News 2002年9月10日 10:48 PM 更新

インドネシアにLinuxを――法人系使用済みPCを教育機関に寄贈

インドネシアが近い将来、Linux大国になるかもしれない。ベンチャー企業のKRDが、インドネシア政府の協力を得て、事業系使用済みPCを同国に輸出。教育機関に寄贈されるこれらのPCにはLinuxがインストールされているからだ

 インドネシアの「Linux化」を目指しているベンチャー企業がいる。といっても、Linuxのディストリビューターではない。「ケイ・アール・ディー・ジャパン」(KRD)は、企業から出される使用済みPCを産廃業者から買い取り、Linuxをインストールしてインドネシアの高校・大学に寄贈しているのだ。

 社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)によれば、国内で排出される法人系PCは年間600万台に上る。KRDでは産廃業者と提携し、この中から「まだ使用できるのにロースペックであるため産業廃棄物として処分されていた使用済みPC」(同社)をインドネシアに輸出。現地には自社の整備工場を構え、インターンシップで働く大学生などがデータ消去ならびに「Red Hat Linux」の新規インストール作業を行っている。

 KRDでは、今年7月から試験的に「KRDリバリュエーションプログラム」を開始。既に2000台の使用済みPCをインドネシアの教育機関に寄贈したという。「現在、国内のPC処理工場は飽和状態にある。今後も、法人系使用済みPCが増加することを考えると、これは大きな問題だ。コストと時間のかかる解体行程をアジアで行うことにより、“アジアで製造→日本で販売→アジアでリサイクル”という、コスト的に最も効率の良いサイクルを構築することができる」(KRDの神田悟朗社長)。

 KRDは、同プログラムの提供にあたり、インドネシア政府の協力を取り付けた。そのため、輸出する使用済みPCについては関税が免除されるほか、税関においても検査が免除される(年間100万台が上限)。さらに、整備工場から各教育機関への搬送は、インドネシアの郵政省が担当することになっている。なお、使用済みPCの梱包や海上運送費、ならびに現地工場における解体/再生処理費用はインドネシア政府、ならびに地方自治体からの助成金によってまかなわれている。

 「インドネシアでは、教育現場のIT教育に対する関心が非常に高いにもかかわらず、自治体は学校にPCを設置する十分な予算を持たない。いまだに、286系CPUを搭載するPCを使っている上、ある学校では設置してあったPCの3分の1しか稼働していなかった。コンピュータサイエンスに強い一部の市立大学以外は、どこも似たような状況。われわれが寄贈するPCにはLinuxがインストールされるが、最初に触ったOSというのはその後も大きく影響するもの。大学や高校に寄贈PCが普及すれば、インドネシアはLinux大国になるはずだ。当初は、Windowsを採用する案もあったが、コスト的に見てライセンス料金を支払う余裕はなかった。もっとも、われわれのプログラム自体が、ビジネスベースのやり取りではなく、教育現場や政府関係者など多くの人の協力で成り立っている点を考えれば、WindowsよりもLinuxのほうが適していると言えるかもしれない(笑)」(同社長)。

 ただ、KRDがすんなりとインドネシア政府の協力が得られたわけでもない。

 「われわれの寄贈プログラムは、実費ベースの契約で行われているものの、当初は政府関係者から“いらなくなったPCなんだからタダでくれ”と注文を付けられることもあった。また、データ消去する必要性を説明するのに、何週間もかかったりした。国内では使用済みPCを再利用する場合、データ漏えいを防ぐことが大きなテーマになるが、彼らにはそういった概念がなかったようだ。だが、このプログラムの価値を理解すると、積極的に協力してくれるようになった」(神田社長)。


KRDの神田悟朗社長

 神田社長はこの寄贈プログラムについて、「単にPCをあげるだけのものではない」と強調する。「同じことをやっているNPO(特定非営利活動法人)もあるが、寄贈したPCをきちんと管理しなければ、不法投棄を助長するだけだ。海外への中古PCの販売を規制する動きがあるように、アジアを先進国のゴミ箱にしてはいけない」。

 具体的な取り組みとしては、KRDでは寄贈するすべての使用済みPCをバーコードで管理。いつデータが消去され、どの学校に送られたのかモニタリングする。また、寄贈後にPCが使用不能になった場合には、KRDの整備工場に戻され、解体/リユースされることになっている。「データ消去には日立製作所のCREA-DAを使用し、確実に消去されたことを証明するために、消去後の画面を撮影して管理番号を付けて保存している」(神田社長)。

 さらに、この寄贈プログラムは、インドネシアの人々が“メーカー製”のPCを体験できるという効果もあるようだ。

 「インドネシアでは、メーカー製のブランドPCはほとんど普及していない。政情不安や通貨危機の影響でメーカーが撤退してしまったこともあるが、高価なPCを購入できるのはごくわずかな富裕層だけ。PC販売店の店頭に並んでいるのは、ほとんどがホワイトボックスという状況である。その影響かどうかは分からないが、最近、インドネシア企業からもPCを寄贈して欲しいという要望がある。われわれのプログラムは教育機関向けのものであり、企業にはプログラムを紹介した覚えはないのだが、なぜか、“Pentium IIIの500MHz以上でお願いします”という丁寧な発注のメールがわれわれに届いたりする(苦笑)」(神田社長)。

 なおKRDでは、インドネシアの教育機関にPCがある程度普及した段階で、校内ネットワーク構築のコンサルティング事業も開始する計画だ。「ネットワークのある大学でもインフラは10BASE-T程度。われわれがネットワークを実際にネットワークを構築するわけではなく、その際には、日本のSIベンダーとインドネシア政府の橋渡し的な役割をしたい」(神田社長)。

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[中村琢磨, ITmedia]

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