News 2000年11月29日 06:54 PM 更新

後に引けないIntelと,突き進むAMD

IntelとAMD,マイクロプロセッサ市場を引っ張る2つの企業は,2001年になにをするのか。Intelは「PC市場全体が膨らんでいけば,複数のx86ベンダーが共存できる」と言うが……?

 2000年はIntelにとって悪い年だった,というのがマイクロプロセッサを追いかけるジャーナリストの一般的な見方だが,Intelにとってはとても良い年だったという。謎掛けのようだが,その心はPC市場の大幅な伸張とそれによる売上増にある。

 一方,AMDにとっても悪い年ではなかったはずだ。Fab25の歩留まりはすっかり安定,順調に立ち上がったFab30も予想を上回る成績で製品を出荷した(11月27日の記事を参照)。PC需要増加に伴う売上増も追い風となっている。

過去最高の売上を達成したIntel

 Intel日本法人の売上は過去最高のものだった。そう話すのは同社マーケティンググループのウィリアム・リャン氏だ。チップセット戦略の失敗に次ぐ失敗,あるいはi820マザーボードや1.13GHzプロセッサ回収など,これまでのIntelでは考えられなかった失敗が続いているが,同氏は「2000年は新しい世紀に向けたステップとして,とても良い年になった」と言い切る。

 昨年,いったんは弱まったかに見えたPC普及の勢いが,欧州や日本で需要が強い伸びを示したことで,IntelだけではなくPC市場全体の成績を押し上げる原因にもなっている。リャン氏は「Pentium 4でナチュラルインタフェースやマルチメディアのソフトウェア技術が加速すれば,この勢いはさらに強まる。2000年の好況は,2001年以降のさらなる好況へのステップだ」と強気のコメントを出した。

 リャン氏によると,Intelは来年後半,Pentium 4普及に向けて市場を強くドライブする予定だという。そのカギは価格だ。Intelは来年後半に投入する普及価格帯向けPentium 4チップセット「Brookdale」でSDRAMとDDR SDRAMのサポートを明言しており,またそれまでにはPentium 4の生産量増大が見込める。本来は0.13ミクロンプロセスの安定する来年以降をPentium 4の普及時期としていたが,それまでPentium IIIで市場を引っ張るのは難しいと判断したようだ。

後には引けないIntel

 既にクロック周波数的に限界が見えているPentium IIIだが,当初の予定では0.13ミクロン版Pentium IIIの「Tualatin」でクロック周波数の向上を行いながら,来年を乗り切るつもりだった。そのために,新しいPentium III用チップセット「Almador」を用意していたのだが,その後,Almadorの開発はキャンセルになっている(ノートPC向けはPentium IIIを継続するため,Almadorのモバイル版は出荷予定)。

 また,Pentium III用のRDRAM対応次世代チップセットの「Camino 3」,Pentium 4用のRDRAM対応次世代チップセット「Tulloch」もIntelのロードマップから消えていることから見て,RDRAMへの路線も大幅に変更されたことがハッキリと見て取れる。

 Intelは以前と変わらず「RDRAMは高性能PC向けとして最良のソリューション」という姿勢は崩していないが,次世代のメインストリームを担う多くのチップセットがキャンセルされたことから考えて,RDRAMへの移行を強くドライブしようという意識がなくなったと見ていい。

 Pentium IIIがハイエンドデスクトップPC向けプロセッサとしての人生を終えようとしている現在,次世代を担うPentium 4へのバトンタッチを早めなければ,ドル箱の企業向けPC市場にAMDが進出する機会を与えかねない。Intelにとってみれば,RDRAM普及のために足を止めている暇は全くないのだ。

 企業向けPC市場での独占状態を失えば,そこに新たな価格競争が生まれ,高収益体質に陰りが出る可能性もある。多くの設備投資と強いマーケティングドライブによって保たれているIntelは,Pentium 4への早期移行を是が非でも成功させなければならない。もう後に引くことはできないのだ。

突き進むAMD

 これに対して攻める立場のAMDは,Intelよりも舵取りは易しい。既に優秀さが証明されているAthlonを,どのように売り込んでいくかを考えるだけでいいのだから。AMDの目標はIntelを逆転し,業界のナンバーワンになることではない。市場全体の30%をシェアとして確保するのが狙いだ。

 圧倒的なシェアを維持したいと強く願っているIntelとの決定的な差はここにある。これは企業としての優劣の問題ではない。企業規模の問題だろう。無論,AMDも一般的な尺度から見れば大手企業ではあるが,ここ数年のPC市場を独占してきているIntelとは比べられない。

