エンタープライズ:レビュー 2003/10/31 15:00:00 更新


レビュー:デスクトップLinuxの未来を担う「Turbolinux 10 Desktop」の船出 (1/2)

沈黙を破って登場した新たなターボリナックスのディストリビューション「Turbolinux 10 Desktop」。Windowsとの親和性で使い勝手の向上を目指す。

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アイコン類を見てもWindowsを強く意識していることが分かるTurbolinux 10 Desktop


 ターボリナックスのLinuxディストリビューション「Turbolinux」は、パッケージバージョン「7」から標準デスクトップをGNOMEからKDEへと変更した。続く「8 Workstation」の市販パッケージ以降には、KDE 3.0やMicrosoft Officeファイル互換を図るために「StarSuite」をバンドルしている。ターボリナックスは、これまでにエンタープライズ向けの製品投入と並行しながら、エンドユーザー向けの製品は常に「Windowsユーザー」の違和感を軽減する操作性、Windowsとの融合を重視し続けている。

最新を取り入れたデスクトップとカーネル

 しかし8 Workstation以後、細部のアップデートパッチが中心で大きな変革がなかったのも事実だ。常にRed Hat Linuxに追随してきたターボリナックスの沈黙が、筆者には不可解に思えた。だが機は熟し、その理由は明らかになった。現行Red Hat Linuxの「9」よりも大きな「10」というバージョンを銘打ったことからも、同社の強い自信と意欲が読み取れる。事実「TurboLinux 10 Desktop」(以下、10D)には「これでもか」というほどに最新機能が盛り込まれた。象徴的なものは「カーネル2.6」の採用だ。カーネル2.6は10月17日に「test8」がリリースされたばかり。製品パッケージには、リビジョン24まで進んだ2.4が堅実だったはずだ。それにも関わらず、開発段階の2.6を採用しているのは、2001年初出の2.4では「もう古い」という判断があったのだろう。そして新機能実現には2.6が必要だったのだと同社は語る。

 Linuxの開発者トーバルズ氏は2.6を「今後は機能拡張よりも安定指向に向けたい」と言及しているが、2.4と2.6の間には既に機能面でかなりの違いがある。SMPの処理やメモリ管理といった内部アーキテクチャの充実もあるが、エンドユーザー向けにはUSBやIEEE1394デバイスなどのリムーバブルメディアとの接続がより簡単に行える。10Dにはこの機能を使った独自の「dynaplug」を開発、実装している。

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フラッシュメモリはSCSIドライブとして認識される


 現行の安定カーネル2.4でも、主要なリムーバブルメディアは起動時に認識されればマウントができる。しかし、10Dで実現された「dynaplug」では、「起動時に接続されていなかったデバイスでも」その後に接続すれば即認識し、マウントが行える点に特徴を持つ。デジタルカメラに利用するメディアリーダー・ライターや、フラッシュメモリ、リムーバブルデバイスの扱いは、10DではWindowsとまったく同じ感覚なのだ。この記事で扱ったカーネルは「2.6.0-test_5_2」であったが、リリース直後には後述する「Turboアップデート」でさらに新しいものへとリプレースされるかもしれない。

 同様にX Window Systemを構成するXFree86は「4.3.0-35」、gccは「3.3.1-5」。デスクトップのベースとなるKDEも7月にリリースされたばかりの「3.1.3」だ。製品リリース時には、お決まりのように「最新コンポーネントの採用」がうたわれる。だが実際はある程度安定したパッケージが選択される。筆者はそれを責めるつもりはない。猛烈なスピードで進むオープンソースの最前線からタイムラグが生じるのは仕方がないし、リリース直後のパッケージである必然性もないと思う。だからこそ、10Dが本当の意味で「最新コンポーネント」を揃えてきたことにおどろいているのだ。もう少し時間があれば、Xには12月リリース予定の「4.4」さえ入れてきたかもしれない。それほどの意欲的な勢いである。

 逆にいえば「リリース直後の未知のバグ」に対して冒険をしたことにもなる。これに対し10Dは、可能な限りのチューニングを行っていることと、Windows Updateやup2date(Red Hat Linux)に相当する「Turboアップデート」というツールで回答した。Errataやバグを含んだパッケージ、より新しいパッケージを検索、自動インストールするものだ。

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Windows Updateに対する「Turboアップデート」を採用


 Turbolinuxには以前から同様の独自ツールが付属していたが、それはシェル上で動作するCUIベースだった。しかし10DのTurboアップデートは、完全にデスクトップと融合したGUIツールとして動作する。原稿執筆時このアップデート用のFTPサーバは稼働前でテストすることはできなかったが、発表会のデモンストレーションではWindows Updateの操作性に限りなく近づいていた。またKDEには本来、「Kpackage」というRPM管理ツールもあるが、より簡単な操作で扱える「アプリケーションの追加と削除」も用意されている。これも以前は「zabom」というCUIベースの独自ツールであったが、GUIツールとして進化させている。

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インストールとアンインストールを容易にする「アプリケーションの追加と削除」


