エンタープライズ:ニュース 2003/11/13 10:42:00 更新


iSeriesの生みの親、札幌のiSUCでさらなる進化を約束

札幌でIBMの中小型システムユーザーを対象とした年次総会「iSUC」が開催されている。iSeriesの生みの親といわれるソルティス博士も来日し、先月下旬、25周年を祝ったiSeriesの継続的な強化を約束した。

 11月12日から3日間、北海道札幌市でIBMの中小型システムユーザーを対象とした年次総会「iSUC」(アイザック)が開催されている。iSUCは、IBM eServer iSeries(旧AS/400)の企業ユーザーが主体となり、スキルアップやユーザー同士の情報交換を目的に1990年から毎年行われ、今年で14回を数える。初日は雪に見舞われたものの、会場となった札幌コンベンションセンターには、ユーザーやパートナーら1600人を超える参加者が詰め掛けている。

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日本IBMの大歳卓麻社長も「熱気に圧倒される」とパーティーで話す。ユーザー手作りのカンファレンスで「IBM色」は強くない


 この10月下旬、25周年を祝ったばかりのeServer iSeriesは、いわゆる「オフコン」と呼ばれていたカテゴリーに属し、中堅企業を主なターゲットとしている。世界で75万台が出荷され、約30万社で稼動しており、日本国内でも3万社に上る中堅企業の基幹業務を担っているという。

 iSeriesの生みの親といわれるフランク・ソルティス博士(チーフサイエンティスト)もiSUCのために来日し、「iSeriesユーザーから寄せられる高い顧客満足度は私の誇り」と話す。iSeriesは顧客満足度に関するほとんどすべての調査でナンバーワンを獲得しており、8月に行われた調査でもAppleを抑えてトップにランクされたという。

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iSeriesの生みの親、ソルティス氏。ミネソタ州ロチェスターを拠点としている


 プレスを対象としたブリーフィングでソルティス氏は、ほかのIBM eServerラインとハードウェアおよびソフトウェアの共有化を進め、さらにiSeriesが進化することを強調した。IBMは2000年10月、メインフレーム、AS/400、RS/6000、およびx86 PCサーバという4つのサーバ製品を「eServer」というブランドに統合、以来その技術の共有化やソフトウェアを含むソリューションの共有化を図ってきた。

 「われわれは1990年代後半から、共通のハードウェア、共通のプロセットをベースにし、一部OSやミドルウェアを共有できるようにすることが重要だと信じてきた」とソルティス氏。数年前から彼は、iSeriesだけでなく、すべてのeServerラインに関わるようになっているという。

 共通化の最も重要な柱となるのがPowerプロセッサだ。iSeriesとUNIXサーバであるpSeriesは同じPowerプロセッサを搭載し、メモリやI/Oにも多くの共通点がある。メインフレームであるzSeriesは、プロセッサこそ違うがそれ以外は共通化されているコンポーネントが多い。x86プロセッサを搭載するxSeriesも、上位サーバのテクノロジーが多いに利用されている。

 ソルティス氏は、こうした共通化によって顧客が享受できる恩恵として「AIXアプリケーションの統合」「新しいPowerプロセッサによる性能向上」を挙げ、さらにミドルウェアの共通化はISVらに対しても開発負担の軽減をもたらすと話す。WebSphereを例に挙げれば、現在はiSeries用とpSeries用ではインプリメンテーションが異なる。これが単一のコードベースになれば、リリース時期が早まり、アプリケーションの開発も一度で済むようになるという。

HyperVisor機能をPowerプロセッサに

 複数のOSを同じハードウェア上で動作させる技術は、IBMが誇るメインフレーム技術の一つ。同社では、OSから共通レイヤの幾つかを切り離し、Powerプロセッサに組み込む作業を進めている。中でも「HyperVisor」と呼ばれる技術が複数OSの動作を可能にしている。1台のマシンを複数の仮想的なサーバに分割できるこの機能を利用すれば、ばらばらに展開されたサーバ群を統合し、運用管理の簡素化を図ることができる。

 「メインフレームの“VM”こそがHyperVisor技術。VMはソフトウェアだったが、現在ではその一部がPowerプロセッサに組み込まれている」とソルティス氏。

 既にiSeriesでも、OS/400とLinuxを同時に動作できるほか、AIXも動作できるようにすることを表明している。xSeries 440などで提供されているマルチパーティショニング機能もこの流れを汲んでいる。こうした技術の共通化が進めば、企業内に混在する異なるプラットフォーム間でワークロードに応じてアプリケーションを動的に配備できるようになるという。いわゆる「イントラグリッド」の実現に道が開ける。

 ソルティス氏は、来年登場するPower5プロセッサがiSeriesをさらに強化してくれるとも話す。新しいデザインと実装技術の進化によって、性能が2倍に高まり、現在32ウェイまでのSMPは64ウェイまで拡張され、ハイエンドでは約4倍の高性能化が期待できるからだ。

 さらにPower5は、性能向上だけでなく、小型化という点でも現行のPower4から改良が加えられるという。Power4が発熱対策のために大型化したのに対して、Power5では低速動作時に発熱量を抑えるデザインが採用され、ブレードサーバへの搭載も可能になる。ソルティス氏によれば、既に開発意向が表明されている「Power Blade」にはPower5が採用されるという。

 任天堂やソニーに続き、MicrosoftもXboxでPowerPCプロセッサの採用を決めており、製造ラインを共有するPowerプロセッサは、将来に渡る投資の継続も容易となっている。

 「コモディティ化されたマイクロプロセッサ事業を目指しているのは、インテルとIBMだけ。さまざまなデバイスとグリッド化されたサーバの世界が同じPowerアーキテクチャで接続される」とソルティス氏。アプライアンス分野での幅広い普及が見込まれるLinuxへの対応もその意味で重要なのだという。

 「iSeriesがなぜ成功? 多くのベンダーが(メインフレームやオフコンへの)投資を中止する中、IBMは投資を続けてきた。それが抜本的な要因だ」(ソルティス氏)

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[浅井英二,ITmedia]