エンタープライズ:コラム 2003/10/16 09:59:00 更新


Gartner Column:第114回 ビジネスとは切っても切り離せないIT

最近はITの競争優位獲得という効果を否定するような声も聞かれるが、特にCRM、ERP、SCMはビジネスと切っても切り離せない。まだまだ発展途上だ。

 最近はITの競争優位獲得という効果を否定するような声も聞かれ、そのITが重要か否かを議論する記事が目立つ。もちろん、すべての企業が同じITを同じように利用すれば、それは競争優位を生み出すことはないだろう。だが、実際にITによって競争優位を生み出した企業は、私の前回のコラム(第112回 データウェアハウスはビジネス効果創出の基盤)で紹介したユーザー調査結果を見ても少なくないのである。

 もちろん、PCが一人1台配布され、メールやワープロ作業など、事務処理効率化のために導入したシステムであればそれはコモディティ化したと言ってもいいかもしれない。しかし、顧客ニーズを他社より早く、かつ詳細に把握し分析することで、新しいビジネスを創造することを目的にするようなCRMがコモディテイ化するようなことはあり得ない。期待通りの効果が出ないと不満を並べるユーザーも多いが、それは、目的を実現するために組織的に緻密な計画を練って導入したものでなかったり、あるいは単に効果を財務的に測定できなかったりするのが最も大きな原因である。

 顧客からの注文を受けたりクレームを処理したりするコールセンターを考えてみよう。このシステムは、顧客からの電話対応をよりスムーズにし、顧客の満足度を高めることに役に立ったはずだ。特に初期の頃に導入した企業は、新規顧客獲得など、競争優位を獲得できたことは容易に想像できる。

 だが、多くの企業が導入してしまうと、もはやそれは競争優位獲得とはかけ離れた存在になってしまうのも確かだ。顧客から見れば、どこと契約してもサービス内容に大差ない状態が生じてしまう。それでも、DWHやBI機能を活用し、他社に真似できない、顧客満足度を高める新しいシステムを構築することは可能なはずだ。

 すなわち、こういうことだ。まだ世の中に出回っていないが、ビジネスの何かしらを効率化、あるいは効果を高めるような新しいITであれば、先に導入した方が先行者利益を享受できる可能性が高まる。そのとき、そのITは競争優位獲得のツールとして利用されるはずだ。ただし、その効果を享受しようと多くの同業他社も導入を始め、普及という段階に達すると、今度は競争優位を獲得するツールとはほど遠いものとなってしまう。ちょっと古いが、30年ほど前の銀行のATM(Automatic Teller Machine)などは典型的だろう。

 しかしながら、多くの同業他社が同じようなITを導入する段階に入っても、今度はそのITをもっと洗練化しようと努力するし、ベンダーも新しい技術を開発し、処理速度を速めたり、独自の機能を付加して差別化を図ろうとする。

 最初の導入時ほどの競争優位は獲得できないかもしれないが、他社の顧客の数パーセントを奪う効果が出ることはあるかもしれない。ATMを見ても、初期段階から改良が進み、10年ほど前には、端末の数や対話形式の画面が競争優位獲得の手段となった。

 最初は競争優位性(Competitive Advantage)が重視され、普及すると今度は、差別化の要素は薄くなるが、ないとビジネスに大きく影響が出るという競争必要性(Competitive Necessity)の要素が強くなる。そして新しい機能が加わることで、また競争優位性を持つようになるという、この繰り返しだ。

 そして、現在のCRMやERPのようなビジネスアプリケーションは、コモディティ化しつつあった受発注管理システムや、ファイル管理システム、あるいメールシステムのような、事務処理効率化を主目的としたITとは別の次元のものだ。企業全体のビジネスプロセスを管理し、データを有効活用し、新しいアイデアを引き出すことをサポートし、よりビジネス効果を引き出すために出てきた新しい概念のITと言っていい。

 そして、CRMやERPは、まだまだ発展途上だ。市場に登場した直後ほどの期待感はなくなっているものの、まだ競争優位性を高める潜在力はあると言っていい。むしろ、BI機能を最大限に活用して競争優位性を存分に引き出す段階までにはいまだ至っていない。

 ERPに関しては、パッケージ導入が進むことで、多くの企業のビジネスプロセスが同じ内容になってしまうのではないかとの心配もあるが、少なくとも日本においては、ERPパッケージを導入しても半数近くが多くの機能をカスタマイズしているのが現状である。コアコンピテンスでない部分はパッケージを導入して効率化を高め、コアコンピテンスである部分はカスタマイズして独自のシステムを使って強化すれば、競争優位を高めることも可能になるだろう。

 下の図は、CRM、ERP、SCMのようなビジネスアプリケーションが、どのようにビジネス効果を出していくのかを分りやすく表現したものだ。ビジネスアプリケーションによるROI(Return On Investment)がどのように高められるか、どのように測定すべきかをイメージするのに役立つはずだ。詳細な説明は別の機会にしたいと思うが、少なくともこの図においては、IT(特にCRM、ERP、SCMなど)とビジネスは切り離せないものであることが分かるであろう。

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[片山博之,ガートナージャパン]