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KDEで標準的な「Kpackage」も含まれる


 それ以外の、例えばネットワーク設定などの独自ツールはCUIで操作するものも残った。だが、フェイルセーフな機能を設定するツールがX上で動作する必要性もないだろう。デスクトップの印象は「MacOS X風のWindows」といったところだろうか。下部パネル幅を制限して主要なアイコンをデコレートして配置するあたりはMacOS X風だが、デスクトップ上に配置されるアイコンはWindowsそのものである。

ビットマップフォント採用のMozillaはIEでの見栄えとそっくりに

 そして外観上で特筆すべきはフォント表示だ。従前の「TLGothic」フォントなどもリコー製MS系フォントに準拠したものであり、Windowsと比較してあまり見劣りはしなかった。10Dでは更に本格的なリコーの協力を仰ぎ、精細なビットマップフォントが組み込まれている。この効果が特に顕著なのはWebブラウズだろう。IE前提の比較的行儀の良くないWebページを表示させても、ほとんど文字の崩れ、汚れが見られない。10DのWebブラウジングはIEと何ら違和感を感じさせない。AcrobatのPDFファイルもMozillaのブラウザ内で表示させることができる。もしブラウザに何か修正する必要があるとすれば、Flashプラグインを組み込む程度だろう。これについては収録のドキュメントにも記載されているので、初心者もとまどうことなく、Flash Playerがインストールできるはずである。

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ブラウザ内でPDFを表示可能


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ビットマップフォントを使用したMozilla


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同じページをIEで表示したところ


 フォントの効果はWebブラウザだけではない。KDEはそれぞれ独自にメニューや内部で使用するフォント設定することもできるが、コンポーネントの数が多いだけに面倒な作業でもある。だが10Dは標準状態でフォント指定が統一されている。ダイアログやメニューの見栄えは統一され、アプリケーション間での視覚的違和感もなく、とてもすっきりした印象だ。ほかの商用フォントをバンドルした市販ディストリビューションと比較しても、10Dに組み込まれた日本語フォントの見栄えはひと回り上であると、高く評価したい。

 KDEはWebブラウザに「Konqueror」とMUAに「Kmail」が標準となる。しかし、10Dは「Mozilla」と「Mozilla Mail & Newsgroup」を推奨しているようだ。Konquerorブラウザのフォントも、標準のまま何の調整することこともなくMozilla同様のすばらしいラスタライズを見せる。今夏までKonquerorにはTABLEタグにバグがあり、Googleの検索結果表示が乱れるという報告があった

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「Konqueror」でのWebブラウズ


 このバグはきちんとフィクスされていたが、パネルのブラウザとメーラーアイコンはMozillaになっている。これは10Dが目指した「Windosオペレーション互換」に基づくものと想像される。

 「Konqueror」を利用するユーザーは、Linuxユーザーの中でもデスクトップ環境にKDEを選択したユーザーであり、絶対数として少ないだろう。それに比べ、MozillaはWindows版も用意されており、Netscape全盛時代からのファン、そしてIEに頻出するセキュリティホールを回避するために利用しているユーザーが多い。Windowsオペレーション互換のためには、KonquerorよりWindowsユーザーにも知名度があるMozillaの選択がよりベターという判断なのだろう。だが筆者はメーラー(MUA)にまでMozillaを選択する必要はなかったのではないかと思う。「Kmail」は決して扱いの難しいものではないし、既存のメール(データ)のインポート機能でもMozillaを上回る面がある(Outlook ExpressやExchangeのアドレス帳など多種のデータが取り込める)。同時にコントロールセンターでの設定やアドレス帳(AddressBook)とも連携する。「Windowsとの親和性」を目指すならば、コントロールパネルからの一括設定といったOutlookExpressライクな扱いができるKmailの方がWindowsに「似ていた」のではないだろうか(ターボリナックスでは、メールメッセージに含まれるURLやメールアドレスをクリックした際、標準で関連づけるソフトが起動することを優先したようだ。さらにKMailからの印刷品質には疑問があるとのコメントも聞かれている)。製品版にはOutlook ExpressやIEのデータを移行させるためのガイドマニュアルも付属するという。原稿執筆時には入手できなかったが、どのような内容なのか興味があるところだ。

 インターネット関係では、ほかにインスタントメッセンジャー(IM)として日本語対応された「Kopete」が含まれる。これもKDEアプリケーションのひとつだが、プラグインによってICQ、MSN、Yahooなど代表的なインスタントメッセンジャーアカウントをひとつのクライアントで担うことができる。まれにステータスが正しく通知されないこともあったが、メッセージの交換はきちんと機能する。付け加えるなら、ほかの言語と母国語を自動翻訳してチャットが行えるプラグインもある。

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日本語対応されているインスタントメッセンジャー「Kopete」


 「KDEデスクトップ」として見るならば「Quanta」(ホームページ作成ツール)が収録されなかったことがやや惜しまれる。ただ、10DにはTurboアップデートとは別に「Cuickin」と呼ばれるアプリケーションの自動ダウンロード、インストールサービスも行うとコメントされている。これは、専用のFTPサイトやCD-ROMからアイコンクリックのみで自動インストールするというものだ。後に配信されることを期待したい。

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ファイルやFTPからの自動インストールを行うCuickin


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[渡辺裕一,ITmedia]