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ミームとしての
モバイル
コンピューティング

 [第12回]

モバイルにP2Pを!

分散ネットワーク技術のP2Pはネットワークコンピューティングに無限の可能性を与えてくれる。それに欠かせないのがクラスタリング技術だ。世界では,既にクラスタリングを応用した高度なP2P技術の開発が進んでいる。P2P技術はインターネットに革命を起こすキーテクノロジーとして期待されている。

【国内記事】 2001年6月28日更新

切っても切れない,P2Pとクラスタリングの関係

 P2Pの話をする前に,クラスタリング技術の話をしておきたい。なぜなら,筆者にはP2Pがクラスタリング技術と連係することによって,インターネットに新たな可能性が与えられると感じられるからだ。

 クラスタリングとは,複数のコンピュータを相互に接続し,あたかも1台のコンピュータであるかのように振る舞わせる技術のことをいう。ちなみにクラスタ=Clusterは,英語で“群集する”という意味だ。

 クラスタリング技術を利用したサーバは,構成するある1台のコンピュータが停止しても,システム全体が止まることはなく,作業を続けたまま修理や交換をすることもできるといった特徴を持つ。この間,システムのパフォーマンスが落ちたと感じるくらいにしかみえない。例えば何百台まで端末を増やせば,そのうちの数台が停止したとしても,パフォーマンスの低下すら感じなくなる。

 大規模で高性能なサーバの技術的,そしてコスト的な限界を,クラスタリングは単に“端末の台数を増やす”という方法でクリアしている。この端末はPC程度の低スペックのものでも構わず,台数しだいでクラスタリングサーバのパフォーマンスが向上する。

大きな仕事を分散させるクラスタリング

 サーバの機能を分散させるという意味で,似たような発想に“アプライアンスサーバ”というものがある。これは,プロクシやキャッシュといった特定の機能に特化して運用されるサーバのことで,従来1台に多くの役割を搭載する流れにあるサーバの機能を,分散して負荷を低減させようとするものである。

 しかし,アプライアンスサーバは,結局クライアント/サーバ型発想の延長上にしかなく,クラスタリング技術のような,“ネットワーク全体が協力して処理をする”といった新しいネット利用の考えは含まれていない。

 また,マイクロソフトが提唱するクラスタリングは,名前こそ“クラスタリング”だが,ここでいうクラスタリングとは毛色が異なる。それぞれのサーバがそれぞれデータベースを分割して所有する形式で,あるサーバが落ちると,そのサーバが担当したデータベースも機能しなくなる。

 クラスタリングの特徴をまとめれば,リソースが物理的に広く分散していても,すべて1カ所に存在しているように見せるという“仮想的な集中化”ということになる。これはP2Pにも全く同じ事がいえる。その点,アプライアンスサーバやマイクロソフトの言うクラスタリングは,あくまで手法の1つとして利益のあるものだが,クラスタリングやP2Pとは一線を画するものだ。

問題が山積み──コンテンツサービスとしてのP2P

 そもそもP2Pはネットワークのリソースを分散させることを目的とした技術だ。しかし,これは実質的に,P2Pサーバを介してある程度の管理下で分散ネットワークを利用する形だった。

 ところがサーバ管理型のP2Pには,さまざまな問題があることが分かってきた。米Napsterはサーバを介したP2Pネットワークを構築し,MP3などのコンテンツ交換サービスとしてビジネス化を図ったが,全米レコード協会(RIAA)参画企業によって訴えられている。

 P2Pネットワークサービスで利益を出そうとしている企業の中には,ネットワークを監視することで利益を出そうとしているところもある(5月15日の記事参照)。確かに管理することで権利やセキュリティの問題を解消できるメリットもある,しかし利用者の反発を避けられそうにもないだろう。

 「Naspterこそ初めてのインターネットブラウザだ」という意見もある(2000年8月の記事参照)。確かに,サーバ/クライアント型のネットワークを脱皮した,自由なネットワークブラウジングが実現したのはNapsterが初めてだっただろう。筆者もその意見に賛成だ。

 P2Pは誰にも管理できない,と筆者は考えている。P2Pは,“ファイルが交換できる”という魅力の裏に,強力なネットワークブラウジング機能が存在しているのである。

手のひらに,スーパーコンピュータを

 そんな中,P2Pネットワークの本質的な魅力を最大限に生かそうとする技術が生まれそうだ。米XDegreesは,ネットワーキング技術とP2P技術をリミックスした新しい技術を開発している。この技術を使えば,ファイルだけでなく,PC本体,アプリケーション,各種デバイスを直接Webに公開することができるようになる。

 また米Sunでは先日,Bill Joy氏が新ソフトプロジェクト「Jxta」(ジャクスタ)を発表している。Jxtaは,誰でも無制限に修正して再配布できるオープンソースのソフトウェアで,Java,Jiniに次ぐSunの野心的な試みとなる。

 Jxtaは,P2P技術を使ってPCやブラウザフォン,PDA,ウェブアプライアンスなどの電子機器がお互いの存在を確認しあい,インターネットを介して情報やアプリケーションレベルのやり取りができるというもの。

 Jxtaのような技術を使えば,例えば携帯の待ち受け時間中,少ない負荷で動くCPUのリソースを,そばにあるほかの携帯電話と共有することで,クラスタリングサーバと同じような使い方も可能になる。小さな携帯電話で,スーパーコンピュータ並みの性能を出すこともできる。

 それだけではない,アプリケーションしだいで様々なアイディアを実現できそうだ。例えばJ-フォンは,このJxtaのような仕組みを使って,メールサーバ,ゲートウェイサーバの負荷を分散させられないかと考えている。

 P2Pのように,インターネットアプリケーションの新たな機能と通信のあり方に新たな光を投げかけた存在は,Webブラウザの「NCSAモザイク」登場以来ではないだろうか?

 何よりも大きいのは,インターネットワーキングのブレークスルーへの期待だ。P2P相互運用というゴールに到達できれば,インターネットは今日の枠組みを越えて次のステージに移行できるはずだ。

[増田(Maskin)真樹,ITmedia]

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