その案件はどんな価値を生むのか 日立がIoT事業で大事にしていること:Weekly Memo(2/2 ページ)
日立製作所が注力するIoTプラットフォーム「Lumada」のビジネスモデルについて取材する機会を得た。同社はIoT事業でどう稼ごうとしているのか。
マネタイズを図るLumada事業の成長モデル
小島氏はまた、Lumada事業の成長モデルとして図3を示した。図の見方としては、Lumada SI事業でのユースケースの拡大をLumadaコア事業に生かし、コア事業で生み出したサービスをグループ内でも活用して「経営指標改善」を図り、グループ内のユースケースをまたSI事業に生かしていくというものである。
日立としてはこの成長モデルによって、各事業部門に配置されているCLO(Chief Lumada Officer)のリーダーシップの下、ユースケースを蓄積し、3つのマネタイズモデルが連動して事業の成長を加速する方向に持っていきたい考えだ。小島氏がこの図の説明で「マネタイズ」という言葉を幾度も使っていたのが印象的だった。すなわち、この成長モデルが日立のIoT事業における稼ぎ方である。
さらに、この成長モデルで重要なキーワードとなるのが、「ユースケース」である。小島氏によると、「2016年度は産業分野を中心に200件を超えるユースケースを公開し、顧客との協創を促進してきた」という。
そのユースケースを「生み出した価値」で分類したのが図4である。見ての通り、代表的なユースケースについて生み出した価値を数値で示すとともに、それらを分類して「コスト見える化」「コスト最適化」「売上向上」「リスク低減」における割合を示している。これが、つまりは現時点でのLumadaにおける導入効果の実態である。
小島氏はこの図から、「今のIoT事業では、まずコストを見える化することが入り口になっている。その上で、例えばコストの上昇に対して素早くアラートするような仕組みが、結構マネタイズのとっかかりになっていると実感している」と語った。
図4のように、IoTにおけるユースケースを、生み出した価値で分類したグラフを見たのは、筆者の知る限りでは初めてだ。なかなか公開されないデータである。せっかくなので、もう一押し要望を申し上げておくと、それぞれのユースケースで価値を生み出すためにどれくらいの費用がかかったのか。つまりROI(投資対効果)の目安が分かれば、ユーザーにとってはありがたいところだろう。IoTの活用はどれくらい費用がかかるか、見当がつかないと考えているユーザーが少なくないのも実態である。
最後に、日立のIoT事業に対する筆者の印象を述べておくと、従来のIT事業がIoT事業にごっそりと移行した感じだ。それはおそらく的外れではないだろう。さらにITベンダーの観点から言うと、競合他社はIoTよりAIを前面に押し出しているイメージがあるのに対し、日立はIoTを前面に押し出しているのが興味深い。これはITベンダーというより製造業者(メーカー)としてのこだわりの表れなのだろう。
果たして日立のIoT事業は、例えば10年後、グローバル企業としてLumadaに社名変更するくらい大きく育つのだろうか。注目しておきたい。
関連記事
- 「Weekly Memo」記事一覧
- 日本経済新聞社が「AWS Lambda」採用 日経IDのAPI基盤をサーバレス運用へ
日本経済新聞社は、日経グループのWeb会員サービス「日経ID」のAPI基盤を「AWS Lambda」で刷新。サーバレスで運用コストを削減しながら、開発や運用効率の向上を図る。 - リアルタイムに通話内容をテキスト化するコンタクトセンター向け支援サービス
日立製作所は、通話内容をリアルタイムにテキスト化し、FAQデータベースやテキスト要約アプリケーションなどと連携して活用する「コンタクトセンター業務効率化支援サービス」を発表。オペレーター業務の効率化やサービス品質の向上を支援する。 - 日立グループ、フィジカルセキュリティデータを一元管理する統合プラットフォームを開発
日立製作所とグループ会社3社は、フィジカルセキュリティデータやIoTのセンサーデータを一元的に収集・蓄積・分析する統合プラットフォームを発表。人やモノの動線・動作・状況を分析することで、業務改善や経営課題の解決を支援する。 - “超スマート社会”を支える人、組織、ビジネスを創り出す――日立・齊藤副社長
組織を分野別のビジネスユニットに再編し、IoTプラットフォーム「Lumada」などで顧客のデジタル化をサポートする体制構築を急ぐ日立製作所。その取り組みの現状と課題とは。執行役副社長の齊藤裕氏に聞いた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.