News 2002年8月5日 08:31 PM 更新

“無電源100円通信端末”で実現する情報支援システム――CoBIT

端末の位置や方向を考慮して、適切な情報を音声で提供する情報支援システム「CoBIT」。超軽量・小型の通信端末はバッテリレスで動作し、将来的には1台100円以下で手に入るという。このシステムの開発者に話を聞いた

 今ここで欲しい情報が、“音声”で簡単に手に入る。しかも、情報の入手だけでなく、ユーザーからの情報発信も行える。直径約20-50ミリ、重量約5-20グラムの超軽量・小型タイプの通信端末は無電源で動作し、量産が進めば1台100円以下で入手可能となる――。

 こんな、夢のような情報支援システムが、実用化に向けて動き出している。

 独立行政法人産業技術総合研究所(産総研)の研究ユニット「サイバーアシスト研究センター」は、端末の位置や方向をもとに適切な情報を音声で提供する情報支援システム「CoBIT(Compact Battery-less Information Terminal)」を昨年12月に開発した。CoBITの開発者である同センターの西村拓一氏に、CoBITの概要や開発経緯、将来性について聞いた。


CoBIT開発者の西村拓一氏

 まず、注目したいのがCoBITで使われる通信端末だ。片耳に装備するイヤホンタイプから、両耳で聞くヘッドホンタイプまでさまざまなタイプが試作されているが、基本的には「イヤホン」「太陽電池」「反射シート」というたった3つのパーツで構成される。


基本的には「イヤホン」「太陽電池」「反射シート」で構成

 「なんだ、太陽電池でバッテリレスを実現しているのか」と思われた読者も多いことだろう。だがCoBITの基本システムでは、この太陽電池を通信システムへの電源供給ではなく、情報を受け取るアンテナ代わりに使っているのだ。

光版の“鉱石ラジオ”

 「鉱石ラジオの原理なんです」と、西村氏は説明する。かつて、機械好き少年を夢中にした鉱石ラジオは、電波から供給される電気だけで動作するため電源が要らなかった。CoBITシステムでは、この鉱石ラジオでの電波の役割を光が担っているのだ。「太陽電池は光が当たると発電するが、照射される光の変化によって、発生する電気量が素早く変化する。つまり、音の波形を光の強弱に変換させ、それを太陽電池で受光すると、太陽電池に直結したイヤホンから光の強弱に応じた音を聞くことができる」(西村氏)。


CoBITのしくみ

 太陽電池は一方向(基本は前方)にセッティングされ、照射する光は指向性のある赤外LEDを使用しているため、特定の位置や方向にある端末のみが光を受信できる。通信端末を装着しているユーザーが、光が照射されているエリアに行き、対象物の方向を見ることで、初めてさまざまな情報が提供されるのだ。

 「例えば、商品など対象物の前を通るだけでは音声情報は提供されないが、ユーザーが興味を持って対象物の方向を見たときに、そのユーザーのイヤホンから説明が流れる。情報提供のシステムはプッシュ型だが、ユーザーが能動的に情報を得ようとすることで初めて提供されるという意味ではプル型ともいえる」(西村氏)。

 さらにCoBITシステムは、ユーザー側からの情報発信も行える。だがCoBITは、太陽電池にイヤホンを直付けしただけの単純な構造の端末。一体どのような方法で情報発信を行うのだろうか。

 実は、情報発信は3つめの構成部品「反射シート」が担っている。これを赤外投光カメラを使って撮影すると、暗い画面の中にCoBITの反射シートだけが浮かび上がる。複数のカメラで撮影した動いている点をコンピュータで画像処理することで、カメラの視差からCoBITを付けたユーザーの3次元位置情報を抽出できるという仕組みだ。この反射シート自体は特殊なものではなく、自転車や標識などに使われている安価なものが使用されている。


実用モデルに近い試作機。反射シートの中心が太陽電池

 「点の位置や動きを詳しく解析することで、ユーザーの身長から大人か子供かを判断したり、どの商品(展示物)に興味を示したか、疲れ具合は、といったユーザー情報を知ることも可能。反射シートを手で隠すという動作で、ユーザーが能動的に情報を発信することもできる」(西村氏)。


 例えば、反射シートを1回隠した時は「YES」、連続して2回隠した時は「NO」という具合に、合図を決めてくことで、音声情報の質問に対してユーザーが回答し、それに合わせた音声ガイダンスが受けられるといったインタラクティブ的な使い方も行えるのだ。

通信端末は量産化で100円以下にも

 これらの仕組みによって、個々のユーザーにピンポイントで音声情報を発信することができ、さらに双方向での情報のやり取りも可能となる。単純構造の通信端末は、当然低コストで作ることができる。

 「試作機は、100円ショップで売っているイヤホンやヘッドホンに、秋葉原のパーツショップで250円ぐらいで売られている太陽電池を直結し、反射シートを貼っただけのもの。これで、“一応”双方向の情報受発信が行える端末ができる。現時点でも数百円の材料費で作れるのが、CoBITシステムの最大の特徴。量産が進めば、1台100円以下で作ることができる」(西村氏)。

 将来的には、CoBITシステムと同様に電源の要らない「RF-IDタグ」を通信端末に内蔵することで、より詳細なユーザー情報を発信できるほか、AM/FM変調によって、音質を良くしたり、より遠くに情報を届けることも可能になるという。

 この新システムは、すでに実用化に向けて動き始めている。7月13日から9月23日までサントリーミュージアムで開催されている「THE ドラえもん展」で館内の音声ガイド用として使われているほか、今秋開催が予定されている5年後の先端技術を紹介するイベント「After5Years―近未来テクノロジーエキシビジョン―」の館内案内に、採用が決まっている。

 「通信端末が安い分、インフラ側のコストがかかるのが課題。しかし、駅や街角、博物館、レジャーランドなど大勢の利用者が見込まれる場所での情報提供には有効なシステム。ステレオサウンドによる音楽配信や、特定の端末を持つ人だけに対する情報サービスも可能なことから、さまざまなビジネスモデルが考えられる」(西村氏)。

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[西坂真人, ITmedia]

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