コラム
2004/04/19 11:36 更新

国内代表者に聞くオープンソースの今:
商用製品から生まれたオープンソースRDBMS「Firebird」、加藤大受氏コラム

Firebirdは知らなくても、InterBaseは知っているかもしれない。「InterBase」を起源に持ち、商用製品に負けないプロジェクト体制を持つつオープンソースのRDBMSを紹介しよう。

Linuxチャンネル連載「国内代表者に聞くオープンソースの今」。第2段の最初は、商用のRDBMS「InterBase」を起源にもつオープンソースのRDBMS「Firebird」を取り上げる。2004年4月3日に設立されたばかりの「Firebird日本ユーザー会」の理事長を務める加藤大受氏にコラムを執筆いただいた。

 Firebirdは他のオープンソースの製品と異なり、商用製品をベースとして登場したオープンソースのRDBMSです。商用製品をベースにしているオープンソース製品といえば、netscape社が公開したソースを元にオープンソースプロジェクトとして開発が続けられているインターネットブラウザのMozillaが有名ですが、FirebirdはMozillaとは違い、ベースとなっている商用製品と競合状態を続けています。少し特殊な経緯を持つFirebirdについて簡単にお話ししたいと思います。


Firebirdは約20年の歴史を持つRDBMS

 Firebirdは、約20年前にジム・スターキー氏を中心に創始されたnterBase Software Corp.が開発した商用のRDBMS「InterBase」を起源にもつ、コンパクトで操作性に優れたRDBMSです。InterBaseは数年間の開発期間を経て、1986年に最初のバージョンがリリースされます。その後、InterBaseは何度も買収されながらも製品がなくなることなく、現在もDelphiやJBuilderなどの開発ツールで有名なBorland Software社より最新版であるInterBase 7.1が販売されています。ではなぜFirebirdは登場したのでしょうか?

 それは2000年に遡ります。2000年に1月3日にBorland社はInterBaseの最新版となる開発中のInterBase 6.0をオープンソースとして公開することをアナウンスし、同年7月25日にInterBase Public License(IPL)の下、製品のソースおよびバイナリが公開されました。このソースコード公開によって、Firebirdプロジェクトがスタートします。そして、2002年3月12日にInterBase 6.0との完全互換のFirebird Version 1.0が、2004年2月21日に最新版であるFirebird Version 1.5がFirebirdプロジェクトよりリリースされています。一方、Borland社はInterBase 6.0以後のソースコードは公開されず、独自製品として開発が続けられています。

 このような理由により、Firebirdは起源を同じくするInterBaseと競合関係を続けています。イメージ的には商用であるInterBaseの方が優れた製品であるかのように思われがちですが、Firebirdプロジェクトには過去にInterBaseの開発を行っていたメンバーが数多く参加しているだけでなく、InterBaseの初代アーキテクトであるジム・スターキー氏も64ビット版の開発に参加しており、商用製品に負けないプロジェクト体制を持っています。個人的にはFirebirdがInterBaseの直系だと思っています。

Firebirdの特徴

 商用製品をベースとするFirebirdの特徴を簡単にまとめると次のような製品です。詳しく知りたい方はぜひFirebird日本ユーザー会のWebサイトをご覧ください。

  • 非常にコンパクトでかつ、チューニングレスなパワフルなデータベースエンジン
  • Windows、Linux、FreeBSD、Mac OS X、Solarisなどのプラットフォームをサポート
  • SQL-1999準拠
  • フルUNICODEサポート
  • 履歴型アーキテクチャ(バージョニングエンジン)
  • Blob、多次元配列のサポート
  • ストアドプロシージャ、イベント、トリガーなどのアクティブデータベース機能
  • イベントアラータ機能
  • 多彩な開発ツールサポート
  • 組み込み用途でも利用できるDLL1本にすべての機能が提供されているシングルサーバーであるEmbeded Server

 FirebirdはこれからRDBMSを勉強する初心者の方でもすぐに利用を開始することができ、開発したデータベースアプリケーションを運用していける非常に敷居の低い製品です。また、より深くRDBMSを知りたい人やRDBMSの研究者の方には、クエリーオプティマイザやクエリープランなど、本来であれば企業秘密となっている商用製品のソースコードが参照できます。

Firebirdプロジェクトとユーザー会について

 Firebirdは商用製品をベースとしており、欧米の多くのユーザーはInterBaseを利用した経験を持っています。そのため、他のオープンソースプロジェクトと異なり、新しい機能を提供していくことよりも、いかに安定した製品を提供していくかを重要視しています。システムの要となる大切なデータを保存するRDBMSだからこそ、製品の信頼性が一番だと考えているからです。このような考えのため、製品の開発は非常にゆっくりとしていますが、正式にリリースされた製品については商用製品と同じように安心して利用できるようになっています。

 Firebirdプロジェクトはオーストラリアに本部を置くFirebirdSQL Foundationという非営利組織に支えられています。このFirebirdSQL FoundationはFirebirdプロジェクトに参加している優秀なプログラマに資金援助をしたり、Firebird製品をより多くの開発者に利用していくための様々な活動を行っています。

 日本においても約10か月間の準備期間を経て、2004年4月3日に、Firebirdのさらなる普及を目指す非営利・中立のユーザーグループである「Firebird日本ユーザー会」が発足しました。国内においてはユーザー会を中心に、メーリングリストでの開発同士の交流やセミナーなどを通じてより多くの開発者にFirebirdの良さに触れてもらいたいと思います。

最後に

 Firebird日本ユーザー会はまだ生まれたばかりの組織です。ぜひ多くの方々に参加していただき、よりよいコミュニティへと育てていきたいと思います。

皆さんの参加をお待ちしています。

関連リンク
▼Firebirdプロジェクト
▼Firebird日本ユーザー会
▼InterBaseはどのようにして生まれたか(アン・ハリソン氏の"How InterBase came to be"の日本語訳)
▼Linuxチャンネル

[加藤大受,ITmedia]

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