エンタープライズ:コラム 2003/09/26 09:54:00 更新


Gartner Column:第112回 データウェアハウスはビジネス効果創出の基盤

シアトルのNCR Teradata PARTNERS 2003に参加した。日本コカ・コーラグループをはじめ、DWHを基盤にしたビジネス分析機や、CRM、ERPなどの利用によって、売り上げの向上やコスト削減に結びついた事例が幾つも紹介された。

 大規模データウェアハウス(DWH)のリーディングベンダーであるNCRのユーザー会が主催する「NCR Teradata PARTNERS 2003」(ワシントン州シアトル)に参加した。ITの投資抑制傾向は世界的な現象で、特にトップダウンで意思決定をするUS企業では、ITのROI(Return On Investment)測定に力を入れる企業が増えているようだ。

 景気低迷の中ではIT投資に当てる資金が潤沢ではないので、投資効果の大きさによって案件の取捨選択をせざるを得ないし、投資効果があいまいな案件には経営者も待ったをかけざるを得ない。この意思決定をする際にITのROI測定が不可欠となる。この傾向は日本においても強くなりつつあるが、トップダウンで意思決定を行う米国企業では、その傾向はより顕著のようだ。

 ITのROI(ビジネス効果÷IT投資額)を測定する目的は、投資案件の優先順位を付けることと、経営者からの承認を得るというこの2つが主体だ。IT投資の抑制意識が強く働くほど、ROI測定の必要性は高まるだろう。

 投資額よりもビジネス効果(売上増加額とコスト削減額の累計)が大きければ、またその投資額回収期間が短ければ、その案件に反対する経営者はほとんどいないだろう。すなわち、より小さな投資でより大きな効果を見出すことがマネジメント層もしくは情報システム部門の今後の課題となるわけである。逆にベンダーにとってはごまかしの利かない厳しい時代が到来することになる。

 PARTNERSカンファレンスでは、コンサルタントやアナリスト、NCRのセッションだけでなく、Teradataユーザー自らの事例セッションでも、DWHのROIに関係するセッションの存在が目立った。

 NCRがフォーカスするDWH(業務系データベースから独立した全社的情報系アプリケーション向けのデータベース)そのものからは直接ビジネス効果が出てくることはないが、DWHを基盤にしたビジネス分析機能、CRM、ERPなどのビジネスアプリケーションの利用によって、売り上げの向上やコスト削減に結びつく効果が現れたという事例が幾つも紹介されていた。

 日本企業のユーザー事例も紹介された。日本コカ・コーラグループは、主要な販売チャネルの一つである自動販売機からの収益を最大化するために販売データをオンライン化し、アクティブDWHを構築することで、大きな効果を上げたという(システムは北陸コカ・コーラボトリングが構築)。

 例えば、個々の自動販売機における個々の商品の需要予測を自動化し正確性を高めることで在庫不足を解消し、販売の機会損失を大きく減らした。さらにセールスマンによる個々の自動販売機への商品充填期間の最適化を実現することでコスト削減も実現したという。(三国コカ・コーラボトリングの事例では、推計で年間8億円の利益増加という効果数値も出していた)。

 この自動販売機のオンライン化とアクティブDWHの構築、さらに分析アプリケーションの開発における投資の総額に関しては具体的な話はなかったものの、ビジネス効果の大きさを考えると、投資回収期間もそれほど長くはないと推定できる。

 彼らの事例は、その直後に行われた米国コンサルタントのセッションにおいて、DWHをベースにしたマーケティングオートメーションで大きな効果を上げた代表的な事例として紹介されたくらいなので、米国企業にとってもインパクトは大きかったのだろう。

 ただ、DWHを導入したからといって、必ずしもROIを向上できるとは限らない。実際にDWH構築の失敗事例も少なくない。ガートナージャパンの2003年3月のユーザー調査では、DWHまたはデータマート(DM)構築済みユーザー(1年以上利用)の4割以上で投資対効果が不明と答えている。

 ただ、それらの多くは、単にROI測定手法をもたない企業、または、ビジネスに対する明確な目的を持たずにデータ集めに奔走し、まるでDWHを構築することそのものを目的としてしまっている企業に多いと推測している。また、大規模なDWHになるほど、その構築と維持にかかるトータル費用(TCO)の肥大化にも影響することもあるだろう。

 一方で、CRM利用の効果について、DWH/DM利用の有無によってどのような変化があったかを示す調査結果がある。下の図は、有効回答こそ少ないものの、DWHの有効性を示す重要な証拠にもなるだろう。DWH/DMを構築せずにCRMを利用しているユーザーより、DWH/DMをベースにCRMを利用しているユーザーの方が、「顧客満足度の向上」「生産性の向上」「売り上げの向上」などの効果が出たと答えた企業が圧倒的に多いのだ。CRMを利用して1年以上経っても具体的な効果が現れない、あるいは分からないと答えた企業も、DWH/DMなしにCRMを利用している企業でその比率は多くなっている。

dwh.jpg

 DWHを構築したからといって必ずしもROIを向上できるとは限らない。ただ少なくとも、DWHを構築した上でビジネスアプリケーションを利用した方が効果を見出す可能性が高くなることは、このデータから明らかだ。さらに、明確なビジネス上の目的を持って、その目的達成に必要なデータを、整合性を取った上で統合し、その上で、ビジネスアプリケーションを構築し、組織全体での活用を促せば、大きなROIを実現できる可能性はより高まるだろう。

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[片山博之,ガートナージャパン]