしい、ただし言葉使いはちょっと?

Oracle 10gのテクノロジーは高い評価に値するものだ。しかし、それを「グリッド」と呼んでしまうオラクルのマーケティングにはやや苦言を呈さずにはいられない。

 既にほかの記事も情報満載だと思うが、米国時間9月8日、OracleがDBMSの新バージョンである「Oracle 10g」を正式発表した。10gのgはもちろん「グリッド」のgである。この記事の原稿はサンフランシスコで開催されているOracleWorld 2003の会場で書いているのだが、会場内でも「GRID」と大書きした垂れ幕が至るところにあり、「グリッド」がオラクルの最重要キーワードとなったことが分かる。

 Oracleが考える「グリッド」は、Oracle9iでサポートされていたRAC(Real Application Clusters)の延長線上にあるものである。これは納得できる戦略だろう。私のコラム「第94回 オラクルのRACは“本物”のクラスタ」でも書いたように、Oracle9i RACは、オラクルの重要な差別化要素である。

 正直言って、ミッドレンジ以下の領域では、DBMS製品の差別化要素は減少しつつある。テクノロジー的には大きな格差がなくなり、スキルの普及、ノウハウの蓄積、アプリケーションのサポートなどの市場的要素が重要となっている。Oracleの優位性がなくなったわけではないが、かつてほどの圧倒的な地位を維持することは難しくなっている。しかし、ハイエンドの世界でテクノロジー的なリードを維持しているのはやはりOracleであり、そのリードの要因であるRACをさらに強化するのは当然である。

 10gにおける具体的な機能強化としては、物理的なディスクボリュームをまたがって仮想化されたファイルシステムを作成する機能であるASM(Automatic Storage Management)、クラスタにサーバを動的に追加・削除するプロビジョニング機能、そして、クラスタ内のサーバをビジネスルールに基づいてアプリケーションに割り当てるポリシーベースのワークロード管理機能などがある。そのほかにも、性能と可用性向上のためのさまざまな強化が行われているのはもちろんである。

 仮想化、プロビジョンニング、ワークロード管理、ポリシーベースと聞いて何か思い出さないだろうか? 最近のインフラ系のテクノロジー動向をフォローされている方ならお分かりだろう。オラクルの「グリッド」戦略は、IBMのAutonomic Computing、Sun MicrosystemsのN1Hewlett-PackardのAdaptive Infrastrctureなどのいわゆる自律型コンピューティング(ガートナーの用語で言えば RTI:リアル・タイム・インフラストラクチャ)に類似している。要するに、システムの自己管理機能を強化することで人間による管理を容易にし、その結果として、より大規模なシステムの構築を可能にするということである。

 Oracleが自律型コンピューティングの領域に乗り出したことは、特に、SunとHPにとっては朗報だろう。DB2を擁するIBMとは異なり、両社の自律型コンピューティング戦略には、DBMS部分が大きな抜けとなっていたからである。

 しかし、筆者としては、Oracleの戦略とテクノロジーは高く評価するものの、やはり「グリッド」という用語の使い方には違和感があると言わざるを得ない。ここまでで、「グリッド」とかっこ書きにしてきたのは意図的である。グリッドの定義には諸説あるが、「複数の組織をまたがったコンピューティング資源を使って単独の問題を解決する」「管理ポイントが複数個所に分散している」などが条件として挙げられることが多い。

 Oracleの「グリッド」は、上記の要素はあまりなく、企業内向けのRACの機能拡張という色彩が強い。つまり、従来であればクラスタと呼んだであろうテクノロジーである。特に、昔からグリッドテクノロジーを担当されてきたエンジニアの方は、Oracleが10gのテクノロジーを「グリッド」と呼んでいることに抵抗を覚えるかもしれない。

 恐らく、Oracleが「グリッド」という用語に固執したのは、純粋にマーケティング上の理由だろう。どうも、一般ユーザーにとって、自律型コンピューティングは妙にアカデミックに響き、馴染みにくい言葉のようだ。それをOracleも懸念し、「グリッド」という認知度の高い言葉を用いたのではないだろうか?

 世の中の注目が集まる言葉に対して、多くのベンダーが自分に都合の良い解釈を行うことで、その言葉の定義がどんどん膨らんでいくという現象はグリッド以外の言葉でも起きている。ガートナーも、「2007年までにグリッドとクラスタは実質同じテクノロジーを指す言葉になる」と予測していたが、その予想は当たってしまいそうだ(そうなるべきと言っているのではなく、結果的にそうなってしまうであろうということである)。

 もちろん、筆者の不満は、Oracleの言葉使いに対してであり、テクノロジーそのものに対してではないことを最後に強調しておこう。

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[栗原 潔,ガートナージャパン]