パナソニック「TH-P55VT60」が見せたプラズマの“熟成画質”、MGVCもチェック:山本浩司の「アレを観るならぜひコレで!」(2/2 ページ)
ぼくが愛用しているパイオニア「KRP500A」に、やっと画質総合力で勝ると思われる製品が現れた。今回はパナソニックのプラズマテレビ「VT60シリーズ」を取り上げよう。
空間にぽっかりと浮かび上がるイメージを追求したデザインは実にすっきりとしており、とても好感が持てる仕上がりだ。画面全体を1枚ガラスで仕上げ、V字型スタンドを支える台座にはアルミ材を採用するなど、ミニマル・デザインにふさわしい素材の本物感が追求されている。これならインテリアにこだわったお洒落な部屋に置いても、それなりに溶け込んでくれるだろう。
本機は狭ベゼル・デザインを特長とするが、スピーカーは画面両サイドに配置されている。フルレンジ・タイプのトラック型(楕円)スピーカーが両サイドに2基ずつ収められ、背面にサブウーファーをビルトインするという構成だ。画面下部に下向き設置された以前のモデルに比べれば、ステレオ配置ならではの自然な音の広がりが得られ、画面正面で観ればダイアローグやヴォーカルがピタリと画面上にファントム(虚音像)定位することが実感できる。なるほど昨年までの同社製テレビに比べれば著しい進歩といえるが、音の質感、帯域バランスについては、80ミリ2Wayシステムを画面両サイドに配したソニー「X9200Aシリーズ」には遠く及ばない。しかし、狭ベゼルにこだわりながら、なんとかあの劣悪な音から脱皮しようという努力は買いたいというのが筆者の本音だ。
本機「TH-P55VT60」の『シネマプロ』モードで観たBD映画「007/スカイフォール」の画質がとても素晴らしかった。「アストンマーチンDB5」でジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)とM(ジュディ・デンチ)がスカイフォールへ向かうシーンを観たが、スコットランドの寒々とした風景、その寂寥感(せきりょうかん)をVT60は的確に描き上げ、画面をじっと凝視させられることに。ジュディ・デンチの皺の深さやダニエル・クレイグの哀愁漂う表情の描写も見事。スカイフォールという土地の荒涼とした風景をこれほど味わい深く描き出せるテレビは他にいくつもないだろう。というか、ぼくが愛用しているパイオニア「KRP500A」にやっと画質総合力で勝る製品が出てきたという印象だ。
なお本機で1080/24pのBD映画を観るときは、パネル表示“48Hz”設定でごらんになることをお勧めする。“96Hz”表示で何か問題が生じるというわけではないが、表示フレーム数が半分になって先述した階調表現で有利となり、細かなディティールが浮かび上がり、より彫琢に優れた映像が味わえることが実感できる。
「火垂るの墓」で分かるMGVCの実力
ところでつい最近、パナソニックハリウッドラボ(PHL)から「マスターグレードビデオコーディング(MGVC)」という新技術が発表された。これは、Blu-ray Discの拡張領域にスタジオマスターの12bit信号と8bit信号の差分データを格納し、対応機器(現状ではパナソニックの最高級BDレコーダー、DMR-BZT9300)で再生すれば、従来の8ビット信号に差分信号を加算した12ビット階調(4096階調)が再現できるというもの。
このMGVCに対応したスタジオジブリのアニメBD「火垂るの墓」(スタジオマスターは12bit)をMGVC対応のDMR-BZT9300で再生し、TH-P55VT60で観てみたが、その画質はとても素晴らしいものだった。8ビット出力映像と比較して、誰もがぱっと見で分かる派手な違いではないが、じっくりその映像を吟味してみると、色数やグラデーションの見せ方に、けっして小さくない違いを発見する。BDで映画やアニメを「美味しい絵」で観る楽しみが得られるこういう提案こそ大歓迎したいと思う。
使い勝手の向上やネット動画への対応など、最新テレビに求められる諸々に的確に応えながら、自発光ディスプレイの画質のよさを再アピールする「VT60シリーズ」。プラズマ孤軍奮闘のパナソニックに心からエールを送りたい。
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