Mobile:NEWS 2003年4月17日 00:49 AM 更新

「燃料電池」実用化に不可欠なメタノールの高効率利用――“希釈する”東芝と“透過させない”日立

燃料電池で高いエネルギー密度を実現するためには、高濃度のメタノールは不可欠。だが、濃度が高いメタノールは電解質膜を素通りしてしまう。燃料電池の実用化に欠かせないメタノールの高効率利用について、東芝と日立製作所の開発者が語った

 昨年から今年にかけて、PCメーカー各社が燃料電池を使ったPCシステムを発表もしくは展示会で参考出展するようになった。各社ともに「2004−2005年の実用化を目指す」と口を揃え、“夢のエネルギー”から“実用段階”へと近づいてきたことをアピールする。

 幕張メッセで開催されている「TECHNO FRONTIRE SYMPOSIUM 2003」のセッションで、モバイル機器向け燃料電池の開発で先行する東芝と日立製作所の開発者から、燃料電池の開発動向や今後の展開について語られた。

 東芝は2002年1月にマスコミや関係者向けに行った技術展で、メタノールを燃料に使う直接形メタノール燃料電池(DMFC:Direct Methanol Fuel Cell)」をモバイル機器に使ったシステムを披露した。だが、この時点ではノートPCはまだコンセプトモックで、実際に燃料電池で動いていたのはPDA(GENIO e)に組み込んだシステムだけだった。このPDA向け燃料電池は2002年10月のWPC EXPO2002で一般ユーザーにもお披露目された。


東芝がWPC EXPO2002で一般向けにお披露目したPDA向け燃料電池

 東芝が当時開発した燃料電池の平均出力は5−8ワット。ノートPCの駆動は無理だが、電力消費の少ないPDAなら、わずか10ミリリットルのメタノール燃料で標準リチウムイオン充電池の約5倍の駆動時間を誇っていた。

 東芝研究開発センター給電材料・デバイスラボラトリー室長の五戸康広氏は「最初から燃料電池でPDAを動かそうとしていたわけではない。機器システムに実際に組み込んで動かすという取り組みの中で、当時の燃料電池の出力で動かせる機器がPDAだったというのが正直なところ」と打ち明ける。

 それから1年強経過した今年3月、東芝はノートPCへの燃料電池搭載を発表。同月に独ハノーバーで開催された「CeBIT2003」で、燃料電池を接続したLibrettoを初披露した。

 「試作した燃料電池は、平均12ワット、最大20ワットの出力が可能。これにより、内蔵リチウムイオン充電池の充電器としてではなく、燃料電池をノートPCに直結してメインバッテリーとして駆動している点がポイント。これは将来的にも発展性の高いシステム」(五戸氏)。

メタノールの高効率利用――“希釈する”東芝と、“透過させない”日立

 燃料電池でリチウムイオン充電池を上回るエネルギー密度を実現するため、つまり少ない燃料で長時間駆動させるためには、高濃度のメタノールを使わなくてはいけない。だが、これが思うようにいかない現実がある。

 DMFCでは、電解質膜を介してメタノールから直接水素を取り出して電池反応を行うが、高濃度のメタノールを使うと、電解質膜をメタノールが直接素通りしてしまう「メタノールクロスオーバー」が発生し、高い出力密度が得づらくなるという欠点があるのだ。

 「濃度が高くなるにつれてメタノールのクロスオーバーも増加する。現時点の電解質膜では、3−6%の希薄溶液が一番効率がいい」(五戸氏)。

 低濃度な希薄メタノール溶液で長時間駆動を行うためには、燃料タンクを大きくしなければならないため、燃料電池の小型化が難しくなる。そこで東芝は、高濃度メタノールを発電部に供給する段階で最適な濃度に自動調節する「希釈循環システム」を開発。希薄メタノール溶液の場合と比べ、燃料タンク体積を約10分の1に小型化することが可能になった。

 「希釈する水は、燃料電池の発電反応で生成される水を再利用している。このシステムによって、純メタノールに近い高濃度な燃料を少量搭載するだけで、長時間駆動が可能となった。試作機では高濃度メタノール100ミリリットルで約10時間の発電が行える」(五戸氏)。


東芝が開発した燃料電池を搭載したLibretto

 一方、東芝方式では、ポンプ/循環システム/濃度センサーといった補器が必要となり、機器自体のサイズが大きくなってしまう。東芝が試作したDMFCのサイズは275×75×40ミリで重さは900グラム。従来の補器DMFCから比べるとコンパクトにはなっているが、2キロ前後のモバイルノートPCの電源としては、まだまだ大きいといわざるを得ない。

 このような補器を使わず、メタノールを発電部で気化させる簡素なパッシブ型でDMFCの開発を進めるのが日立製作所だ。

 日立製作所では1980年代からDMFCの開発を行うなど、燃料電池取り組みの歴史は長い。日立研究所電池開発プロジェクトの加茂友一氏は「昔からDMFCの発電効率には悩まされ続けた。だが、当社の燃料電池の取り組みは、とにかく小さくすることを目指して補器なしのシステムで行ってきた」と語る。

 高濃度のメタノールをジワリジワリと気化させる日立方式では、前述のメタノールクロスオーバーが出力密度向上の最大のネックとなる。そこで日立製作所が力を入れているのが、“素通りしにくい電解質膜”の開発だ。

 従来は電解質膜にフッ素系素材を使うケースが多いが、日立が開発した「低メタノール透過性電解質膜」は、メタノールクロスオーバーを大幅に低減させた炭化水素系素材を使用。メタノールの透過を防ぎ、性能向上を図っている。

 「メタノールの透過性を、従来のフッ素系素材に比べて1/7−1/10に低減した。そのため、最適効率が見込めるメタノール濃度を20−30%にまで高めることに成功した。今後さらに研究を重ね、濃度60%でもクロスオーバーのない電解質膜を目指している」(加茂氏)。


日立製作所が試作した燃料電池を搭載したタブレット型PC。補器がないため、薄型コンパクトにできる

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[西坂真人, ITmedia]

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