人工知能に「仕事を奪われる」ことの何がいけないのか?:真説・人工知能に関する12の誤解(2)(1/3 ページ)
人工知能に仕事が奪われる――。この言葉は、昨今の人工知能ブームを生んだ原因の1つでしょう。しかし、言葉だけが先行してしまい、誤った認識が広まっているのも事実だと言えます。
日本における第3次人工知能ブームのキッカケの1つは、2013年9月に発表されたマイケル・A・オズボーン博士の「THE FUTURE OF EMPLOYMENT」という論文だと私は思っています。“10年後になくなる職業について分析した論文”といえば、覚えのある方もいるのではないでしょうか。
この論文には「米国労働省が定めた702の職業のうち、自動化される可能性が高い仕事は47%ある」という衝撃的な結果がまとめられています。中には自動化は無理だと思われるバーテンダーなどの職業も含まれており、「なぜロボットが代替可能なのか?」と誰もが疑問に口にしました。
その答えとして、日本で広まったのが「機械に人工知能が組み込まれているから」「人工知能は私たちの仕事を奪う脅威だ」という誤解でした。
人工知能は人間を上回るほど「賢い」のか?
人間の仕事を奪うほど人工知能は「賢い(スマート)」のでしょうか。例えばAlphaGoは世界最強の棋士である柯潔(カ・ケツ)に勝利しましたが、このことから「人工知能は人間を上回る賢さだ」と断言できるのでしょうか。
答えはNoです。これは限られた領域の特定の能力に限って、人工知能が人間を上回ったに過ぎません。AlphaGo自体は交通事故を防げませんし、今日の晩飯は何がオススメかを教えてはくれません。それをするには、AlphaGoを作り直す必要があるでしょう。
連載の第1回で「鉄腕アトムのような万能な“人工知能”が生まれるまでには、2段階のカベがある」と紹介しましたが、ある特定領域だけ人間を上回る人工知能が第1段階、それらを統合し、全ての領域において人間を上回る人工知能が第2段階だと考えればいいでしょう。
そして、第1段階で作られた人工知能は、それぞれ機能やアルゴリズムが全く別のものであり、「ある特定領域だけでも何千、何万とあるのでは――」というのが私の正直な所感です。それを統合するとなると膨大な時間がかかると思います(レイ・カーツワイル氏のシンギュラリティ論ではボトムアップ型で第2段階が到達するのではなく、いきなり第2段階に着手できると表現していますが)。
そもそも、周囲を見渡せば、人間を上回る処理能力を持ったコンピュータが既に存在しています。そろばんで大量の計算を短時間で行うことには限界がありますし、文書作成は紙と筆では膨大な時間が必要です。人間を上回る“人工知能”は既に存在し、私たちはそれらを「道具」としてうまく活用しながら暮らしているわけです。
AlphaGoを開発したDeepMindのデミス・ハサビスCEOは「柯潔が勝とうとAlphaGoが勝とうと、それは人間の勝利である」と語りました。まさにこの言葉の通りで、人間は「○○領域に特化した人工知能」と名付けられた、新たな道具を手にしたにすぎないと私は感じています。
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