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2002/03/13 20:33 更新


「CDS? あれはプロテクトじゃないです」――再び、コピーコントロールCDを考える (3/3)


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――そうした手法があるにも関わらず、CDSを採用する理由には、どんなことが考えられますか?

M氏:結局、CDSはやりたい放題のことをやっている。その分、引っかかるドライブが多くなるということでしょう。それぞれの技術自体は、プロテクト技術者であればみんな知っているようなことなんです。

 CD-DAの規格外で何をやってもいいなら、私たちプロテクト技術者は「神」になれる。しかし、互換性などの問題もあり、やらなかっただけなんです。

 ただ、最近、プロテクト業界で無茶なことをやりだす人が増えている背景には、ドライブメーカーとライティングソフトメーカーが裏で結託しているということは、言わなくてはなりません。

 不景気のせいか、最近はプロテクトの落とせるドライブしか売れなくなっちゃったんですよ。で、プロテクトを出しても、それに対応するドライブやソフトがどんどん出される。先に例を挙げたプロテクトの方法もそうです。どんなリザーブを使っても……。私たちも辛いんですよ。

 RAWへの対応なんかもそうですね。CDをRAWモードで読み取るということは、ファイルフォーマットに関係なく、フレーム単位のデータ「2352バイト」だけでなく、サブコードやリザーブも含めて、丸ごと吸い出すことです。RAWモード自体は、CDのマスタリングにおいて、丸ごとそのままのディスクを再現できるという点で素晴らしい技術です。その代わり、フェイクTOCなどを含めたプロテクトは外れてしまう。

 それでもCD-Rの創生期から現在までRAWにきちんと対応してきたプレクスターさんなんかには、私も文句はありません。だが、これまでRAWモード対応を省いてきたにも関わらず、CloneCDが出た、SafeDiskがあるからと、RAW対応のドライブを出したところが少なくありません。それはないんじゃないかと言いたい。本当に頭にきましたよ。こんなことをやるぐらいだったら、コンデンサの質を上げるとか、音質に目を向けてほしい。

 で、私たちが次にやってしまったのが、禁じ手の1つであるEFMを変えるということなんです。これはEFMを弄ってわざと不良セクタを入れるということなんです。ところが最近、ドライブメーカーさんの方で、誤ったEFM信号を正しく修正してしまうものが出されてきてしまって。私たちは困ってます。

――それは明らかにプロテクト外しを狙ったものですね

M氏:メーカーさんはもちろんそうは言いませんが(笑)

K氏:「ユーザー様のために読みにくいディスクを読むための努力を日夜行っている」ということでしょうね(笑)。

M氏:問題は知識のあるユーザーがカスタマイズして外せるんというんじゃなくて、こうしたプロテクトの仕組みをオートで書き換えられ、初心者でも簡単に違法コピーができてしまうブラックなソフトが増えてきているということでしょう。知識のあるユーザーが、バイナリエディタを駆使してプロテクトを外すというなら、そんなのごく一部の話で被害も小さいし、私たちとしても仕方がないと思えるんですが。

K氏:素人にもボタン1発でコピーできるソフトを出されては、音楽権利者側がプロテクトをかけたくなる気持ちもわかりますよね。

本命はこれから登場する?

――音楽権利者側はどれぐらい本気なんでしょう。エイベックスさんの今回の件では、少なくとも音楽権利業界では「よくやった」という声が強いみたいです。最初にやれば悪者になるのがわかっているから、みんなやりたいけどできなかった。それを代わりにやってくれたということなんでしょうが。

K氏:音楽CDレコーダが出た頃から、音楽権利者側ではPC用のCD-R/RWドライブにも著作権料をかけたい、かけたい、ですよ。それは今も変わらないでしょう。データ専用のCD-Rにも著作権料を払うべきだ、とずっと言ってますね。以前取材した時には、補償金のパーセンテージについても、MDと同じでいいとは思っていない、もっと高くすべきだと言ってましたよ。

M氏:昔からほんと、音にはプロテクトをかけたがっていましたね。私たちもなんども相談されました。でも、私たちは規格外のディスクは作りたくない。規格外でよければ(CDSより)もっと強力なのは簡単に作れるんですよ。でも、そんなものをやれば、汚名がついちゃいますからね。だから強いてやるんだったら、CD-DAの規格内でも、ある程度のドライブで読めなくなりますよとか、そういった話をさせてもらいました。

K氏:前にも話が出ましたが、最終的にはPhilipsとか(CD-DAの規格をまとめられるところ)がやらない限り、ムリでしょうね。

――例えば、Philipsやソニーがやるとして、100%の互換性を保ちながら、音質も劣化させず、強力なコピーコントロールというのはやれるものなんですか。

M氏:うーん、できると思いますよ。プレスの工程でなにか番号入れるとか、内周部に何か加工するとか。

K氏:そうか、バーコードだ。

M氏:そう、昔のバーコード技術を復活させりゃいいんですよ。バーコードは昔、イーストマン・コダックさんがPhotoCDでディスクの整理番号入れるのに使ったんです。でも、マスタリングに使った人は100人もいません。

K氏:音楽CDでバーコードは入れていいの?

M氏:入れちゃいけないとは書いてありませんからね。音楽CDプレーヤーは無視しますから問題ないし、ドライブはこれを読んじゃうようにすればいいでしょう。他にもリザーブを使うとか、CD-Rの反射率を見るとかいろいろ方法はあると思いますが、でも最終的には今までの規格外で何か決めるしかないでしょうね。

――でも、それではドライブメーカーが採用しないでしょう?

K氏:レッドブックで決めてしまって、その部分を必ず読ませるようにすればいい。だからそれができるのはソニーかPhilipsというわけです。ちょうど、CD-DAの特許が切れるところだから、いいタイミングかも。

 エイベックスが今回あえてこんなことをしたのも、実は、Philipsとかにコピーコントロールの仕組みの導入を促す腹だったのではないかと、僕は見ているんです。

 もっとも、そこまでやるんだったら、DDCD規格でもいいんじゃないという議論はあるかもしれない(笑)。DDCD(現行のCD-ROMを拡張した1.3GB倍密度の規格)なら著作権保護の仕組みも入れてあるし、レーザーも同じ波長。ハードの値段も同じぐらい。問題は新しいハードを買わせるということだけど。

M氏:あとはSACD。あれは海外でも支持を受けているし、音楽業界も歓迎している。私たちプロテクトを作る側から見ても、本当に良い規格なんですよ。だが、デッキがあまりにも高い。

 いずれにせよ、Philipsさんたちがやるものが、本命になるでしょうね。この件については、利権がありますから、他の誰がやってもしょうがないですよ。で、ドライブメーカーもソフトメーカーもそれだけは落とさないようにする。音に関してはそれでいいんじゃないでしょうか。

K氏:やるんなら年内でしょう。どういう規格になるのかはまだわかりませんが。

 DVD-Audioの普及があまり期待できそうにもありませんし、ソニー、Philipsさんはそうはしたくないでしょう。音楽CDはあと10年は残りそうです。そうなると、音楽CD用のきちんとしたコピーコントロールの仕組みが必要になる。これだけは間違いないでしょう。