ペーパーレスとお客様対応レスポンスタイムを50%短縮、製品開発のナレッジデータベースとしても期待――池田模範堂:導入事例(2/2 ページ)
暑い夏に、誰もが一度はお世話になったクスリ「虫さされのムヒ」。「越中富山の薬売り」で有名な富山県に本社を置く池田模範堂の製品だ。同社が製品に関する問い合わせを電話で受け付ける「お客様相談窓口」を設置したのは1995年。ところが2007年、この体制を見直すきっかけとなる出来事が起きる。それは、会社組織を改編し、全国の支店まで巻き込むことになるプロジェクトの始まりでもあった。
紙はゼロ、レスポンスタイムは約半分になり、情報共有も大幅に促進
もともと、今回のシステム導入のきっかけは、紙によるデータ保存の限界であった。その点については、まさに劇的な改善が見られた。
「年間では6000〜7000件のお問い合わせがあり、1件につき最低でもA4用紙1枚を書き起こしていました。もちろん、1枚で足りるとは限りませんので、年間では約1万枚の用紙が必要でしたが、新システム稼働後は、紙の使用量はゼロになりました」(佐々木氏)
お客様への対応もスピーディかつ的確になった。お客様相談窓口の担当者のデスクには、左右2台のモニターが用意されている。右側はFAQの確認用、左側がデータ入力用である。電話を受けると、担当者はFAQを参照しながら、すぐに回答できるものはその場で回答する。品質調査が必要な場合は、品質保証部門に調査が依頼される。
品質保証部門からの回答は、必ずお客様相談窓口を通じてお客様に届けられ、品質管理部門から直接お客様に電話することはなくなった。この結果、お客様へのレスポンスタイムは、これまで10〜15分はかかっていたのが、約5分以内には折り返せるようになり、平均すると約50%は短縮された。
営業との情報共有も進んだ。全国の支店から、システム上のデータを閲覧できるようになったため、お客様からの問い合わせとその対応が、各支店でも確認できるようになった。また、営業担当者が情報を直接システムに入力するようになったため、各支店で発生した問題とその対応を、他の支店も共有し、活用することが可能になった。
今回のシステムにより、当初の目的はほぼ達成できたが、重要なのはこれからだと、西井氏は強調する。
「お客様からのお問い合わせの中には、単なる苦情だけでなく、『こんな薬をつくってほしい』『もっと容量を増やしてほしい』……といった要望・提案も含まれています。こうした情報を商品の改良や新商品の開発につなげることが非常に重要です。今後、データが蓄積されていけば、商品の改良や新商品の開発における、まさに"宝の山"になると確信しています」(西井氏)
インターネットの普及で、誰もが簡単に情報発信できるようになったいま、顧客への対応、特に自社製品・サービスへの問い合わせへの対応は、企業価値を左右するほど重要となっている。対応を誤れば企業価値を毀損しかねないが、適切な対応をとれば企業価値の向上に結びつく。それだけに、お客様対応システムに注目する企業は、今後、ますます増えるだろう。
さらに、池田模範堂が目指すように、蓄積されたデータを商品の改良・開発に結びつけることができれば、企業の競争力の源泉ともなりうる。これからは、お客様対応システムを戦略的に活用することが、すべての企業に求められていると言えよう。
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