エンタープライズ:コラム 2003/11/27 17:09:00 更新


Gartner Column:第120回 2003年から2004年における企業ユーザー新規IT投資の内容は?

2003年通期のIT総予算額は、前年度比で増加の傾向を示すことが明らかになった。新規IT投資も、2003年度、2004年度どちらも増加傾向にある。企業ユーザーは何に投資しようとしているのであろうか。

 ガートナーITデマンド調査室が実施した日本国内向け2003年10月のユーザー調査では、2003年通期のIT総予算額は、前年度比で増加の傾向を示すことが明らかになった。継続分野を除いた新規IT投資も、2003年度、2004年度どちらも増加傾向だ。企業ユーザーは何に投資しようとしているのであろうか。

 2003年のIT総予算額は、2003年3月時点では減少を予定する企業ユーザーの方が多く、全体的には微減となる予定であった。それが2003年10月の新しい調査では増加を予定する企業が増え、さらには新規IT投資額に至っては、増加傾向がより強く出るという結果となった。1年ごとに投資額を見直す企業は全体の4割であり、そのほかの6割も半期か四半期ごと、あるいは案件ごとに見直すことも分かっており、2003年度の下期にIT投資が幾らか増える傾向に変わってもおかしくはない。

 もちろん、景気がほんの少しであるが上向き傾向にあることが大きく影響しているだろう。さらには、過去2年間、投資を我慢にしていた企業が、この上向き気味の景気をきっかけに、新規投資に走ったと考えてもおかしくない。2004年も新規IT投資に限っては、増加傾向を示す結果が出ている。

 では、日本の企業ユーザーはどのような分野に投資をしようとしているのだろうか。下の図は、2003年から2004年にかけての、主要な新規IT投資分野を調査した結果である。インフラ、アプリケーション、サービス、ネットワークと、25分野にわたる幅広い分野から、投資案件をすべて選択してもらった。

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 まず半数以上が選択したのは、「既存システムのアップグレード」であった。データの増加、トラフィック量の増加などから、より高い性能と信頼性が必要になっている証拠であろう。

 さらに、インターネットがネットワークインフラとして普及する中で、不正侵入や情報漏洩を管理・抑制する「セキュリティ管理」も重要な投資分野だ。多くの企業では、余剰的な予算がない限り、大きな問題が起こってからでないと、その具体的な対策には乗り出さない。「セキュリティ管理」を4割の企業ユーザーが選択しているということは、その4割の企業では、情報システムのセキュリティ上に重大な問題を持った経験があるということと同義と言ってもよいであろう。ちなみに「セキュリティ管理」の選択率は大規模企業ほど多くなっている。

 また、上位10分野の中には、既存システムのアップグレードや機能追加、既存ネットワークの整備、既存システムの集約化、既存アプリケーションやネットワークのWeb化、プラットフォーム変更など、既存システム資産の有効活用を目論むものが多い。

 しかしながら、具体的な技術となってくるとその選択率は小さく、上位10分野にはランキングされていない。それらは、Webサービス、データウェアハウス、EAIツール、ビジネスインテリジェンス、EIPなどだ。10社に1社もこれらを選択していない。データウェアハウスについては第112回のコラム(データウェアハウスはビジネス効果創出の基盤)でも説明したとおり、そのあるなしでビジネス効果も大きく変化することが分かっているにもかかわらずだ。

 大多数の企業ユーザーにおける新規IT投資の最重要分野は、既存のシステムに対して、新しい技術を用いるより、枯れた技術で比較的容易に性能や信頼性を高めたり、Web化によってネットワークを安価にして、使い勝手も良くすることに重点が置かれている、ということだ。

 では、期待のLinuxを代表とするオープンソースシステムの採用についてはどうだろうか。Linuxサーバの利用率(1社で1台でも導入していれば、利用中とみなす)は、2年前(2001年8月調査)は17%だったのが、2003年10月調査では、30%を上回った。猛烈な勢いで利用率は高まっているようにみえる。

 しかし、台数ベースで見ると全サーバ(メインフレーム、オフコン、UNIX、Windows含む)のうち、Linuxサーバの占める比率は5%にも満たない。さらには、向こう3年の間に投資案件として新規導入を計画している企業も2%強という非常に少ない比率だ。今回の主要な新規IT投資分野の調査でも、「オープンソース(Linux、Postgre SQLなど)の導入・管理」を選択した企業は3%にも満たない。オープンソースシステム導入はまだまだ試験的な段階で、ビジネス上で利用する本格導入はまだ先の話だと言っている声がユーザーから聞こえてきそうだ。ちなみに、Linuxサーバを利用する最大の懸念事項は、「社内の技術力不足」で6割以上がそう答えている。

 では、企業ユーザーの情報システム部門が抱える最大の問題は何であろうか。そこでも、第1位は「技術者のスキル不足」で半数以上が最大の問題と答えている。次が、「技術者の数の不足」、そして「投資対効果が測定できない」の順となっている。

 ITベンダーは、いかにも大きな効果が出せそうな新しい技術を次から次へと提案してくるが、これまでの調査結果から明らかなのは、企業ユーザーは、身近で、比較的実現の容易な解決策を実行するのが先決で、ベンダーの提案する技術内容に追いついていないというのが現状なのだ。例えば、「TRIOLE」(富士通)、「VALUMO」(NEC)、「Adaptive Infrastructure」(Hewlett-Packard)など、主要ベンダーの提案する「自立型インフラ戦略」(ガートナーではReal Time Infrastructures−RTI−と総称)の認知度は非常に低く、少しでも内容を知っていると答えた企業ユーザーは10社に1社にも満たない。

 もちろん、夢のありそうな新しい技術を提案して新規需要を掘り起こすことはベンダーのマーケティング戦略上は必要不可欠だ。しかし、そのような理想論の話ばかりでなく、企業ユーザーの現実の問題を彼らの身になって、彼らよりほんの一歩程度先の解決案を提案することにも、注力を当てるべきではないだろうか。

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[片山博之,ガートナージャパン]