IDG インタビュー
2004/05/10 21:06 更新

Interview:
「すべてのLinuxユーザーが保護を必要としているわけではない」とペレンス氏

SCOとLinuxコミュニティーの紛争、オープンソースの行く末……つい先日、Linux保険を発表したOpen Source Risk Management(OSRM)の取締役会の役員にも指名されたブルース・ペレンス氏が語った。

 ハッカー、オープンソースの擁護者、ベンチャーキャピタリスト、企業人、賢人……。ハッカーとしての信用度とビジネスのノウハウを併せ持つブルース・ペレンス氏はこの数年、多くの異名をとるようになった。同氏は最近、SCO GroupとLinuxコミュニティーの間で起きている紛争に関するマスコミの取材に追われており、その合間にLinuxやオープンソースに関する講演をしたり、IT企業にコンサルティングサービスを提供する日々を送っている。

 ペレンス氏は5月1日、Open Source Risk Management(OSRM)の取締役会の役員に指名された。ニューヨークに本拠を置く社員15名の新興企業であるOSRMは、オープンソースソフトウェアのユーザーおよび開発者向けの専門サービスに加え、訴訟に備えた保護対策を提供している。

 Open Source Initiativeの創始者の一人であるペレンス氏は5月6日、IDG News Serviceの取材に応じ、OSRMに関する事柄や、Linuxユーザーの保護、SCOによる訴訟がプロプライエタリソフトウェアの世界に与える影響などについて語った。以下に、同氏とのインタビューの抄録を掲載する。


―― SCOの訴訟がきっかけで、法律関係者の間でオープンソースソフトウェアやオープンソースライセンスへの関心が大きく高まりました。SCOの訴訟は、法律家にとって、にわか景気を生み出したと思いますか。

ペレンス 市場が生まれたのは確かですが、にわか景気だとは思いません。法律家が行っているのは、契約作成業務や審査業務だけです。

―― しかしLinuxを利用しているすべてのユーザーが突然、法的責任について考えるようになりました。

ペレンス Open Source Risk Managementがこの問題に対処しようとしているのはそのためです。

―― OSRMはこの機会に乗じているように見えますが。

ペレンス OSRMはFUD(恐れ、不安、疑念)に付け込んでいるのではありません。何が本当のリスクであり、何が本当のメリットであるかを知らせようとしているのです。

―― オープンソースソフトウェアが企業の関心を引き始めた当初、「フリー」ソフトウェアだと受け止められましたが、これは誤解でしょうか。

ペレンス 決してそんなことはありません。オープンソースは今でも、自由と無料という両方の意味でフリーソフトウェアだと私は考えています。企業が無償でソフトウェア手に入れることはできないという理由は今でも見当たりません。

―― しかし現在、訴訟に備えた保護対策費というコストが必要になっているのでは。

ペレンス あらゆるユーザーにOSRMから免責契約を購入するよう勧めているわけではありません。大企業に対してソフトウェアのリスクに注意を払うよう勧めているのです。OSRMの主要業務は保護を提供することではなく、そのほかの方法でリスクを管理することです。

―― 現在、保護を必要としないのは、どんな企業ですか。

ペレンス 企業は免責契約の購入を誰かに勧められでもしないかぎり、従来の企業向け損害賠償保険に入るのが普通です。ある程度の規模の企業であれば、たいてい損害賠償保険に入っています。オープンソースとは関係なく、さまざまな問題で責任を問われる可能性があることを企業は認識しており、こういったリスクに保険をかけているわけです。

 OSRMの最大の役割は、オープンソースに限定されない包括的な保険契約を提供している既存の保険会社と提携し、保険契約の中でオープンソース関連の部分を合理的なものにすることです。大企業の場合は例外なく、損害賠償責任に入っています。

―― NovellやHewlett-Packardなどの企業は、Linuxの顧客に保護対策を提供しています。こうった契約を推奨しますか。

ペレンス 現時点では、企業ベースの保護対策は推奨できません。企業の保護を受ける顧客がその企業に最初に要求しなければならないのは、「保護対策であなた方が費用を支払うことになった場合に、あなた方に適用される保険契約を見せていただきたい。われわれが持ち込む可能性がある損害賠償を支払う能力があなた方にあるか確認する必要があるからだ」ということです。

 保護対策を提供しているという企業、これはオープンソースだけに限ったことではなく、プロプライエタリソフトウェアメーカーの多くが自社製品による著作権侵害に関して何らかの保護対策を提供していると主張していますが、そのほとんどは賠償金を支払わなければならなくなると破産するでしょう。ほとんどの企業が、賠償金の支払いに適用される保険に入っていないのです。

―― OSRMは今後1年間、Linuxユーザーにどんな影響を与えるでしょうか。

ペレンス われわれはリスク管理およびリスク保証の両面で、プロプライエタリソフトウェアに提供されているものよりも優れた保険でオープンソースのリスクに対応しようとしています。これは、オープンソースの問題を解決するということではありません。オープンソースがプロプライエタリ分野のどの企業にも負けないようにしようとしているのです。

―― プロプライエタリソフトウェアのユーザーが知的財産の侵害で賠償金を支払わなければならなくなったという事例はあるでしょうか。

ペレンス プロプライエタリ分野の多くの人々がSCOからヒントを得ることで、われわれはソフトウェア特許に関して非常に悪い時代に向かいつつあると思います。発明に値しない無効なソフトウェア特許が不適切に発行され、こういった特許が氾濫する結果、自らを守るための資金的余裕ない人々がどんどん告訴されるという事態が起きるでしょう。

 この問題で最も困るのはオープンソースデベロッパーですが、中小規模の企業にとっても問題です。オープンソースデベロッパーが告訴された場合、おそらく長期間の裁判を戦う資金がないために和解に応じることになるでしょう。私の知っている例では、デベロッパーが著作権を原告に譲渡し、同様のソフトウェアを開発しないという誓約書に署名したというケースがあります。

 問題は、米国の特許法では、使用を含む特定の行為に対して訴訟を起こされる可能性があるということです。つまり法律的には、製品に特許侵害がある場合、特許保持者はその製品の購入者を告訴することができるのです。判事がこういった訴訟を却下する可能性もありますが、これについてはまだ分かりません。

 小規模企業のユーザーの場合は、あまり目立たないので問題はないと思います。問題はソフトウェアデベロッパー、そしてソフトウェアを利用する大企業です。法律を変えないかぎり、大手ベンダーだけがソフトウェア事業を行うことができ、小規模ベンダーには差別的税金が課せられるというようなシステムが出来上がってしまうでしょう。

関連記事
▼ついに出たLinux保険
▼レイモンド、ペレンス両氏の新たな反撃で、SCO論争さらにエスカレート
▼HPとIBMがLinuxを傷つける可能性を指摘したオープンソースの導師
▼Interview:トーバルズ氏、SCO問題とLinuxのこれからを語る
▼波紋を広げるSCOの知的所有権問題

[IDG Japan]

Copyright(C) IDG Japan, Inc. All Rights Reserved.