メインフレームからの卒業、194万人のITシステムを変えた札幌市が得るもの
札幌市は長年使い続けたメインフレームからオープン系システムへの移行を進め、2015年度の完成を予定している。6年に渡るプロジェクトで同市が得るものとは何か――。
約194万人(2015年3月現在)を抱える札幌市は、2010年度からメインフレームで稼働していた基幹系情報システムをオープン系に移行するプロジェクトを進め、2015年度中の完了を予定する。4月9〜10日に開催された「Oracle Cloud World」では同市が6年に渡る基盤再構築の取り組みを紹介した。
情報部門が抵抗勢力に
札幌市では1980年頃からオンライン化に取り組み、30年以上メインフレームを使い続けてきた。ただ、メインフレームを手掛けるベンダーが少ないことや、担当職員が数年で異動してしまうといった環境を背景に、結果としてベンダーへの依存度が高まる一方、ユーザーとしての主体性やシステム調達などにおける透明性が徐々に薄まっていった。
安定運用が至上命題の自治体システムにおいて、こうした状況は避けがたいことかもしれない。しかし、同時に公共性や透明性は行政にとって必要不可欠な点でもある。メインフレームの老朽化を契機に札幌市は、主体性を取り戻すこと、透明性を高めることを目的として情報システムの“改革”を決断したという。
「市の情報課ではシステムを適切に運用してきましたが、変化は必要でした。とは言え、数十年来のやり方を変更することは容易ではなく、4年ほど議論を重ねて意識を変えていきました。情報課が最も反対していました」(総務局情報化推進部情報課の長沼秀直システム開発担当課長)
システムの再構築にあたって市では方針を大転換する。例えば、調達ではハードウェアにおける機種指定を撤廃し、ソフトウェアの開発や保守については随意契約から競争入札に切り替えた。特に透明性の向上では、外部からは分かりづらい特定ベンダーとの随意契約の仕組みを解消させ、地元ベンダーの参入機会を広げることを目指した。
移行にかかる費用は総額150億円で、当初から20億円ほど増加した。人材確保やマイナンバー制度対応に伴うものだという。市側の職員メンバーは4人でスタート。開発フェーズに応じて拡充し、現在は情報課30人とシステムを利用する各課(所管課)の専任者30人ほどの約60人が担当している。
項目 | 従来 | 今後 |
---|---|---|
構成 | メインフレーム | サーバ |
調達方法 | ハードウェア(競争入札、機種指定あり)/ソフトウェア開発・保守(随意契約) | ハードウェア(競争入札、機種指定なし)/ソフトウェア開発・保守(原則競争入札) |
発注先の考え方 | 単一ベンダー前提 | 複数ベンダー前提 |
管理主体の考え方 | 市の発注でもベンダーに多く依存 | 市が発注し、主体性を確保する |
開発・管理の手法 | 発注先ベンダーの手法やノウハウに依存 | 産総研の包括フレームワーク |
年間経費 | 16億円 | 12億円(予定) |
産総研のノウハウを採用
札幌市は、市が主体的にマルチベンダーと連携していく体制を目指したものの、そのための経験やノウハウがなかった。政令指定都市の規模で同様のプロジェクトを実践した自治体も皆無だったことから、札幌市はプロジェクト手法に「産総研包括フレームワーク」(関連リンク)を活用することにした。
「ベンダーの色がないことや、産総研が実践したノウハウであり、新潟市や横浜市で採用実績がありました。実際に札幌市のパイロット事業でも活用できることが分かり、長期的に市が主体性を持って利用していけるフレームワークだと判断しました」(長沼氏)
札幌市ではフレームワークを活用してプロジェクトを実施していく。再構築対象の34システムのうち、まず2012年度に住民記録系システムが更改され、2014年度に税関連システムの更改を終えた。2015年度の福祉・国民保険系システムの更改を持って完了する。完了後は20年程度をこの仕組みで運用していく方針だ。
長沼氏によればプロジェクトでは(1)短期集中化、(2)基盤による統制――の2つを重視しているという。短期集中化は旧システムと新システムの重複期間を可能な限り短くすることで、限られた費用や人的リソースの無駄を省くためだ。基盤による統制は、マルチベンダーによる開発ではシステムのリリースが多く重なることから、トラブルを生じさせないための方法となる。具体的にはドキュメント、共通部品化、サーバOSで統制を実施しているという。
ドキュメントによる統制では産総研包括フレームワークが定める成果物標準に従って開発ベンダーが作成した成果物を札幌市側がチェックする。各工程での成果物は各段階で札幌市側が確認し、後工程への引き継ぎも成果物標準に従うことを原則とした。担当職員がプロジェクトの途中で異動しても円滑に引き継げること、所管課が抱いているニーズと開発側の意識の“ズレ”を生じさせないためでもあった。
なお、ベンダーからは「こんなにたくさんのドキュメントを作成しないといけないのか」といった声も寄せられたという。
共通部品化は、各種システムで共通的に使用する帳票管理や入力補助といった機能の部品点数を抑えることで、開発コストの抑制と効率的な運用を図るものだ。また、システム基盤の共通化でIaaSとして提供できるようにすることで、ITリソースの増減へ柔軟に対応していくようにした。
札幌市が得たもの
長沼氏によれば、オンライン化に取り組めて10年ほどは内製に近い形でシステムを開発しており、市としての主体性を保つことができていたという。今回のプロジェクトを通じて主体性を取り戻すための基盤が整ったようだ。中長期的にドキュメントを活用できるようメンテナンスに注力。職員がドキュメントをメンテナンスし、改修や運用保守の発注にも含めていく。市が主体的にドキュメントを管理できれば、競争入札によってベンダーが変わってもシステムの品質など保つことができる。
またマルチベンダー化による地元ベンダーの参入は、開発では従前のゼロ社から16社に、保守なども10社から25社(再委託を含む)も増加した。地元企業であれば、すぐに対応できるなどの効率性も向上も期待される。「“地産地消”の観点でも一定の成果があったのではないかと思います」(長沼氏)
長沼氏は、今後パッケージシステムの採用や他の自治体との連携についても検討していきたいと語った。
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