 優秀な商材があり,潤沢に供給する体制も整ったAMDは,2001年,Intelが直面しているアーキテクチャの谷間を目掛けて突き進むだろう。

 日本AMDマーケティング本部長のサム・ローガン氏は「Intelのようにマスマーケティングで売り込むのではなく,販売店を中心にAMD製品の良さ,メリットを説いて回った。われわれはベンダーや販売店と相談しながら市場を広げることができた」と,2000年の成果を振り返るが,個人市場で一定の地位を築いたAMDが,次に狙うのは企業向け市場だ。

企業向けブランドとしてのAMD

 ローガン氏は「決してAMDが企業に受け入れられていないわけではない。デルコンピュータ以外のほとんどのPCベンダーは,企業向け製品でもAMDブランドを受け入れている」と,企業向け市場に入れていないのでは? との質問に反論する。

 確かにK6,K6-2は企業向けモデルにも採用されたが,あくまでローエンドの(すなわちプロセッサの価格も非常に低い)マシンのみである。高い収益を期待できるAthlonについては,これまで企業向けモデルの採用実績はない。

 K6系プロセッサの場合,プラットフォームとしてのSocket 7が熟成し,OSなどのサポートにおいて満足できるものだった。このため企業向けモデルにも安心して利用できた。しかし,Athlonでは独自にプラットフォームを立ち上げなければならない。もはやAMDのプロセッサだからと言って,導入に難色を示す担当者は少ないと思う。しかし,チップセットとなれば話は別だ。企業に受け入れられるためには,この部分での信頼性とすばやいサポートを印象付けなければならないだろう。

 Athlon用チップセットを振り返ってみると,最初のチップセット「AMD-750」は時間を追うごとに信頼性を増し,Windows 2000環境での安定した動作も可能になったものの,メインストリームを担うVIA製チップセットの「KX133」「KT133」は,AGP周りの互換性などで問題を抱え続けた。最近になって解決されたものの,いまだに互換性の面で影響を引きずっているのはVIA製チップセットの不調によるところが大きい。

 ローガン氏は「VIAなどのチップセットパートナーに問題はない」と話すが,エンドユーザーから見れば,そうした言葉も空しい。

 AMDはDDR SDRAM立ち上げのため「AMD-760」を投入した。パフォーマンス面や信頼性の面で安心感を持てるのは,そこにAMDの後ろ盾があるからだろうが,いずれAMDはチップセットの主役をVIA,ALi,SiSなどの台湾チップセットベンダーに明渡すだろう。AMDには幅広いバリエーションのチップセットを提供するだけのリソースがないというのがその理由だ。

 しかし,VIAが信頼性の面で評価を落としてしまった現在,VIAとは関係のないALiやSiSのチップセットに対してまで疑いの目が向けられている。評価が落ち着くまで待つのでは遅い。AMDはチップセットパートナーとの関係を維持しつつ,AMD-760に関しても強く売り込まなければならない。

新アプリケーション開拓が2001年のテーマ

 もっとも,リャン氏が「PC市場全体が膨らんでいけば,複数のx86ベンダーが共存できる。それによる競争は大歓迎だ」と話すように,両社にとっては高速プロセッサの需要を喚起することも2001年の大きなテーマといえる。

 Pentium 4は,従来のアプリケーションに含まれる整数,浮動小数点演算の性能が振るわないが,これは限られたトランジスタ数の中で,ナチュラルランゲージやマルチメディア処理などを高速に実行できるようにするためでもある。一般アプリケーションは十分に高速なのだから,高速化は従来不可能だったアプリケーションに向けて行われるべき,ということだ。

 2001年中に連続音声認識やフリーレイアウトの手書き文字認識などの技術が(日本語で)実用的になる,とは思えないが,手の届く範囲に来ていることは間違いない。これらの分野は,ほんの1〜2年前まで雲の上にある遠い未来のように思えただけに,それらの姿が見え始めた今,来年ならば高速プロセッサの意義について語れるような気もしてくる。

 今年はAMDが力を取り戻したことで,PCの低価格化と高速化が進んだ年だった。来年は膨らんだ市場で2社が良い競争関係を保つだろう。しかしもう一方では,両社の良い協力関係も必要になってくる。既に半導体技術の基礎開発では協力関係にあるIntelとAMDだが,2001年はアプリケーション開発やプラットフォーム技術の提案など,市場全体を拡大する方向での協力関係も築いてほしいものだ。

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[本田雅一, ITmedia]

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