第47回 単位の世界「テビ」と「テラ」 この違いを知ってますか?:テクノロジーエバンジェリスト 小川大地の「ここが変だよ!? 日本のITインフラ」
ITインフラで最も重要になる「サイジング」。算出した数値のミスはトラブルを招きかねませんが、もっと注意しなければならないのが「単位」です。今回は表記が微妙に違う単位の“あるある”をご紹介します。
「注文住宅」と「建売住宅」――私が時々使っている例えです。同じIT業界でも、アプリ開発の世界はパッケージ製品を活用してインタフェースや操作性に力を入れるのが最近の主流です。これは、ベースは建売住宅で、内装にこだわるようなものでしょう。
しかしながら、私たちが籍を置くITインフラの世界は、まだまだ注文住宅が主流。ハイパーコンバージドやパブリッククラウドなど、建売のような新しい形のITインフラも登場していますが、全体から見ればまだまだ微々たるもの。“SIベンダー”というプロの職人さんと幾度となく打ち合わせを繰り返し、場合によってはNIC(ネットワーク・インタフェース・カード)のチップメーカーまで部材指定するような、バリバリの注文住宅の世界です。
この注文住宅型のITインフラで、最も重要になるのが「サイジング」です。今回は、この辺りについて考えてみましょう。
「i」(アイ)があるかないかだけで命取りとなる時代
「サイジング」という言葉は、アパレル業界でも使われるそうです。ITインフラでは主に、必要なハードウェアリソースを決めるための設計作業のことを指します。例えば、サーバの場合、「1台あたりの内訳(スペック)」と「何台用意すれば良いのか(台数)」などです。
その後、サイジングで算出した数値に準じてハードウェアを購入していきますので、この作業はとても重要になります。数値が多い分には良いですが、見込みが甘く、リソース不足になると、パフォーマンストラブルにつながります。このような場合、若干の不足であればソフトウェアの設定でカバーできるかもしれませんが、基本的にはハードウェア追加が必要。もちろん、有償です。
ベンダーのアーキテクトも人間ですので、納期に追われて徹夜で設計を仕上こともしばしば。人的ミスも起こり得ます。桁を1つ間違えるのはもちろん、ほんの小さな聞き間違いも命取りです。
ここで、最近よくある例をご紹介しましょう。
誰もが経験するストレージの容量見積りです。「データ爆発時代」と言われ、PCを含めてテラバイトくらいのディスクストレージが普通に手に入るようになりました。
そこで重要になってくるのが「TB(テラバイト)」と「TiB(テビバイト)」。
「キロ」では「1000バイト」「1024バイト」で2%の差が出ますが、許容範囲とされます。しかし、テラ(TB・TiB)の世界になると、差は10%にまで広がります。
消費税が8%になって2年が経ちましたが、買い物の際、「予想以上に高かったな……」と感じた経験はないでしょうか?
この感覚と同じです。10%の誤差は予想以上に大きく、クリティカルなものになります。運用でのカバーも限界があり、“容量不足”のトラブルが実際に起きてしまっている状況です。
このミスの責任は、プロでありながらきちんと確認しなかったベンダー側にあるでしょう。しかしながら、もめ事は控えたいところ。「1人あたり40“ギガ”ほしいな」とか、「全部で10“テラ”ほしいな」とか、口ではキロ・メガ・ギガ・テラと言ってしまいますが、実際に意図しているのは1024バイト換算されたキビ・メビ・ギビ・テビであることがほとんどではないでしょうか。
最低でも文書ベースでは、1000バイト換算なのか、1024バイト換算なのかなどを明確にしておきたいところです。
繰り返しますが、テラの世界では10%の誤差。「10TB=9TiB」。たかが単位、されど「単位」です。
小川大地(おがわ・だいち)
日本ヒューレット・パッカード株式会社 仮想化・統合基盤テクノロジーエバンジェリスト。SANストレージの製品開発部門にてBCP/DRやデータベースバックアップに関するエンジニアリングを経験後、2006年より日本HPに入社。x86サーバー製品のプリセールス部門に所属し、WindowsやVMwareといったOS、仮想化レイヤーのソリューションアーキテクトを担当。2015年現在は、ハードウェアとソフトウェアの両方の知見を生かし、お客様の仮想化基盤やインフラ統合の導入プロジェクトをシステムデザインの視点から支援している。Microsoft MVPを5年連続、VMware vExpertを4年連続で個人受賞。
カバーエリアは、x86サーバー、仮想化基盤、インフラ統合(コンバージドインフラストラクチャ)、データセンターインフラ設計、サイジング、災害対策、Windows基盤、デスクトップ仮想化、シンクライアントソリューション。
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