SUBARUの航空機生産を支える1人の男と「QlikView」:「見える化」で業務改革(1/4 ページ)
自動車メーカー「SUBARU」に航空宇宙事業という“別の顔”があるのをご存じだろうか。1万点以上にものぼる部品を管理しながら、設計とテストを繰り返す。航空機開発の複雑な業務フローに混乱していた現場を救うため、1人の男が立ち上がった。
「インプレッサ」や「フォレスター」といった人気車種を展開する国産自動車メーカー「SUBARU」。この5年で売上高を倍にするなど、業績面で快進撃を続けているが、そんな同社が、航空機の開発、生産を手掛けていることを知る人はあまり多くない。
JAXAや自衛隊、防衛省などから個別に案件を受注し、1機あたり1万点超える部品を管理しながら、設計とテストを繰り返す。そんな複雑すぎる業務フローに混乱する現場をどうにかしようと、立ち上がった人がいた。SUBARU 航空宇宙カンパニー 情報システム部 次長の野中剛志さんだ。
もともとは生産計画を行う部門にいたという野中さんだが、あまりにも情報が整理、共有できておらず、生産性が著しく下がっている現場の現状を見て、改革に向けたプロジェクトを立ち上げた。ここには、航空機開発特有の事情があるのだという。
開発と量産が同時並行で行われる航空機開発の現場
試作を経て設計が決まってしまえば、一気に大量生産へと進む自動車とは異なり、少量生産になりやすい航空機は、開発と量産の境目が曖昧になり、設計図が次々と変わっていくと野中さんは話す。
「私も10年くらい前には、防衛省関係のプロジェクトに関わっていました。航空機の開発は5年や6年といった、非常に長いスパンで行われますが、その工程は予定よりも大体遅れてしまうんです。テストの結果、ある部分が強度不足だったと分かれば、全体の設計を見直しますし、それに伴って必要な部品も変わります。情報が絶えず変化するので、何がどう遅れているのか、どの程度遅れているのか、何か手を打たないといけないのか、といったことを定量的に把握するのが難しいのです」(野中さん)
絶えず状況が変化するうえ、情報が部署ごとにバラバラに散らばっており、情報伝達がうまくいかないことも大きな問題だった。例えば、資材部が設計情報を元に部品を発注したのに、部品が届くころには設計情報が更新されていて、必要な部品が変わっていた――。こんなトラブルが起きるのは日常茶飯事で、生産性が下がるだけではなく、部署間のコミュニケーションも険悪なムードになってしまっていた。
そんな状況を見かねた野中さんが、開発情報の一元化に取り組み始めたのは2008年のこと。設計情報や部品の一覧表、それにひもづく調達状況や日程、コストといったさまざまな情報をRDBでつなぎ合わせたのだ。Accessで作ったそのシステムを「一元君」と名付けて公開したところ、部門間のトラブルは目に見えて減ったという。
この成果をもとに、工場内で量産体制に入っている機種や部品についても、同様に管理しようとしたところ、早晩大きなカベにぶつかってしまった。
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