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2004/02/24 18:16:00 更新


公的個人認証サービス利用で「官」にも悩み?

ECPCとJESAPが主催する「電子署名・認証フォーラム2004」で、国税庁、外務省、JESAPの委員がパネルディスカッションを行った。

 2月23日から2日間、ECPCとJESAPが主催する「電子署名・認証フォーラム2004」が都内で開催。公的個人認証を利用したサービスを真っ先に行っている国税庁、3月末からパスポート申請を受け付ける外務省、そしてJESAPの委員3人が一堂に会してパネルディスカッションを行った。対応サービスを提供する行政側にも、おぼろげながら運用上の課題が見えてきているようだ。

 公的個人認証サービスは、一部を除く全国自治体で1月29日からスタートした。市民に対し自治体が電子証明書を発行してくれるサービスで、ネットを通じた申請の際の本人証明、内容の改ざん防止、否認確認をするものだ。2月からはこれを利用した国税申告が名古屋国税局管内の東海4県で可能になり、3月末からはパスポート申請も順次行えるようになる。

 パネルディスカッションでもらす国税庁の悩みはこうだ。「公的個人認証とe-Taxが同時スタートしているため、ICカードリーダがつながらないなど公的個人認証に関する問い合わせも国税庁のヘルプデスクにきている」(国税庁の岩崎吉彦長官官房企画課情報技術室長)という点。サービス提供者である下流の国税庁に対して、公的個人認証に関する問い合わせも寄せられているという。今のところ大きな混乱はないようだが、初期に見られがちな問題が発生しているようだ。「始まったばかりのサービスを利用して申告しようというチャレンジングには頭が下がるが……」

 岩崎氏は「公的個人認証とe-Taxは運命共同体と考えている」と述べるものの、国税庁がPCへのリテラシーが異なるユーザーから使用環境を聞き出し解決する作業は、少々荷が重いのが本音だろう。「税金という理由上、パワーユーザーだけでなくPCの知識がない人も利用するし、高齢者のPC使用率も高い。すると、本当はトラブルでなくても(ユーザーには)トラブルに見えてしまう」。

 一方、外務省はすぐに専用のヘルプデスクを設けない方針のようだ。これには、パスポートの発行は都道府県に委託する第一号法廷受託事務になっていることに理由がある。自治体にヘルプデスク対応までさせるのは難しいとの判断からだ。「中央省庁の国税庁がヘルプデスクを立ち上げたのはえらい」と外務省領事移住部旅券課の北村 進氏。

 外務省はパスポート申請ソフトにJavaアプレットを採用したが、例えば、JRE(Java Runtime Environment)の説明を都道府県の旅券発行窓口が行えるかというと、確かに現実的ではないのかもしれない。

利便性より行政の効率化

 次に浮かび上がるのは、利用促進につながるサービスの「使いやすさ」に関する点。ユーザーの利便性向上よりも行政の効率化がまだ先にきている印象だ。

 「公的個人認証の普及には使いやすいアプリケーションを」と求める会場の税理士からの指摘に、国税庁の岩崎氏は、「大規模なシステムを限られた時間とリソースの中で動くもの作るとなると、何かを切り落とさなければならない。何を切り落としているかというと、“使い心地”の面になってしまう」と答える。使い勝手に関しては「ご意見をいただいて改善していく」方針という。

 外務省の北村氏は、この指摘に「正直やむなし」と答える。オンライン申請による利便性向上と同時に、旅券事務の効率化も課せられている責務だからだ。まだ「各都道府県のベンダーで若干異なるシステム仕様を吸収して、外部システムである旅券アプケーションを全国で問題なく利用できる仕組みを作る」段階にあるという。現状では急ぎのパスポート申請をするには、オンラインよりも窓口申請の方が当面は早いとも。

 ただ、旅券アプリではかなりユーザーに配慮したようだ。住基カードから基本4情報を読み取り、自動記入される機能を持たせたり、写真の簡易レタッチ機能なども用意している。しかし、アプリケーションでユーザー補助をしようとすればするほど、今度は反対に「アプリケーションが大きくなってしまい、みんなに使ってくれとは言えなくなる」のが現実という。

 JESAP企画委員の松本 泰氏(セコム)は、「使いやすさは結構良い」との意見。「苦労しているのだから、そのノウハウや技術情報が公開されると、公的個人認証は広く使われるものになる」という。

 利便性の面では、総務省が各省庁のサービスをワンストップ化していこうとする流れもある。ポータルの設置を求める会場の意見に対し、JESAP運営委員長の大山永昭氏(東京工業大学教授)は、「十分なセキュリティが確保されていれば問題ないが、悪さをする人が一人でもいれば理解を得るのは相当難しい。まだ機は熟していない」との考えを示した。

 電子政府の実現に向けての根幹となる公的個人認証サービス。同サービスを活用できるe-Taxの発行ID数も現状5000件程度と、あまり利用されていない印象だが、「まだ始めたばかり。多いか少ないか判断できない」(国税庁の岩崎氏)。

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[堀 哲也,ITmedia]

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