エンタープライズ:レビュー 2003/10/31 15:00:00 更新


レビュー:デスクトップLinuxの未来を担う「Turbolinux 10 Desktop」の船出 (2/2)

Windowsとの親和性の追求

 「Windowsとの親和性」は「オペレーション互換」と共に、「ファイル互換」、「共存環境の強化」の3つを軸としている。例えばWindowsで作成した日本語のフォルダ、ファイル名に完全対応させた。デスクトップ上の「マイコンピュータ」を表示すると、ディレクトリツリーではなくデバイス別にアイコンが表われる。これ自体は、Konquerorに包含される機能だが、Windowsとのデュアルブート環境であればWindowsのパーティション(NTFS含む)も同時マウントされ、内容を表示できるのだ。ここで「スタートメニュー」や「デスクトップ」といった、Windows固有の日本語ファイル名も正しく表示できる(ファイル名にスペースを含んでいても表示可能だ)。

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Windows上の日本語ファイル名(シフトJIS)も問題なく表示可能


 つまり、10Dを起動していてもWindowsパーティションにあるファイルに自由にアクセスできるのだ。もちろん「dynaplug」同様にマウントを意識する必要もない。実際にファイルの内容を読み取る場合には、シフトJISエンコードしなければならないが、操作としてはWebブラウザのエンコードを変えるのと大差ない。「フォルダ名もファイル名も文字化けしてわけがわからない」という従来の状態に比べればずっと楽になった。10Dへ乗り換えたいがWindowsも手放せないユーザーにとって、これは快挙といえよう。

 同様に、日本語入力をはじめとするショートカットキーもWindowsに限りなく近づいている。Xの日本語入力は「Shift」+「スペース」キーや、「Ctrl」+「\」キーだったりとバラバラであり統一されていない。10Dはこれを改め、ATOK利用の日本語キーボードであれば「半角/全角」キーでXIMのオン、オフが可能となっている。さらにWindowsキーを押せば、KDEの「K」メニューがデスクトップに表示される具合だ。

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キーボードの「Windows」キーを押すと表示されるKDEの「K」メニュー


 メニュー上の内容にしても、実際はKeditやKwriteを起動させるのに、「メモ帳」や「ワードパッド」といった名前で登録する念の入れようだ。コントロールセンターもオリジナルはツリー形式だが、よりシンプルなデザインでまとめている。ファイル選択時のダイアログデザインは「著作権に抵触しないのか?」と思わせるほどWindowsそっくりである。Windowsユーザーが戸惑わないように、違和感を感じないように、尽力した結果が見て取れる。

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メニューのタイトルはWindowsに準拠させた


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ホームやネットワークプレイスも表示するダイアログ


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インデックスを整理したコントロールセンター


Windowsとのネットワーク共有

 その一方で、Windows共有、あるいはSambaと連携させる「Windowsネットワーク」の作り込みにはやや弱さを感じた。Sambaの設定ファイルsmb.confには、EUCの指定が見られシフトJISへの配慮設定がなされていないし、Lisaデーモンに至ってはデーモン起動自体はするものの、localhostのアイコンが多数表示されてしまうなど、まったく着手されていない。

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ワークグループの表示


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Windowsネットワークで周囲のコンピュータを表示


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smb.confの設定はデフォルトに準じる


 実用上、Lisaがなくても支障はないだろう。しかし、利用できるのであれば、smbだけでなくnfs、ftp、httpなどにもプロトコルを越えた共有リソースアクセスができるようになる。だがLisaの設定は非常に面倒であり、正常な動作まではかなり苦労させられた。Windowsとの親和性をコンセプトとして、nfsやftpなどのUNIX系プロトコルを捨て、Windowsと共存するためのsmbプロトコルに的を絞ってきたことは理解できる。しかし実際に動作させてみると、認証に失敗したり、転送速度が出ない、果てはストールしてしまったりと、少々甘い点が残っているといわざるを得ない。

 10Dには2000種以上のプリンタドライバが用意される。エプソンとキヤノンは以前からLinux用のプリンタドライバを積極的に提供してきたが、10Dには沖データのプリンタ、特にドットインパクトプリンタのドライバも随時提供される。コンシューマにとってドットインパクトプリンタは過去のものだが、複写式の帳票伝票はドットインパクトプリンタでなければ出力ができない。ビジネスプリンタには層の厚いメーカーでもあり、企業ユーザーにとってはプラスに働くだろう。エンドユーザー向けのインクジェットプリンタも、Windows上と同等の操作が行えるようになっている。

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CUPSからインクジェットプリンタの制御も可能


 製品としての10Dのラインアップは廉価な「Basic」と、StarSuite 7、ATOK X、パーティション操作ツールといった商用ツールをバンドルした「正規版」の2パッケージとなる。バンドルソフト以外の違いはサポートとマニュアル(印刷物)であり、Basicはユーザー登録後30日間3インシデント。正規版は登録後60日間無制限、加えてバンドルソフトもサポートされる。企業ユーザーはオフィススィートが必要であろうから、Officeファイルとの互換性、FlashやPDFも即座に出力できるStarSuite 7バンドルの正規版の選択が妥当だろう。このバンドルされたStarSuite 7にもターボリナックスは手を加えており、Officeで作成時のフォントと、10D上フォントとの置換設定が働く。Officeで作成した画面、見栄えと、StarSuite上での見栄えが変わらないように調整されている。

Xの文化を理解するステップを目指す

 10Dのもうひとつのターゲットは、コンシューマでWindowsを使っているエンドユーザーである。これらのユーザーに対しても、筆者は正規版をお勧めする。「ネットワーク系の作り込みが甘い」ことは前述したが、実はそれ以外にも細かいアラが気になってしまったのだ。確かに、Windowsとの親和性というコンセプトの元、Windowsユーザーに対するきめ細かい配慮は大したものだ。違和感のない操作性、ファイル互換性、Windows環境との共存は成し遂げられたと言ってよい。しかし実際に使ってみると、疑問に思う個所も散見する。見かけも操作性もWindowsと非常によく似ているのだから、エンドユーザーなら疑問はさらに大きなものとなるだろう。Basic版の3インシデントサポートだけでは、恐らく解決しきれない。

 日本に拠点を置き、日本人エンジニアのサポートが受けられる。60日間なら何度でも質問ができるのだ。価格差はバンドルされるソフトウェアの価格だけでも充分に釣り合う。それに加え手厚いサポートだ。利用しない手はないだろう。このため、Basic版はある程度自力でシステムに手が入れられるエキスパートユーザー向けと考えた方がよい。

 デスクトップをLinuxへリプレースするという試みは、これだけWindowsが普及している昨今、一朝一夕には推進できないだろう。WindowsとLinuxにおける「文化の違い」も大きいためだ。そのためにはまず、Windowsユーザーが違和感なくLinuxを使えること。それが第一だと10Dは訴える。違和感なく使えるようになって初めて、システム内部にも興味を抱く。その時ユーザーは、文化の違いを知り「Windowsユーザー」から「Linuxユーザー」へとなるのだろう。

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[渡辺裕一,ITmedia]