IT投資減少は不景気のせいだけではない:岡目IT八目
多くの企業ではこれまで効果の期待できない不必要なIT投資がまかりとおっていた。それが結果としてIT投資の減少につながった一因であることは否めない。
企業のIT投資が減少し続けている。「そんなはずはない。調査会社の調べでは、10年以上前から増加傾向にある」と否定する声が聞こえてきそうだが、経済産業省の情報処理実態調査によると、1社あたりの情報処理関連諸経費は1999年調査の11億2290万円から5億9560万円(2013年調査)に半減した。
なぜか。1998年以降からクラウドの活用や外部委託の増加によって、1社あたりの情報処理諸経費が低下し始めたという。2008年からは、企業の業績悪化が加わり、削減スピードが加速している。ある大手IT企業の役員は「増えたのは公共機関や金融機関で、海外生産へのシフトを推し進める製造業は国内IT投資を減らしている」と明かす。国内売り上げを維持しているのは、公共機関と金融機関に助けられているということだろう。
個人消費の落ち込みが続き、景気回復に時間がかかれば、企業はIT投資をさらに削減するかもしれない。企業におけるIT投資の見直しは間違いなく始まっている。これまで投資効果の期待できない不必要な投資がまかりとおっていたことは否めない。
利用部門もIT部門に「これがほしい」「あれがほしい」と要求し、例えば1年に1回しか使わない機能まで盛り込むことを求めた。作ることをメインとするIT部門は、「不必要な機能」と分かっていても、仕事を増やすために利用部門の要求に応える。結果、使われないシステムが増える。
こうした無駄なIT投資、つまり不良資産が半分近くを占めているという調査データもある。「目的が不明確なシステム」や「同業他社が作ったから、当社も作る」、さらには「使い勝手の悪さから、誰も使わなくなる」といったシステムがある。利用部門の要求が不完全だったり、利用部門への聞き取り不足だったりし、失敗するプロジェクトが5割を超えるという調査結果もある。失敗とは、予算や期日の超過、機能不足などを指す。
“偽物クラウド”を使うな
その一方で、成長を支える新システムを構築する機運が高まっている。そのためにも、無駄な投資を徹底的に減らす必要がある。素早く安価にシステムを作れる仕組みもいる。クラウドはそんなニーズに応えられるとし、利用する企業が急増しているわけだ。事実、クラウドを活用したシステム構築を展開する中小IT企業が台頭し、彼らは獲得する案件を増やしている。
「クラウドに移行しても、コストは下がらない」と主張するIT企業もいるが、そんなことはないだろう。もちろんクラウド化に不向きなシステムもあるだろうが、下がらないのは料金やサービスの内容が不明確な“偽物クラウド”だからだ。
必要なときに、必要なIT資源を容易に使える“真のクラウド”を見抜ける力と活用力をIT部門が備えたとき、IT投資は増加に転じるのだろう。IT企業には、それをサポートすることが求められている。
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