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2004/05/27 04:53 更新


モバイルアプリ開発も簡素化──「錬金術」に挑むBEAのカリスマ

Quattro ProやAccessの開発でその名を知られるBEAのボスワース氏が新たなプロジェクトを開始した。モバイルワーカーに対してもオフィスと同じ操作環境を提供したい、しかも、デバイスごとの重複開発は避けたい、まるで「錬金術」のような構想だ。

 BEA信奉者のカリスマが、また新たなプロジェクトを開始した。「Alchemy」(アルケミー:錬金術)のコードネームから分かるとおり、これまで多くの人が試みながら成し遂げることができなかったものだ。

 米国時間の5月26日、「BEA eWorld 2004 San Francisco」は2日目を迎え、午前のゼネラルセッションにBEAでチーフアーキテクトを務めるアダム・ボスワース氏が登場した。

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モバイル機器を手に「Alchemy構想」を語るカリスマ、ボスワース氏


 ボスワース氏はかつて表計算ソフトウェア、Quattro Proの開発に貢献し、マイクロソフトに移籍してからは、AccessやInternet Explorer向けHTMLエンジン、各種XML技術の開発を指揮した経歴を持つ。その後、自身で設立したCrossgainがBEAによって買収されたのに伴い、2001年からはBEA WebLogic Serverの戦略的かつ技術的な方向付けに関与してきた。Metadataを利用してJ2EE開発を簡素化するWebLogic Workshopは、彼の成果の一つ。Metadataは、プラグラマーが宣言を使ってビヘイビアを制御するもので、Javaプログラムがシンプルで統一された動きをするようコードの中に書き込めるようにしてくれる。

 また今回、BEAは「Liquid Computing」というビジョンを明らかにし、初日のキーノートでアルフレッド・チュアングCEOも多くの時間を割いて詳細を説明している。このビジョンもボスワース氏が1年半前に書いた論文が下敷きになっているという。

 この日のゼネラルセッションで彼は、エンタープライズITの進化過程を振り返りながら、「メタデータ指向のアプリケーションと疎結合の組み合わせがカギとなる」とし、柔軟にそれ自体を変えて順応していける新しいコンピューティングのビジョン、Liquid Computingへの道のりを示した。

 eWorldの初日、同社はBPM(Business Process Management)の機能を統合した「BEA WebLogic Server Process Edition」を今年夏に出荷することを明らかにしている。ステージでは、新製品に統合されているWebLogic Workshop Process Editionもデモされた。

 オーダーエントリーシステムを幾つかのコントロールをドラッグ&ドロップしながら開発していくのは既にお馴染みだが、新しいBEA WebLogic Serverでは、さらに複雑なAPIを呼び出す必要のある非同期のプログラミングも同じモデルに統合している。例えば、州によって異なる税率を調べるWebサービスからのメッセージを非同期で待つあいだ、割引価格を計算したり、在庫の仮予約を並行して行うといった本来であれば複雑なプログラミングも、メッセージングの機能が組み込まれたプラットフォームと統合されているWorkshopであれば、いとも簡単に開発できることを披露した。

Webサービス標準でブラウザを拡張

 これまでJ2EE開発の簡素化に取り組んできたボスワース氏だが、新しいAlchemyプロジェクトではクライアントサイドの開発効率に着目する。既に昨年7月のインタビューで彼はその構想の一部を明らかにしていた。

 アプリケーションのユーザーインタフェースはその大半がHTMLに移行する中、マイクロソフトは、よりリッチな「スマートクライアント」への回帰を喧伝するが、ボスワース氏は、「人はスマートだったからWebに軍配が上がった」と一蹴する。

 パートナーや顧客らにクライアントアプリケーションを配布してサポートすることは不可能だし、社内がGUIで、社外はWebといった重複開発も荷が重い。多くの企業がそう考え、80%から85%のアプリケーションのユーザーインタフェースはHTMLで書かれるに至っている。

 しかし、急速に普及を見せるモバイル機器への対応は、いまだ解決されていない課題だ。

 常に接続しているわけではないモバイルワーカーに対してもオフィスにいるのと同じ操作環境を提供したい、しかも、デバイスごとの重複開発は避けたい ── まるで錬金術のように思えるユニバーサルクライアント構想だが、ボスワース氏は、標準的なブラウザにキャッシュや、XHTML、SynchML、JavaScriptといったWeb標準の技術を追加してやることで、それが可能になるコンセプトをデモで証明してみせた。

 しかもAlchemyは、非同期通信、XML、およびWebサービスをベースとしているため、クライアントアプリケーションの開発にJavaやJ2EEの知識は必要ないという。ちなみにこの日のステージにはボスワース氏の若い息子まで登場し、「彼はプログラマーではないが、スクリプトでここまでリッチなアプリケーションが出来る」と誇らしげに話した。

[浅井英二,ITmedia]

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