News 2002年9月10日 12:23 PM 更新

次世代光ディスクの現状 第3回
次世代光ディスクの鍵は「記録材料」が握る(1/2)

製品化に進むBlu-ray Discだが、業界ではすでに「その次」に向けた動きも活発だ。そこで鍵を握るのが、次世代の要求に応える記録材料や記録層保護の仕組みの開発。パイオニアとともに次世代追記型ディスクを開発したTDKに、その最新状況を聞いた

 7月に開催された光ディスクおよび光メモリの国際会議「ISOM/ODS 2002」(Joint International Symposium on Optical Memory and Optical Storage 2002)では、パイオニアとTDKが「Blu-ray Disc」と互換性がある「追記型ディスク」の研究成果を発表したほか、Blu-rayとほぼ同じ仕様で設計されたディスクの高速記録の研究成果の発表も数多く見られた。製品化に向け開発が進むBlu-ray Discだが、「その次」に向けた研究開発も、実は急ピッチで行われている。

 その中で1つのポイントになっているのが、「記録層」や、そこで採用する「記録材料」の開発だ。ISOM/ODS 2002で追記型ディスクや高速記録などの研究成果を発表したTDKに、次世代光ディスクの記録層や記録材料について話をうかがった。

次世代追記型メディアは環境にやさしい

 波長405nmの青紫色レーザーと0.1mmの保護層を採用した次世代光ディスク規格「Blu-ray Disc」は、現在のところ、書き換え型ディスクのみが規格化されている。CDやDVDなど、これまでの規格では、まず再生専用の規格ができ、その後、追記型や書き換え型が登場した。これを考えると、Blu-ray Discは規格化の道筋はちょっと異なっている。

 しかし、将来的には再生専用や追記型ディスクが登場し、CDやDVDなどのような「ファミリー」が形成されていくだろう。これは容易に想像できることだし、事実、パイオニアとTDKがすでにBlu-ray Disc互換の追記型ディスクを開発している(パイオニアのインタビュー記事)。

 この追記型ディスク開発の経緯について、TDKのレコーディングメディア&ソリューションズ ビジネス・グループ 商品開発部主幹、飯崎一衛氏は次のように話す。「将来的には、長期保存や記録したディスクの配布、ROM規格ができたときのオーサリングツールなどの用途に“追記型”というものが必要になる。このことから、書き換え型の規格化の状況を見ながら、それと互換性がとれた追記型ディスクを開発した」。

 開発にあたっては、TDKとパイオニアがメディア技術およびシステム技術を共有して設計した。「パイオニアとは、もともとCD-Rの時から交流があり、その中でBlu-ray Discでも書き換え型があれば、当然、追記型も欲しいという考えが一緒だということが分かった。だったら、お互いの開発リソースを共有しながら、助け合ってやっていった方が良いのではないかという話になった」(同氏)。

 記録層の材料に環境に配慮したものを使用したという点でも、両者は共通している。「追記型は配布や持ち運びなどの用途でよく使われており、(使い終わった後)捨てられることも多い。捨てられても問題ないような、環境にやさしいものを材料に使いたい」(飯崎氏)と考えたからだ。

 それぞれが選択した材料は、パイオニアがビスマス−ゲルマニウム(Bi-Ge)を混合した合金。TDKは、カッパー合金(Cu合金)−シリコン(Si)だ。いずれも、記録後の特性はほぼ同じものを得ることができ、有害性のある化学物質の排出を規制する「PRTR法」で指定された有害物質を含まないと考えられている。従来のCD-RWなどの書き換え型メディアでは、アンチモン−テルル(Sb-Te)などの有害な重金属が採用されていたが、今回の追記型ディスクでは、そういった有害物質を含むものは採用されていないのだ。

無機膜を採用し、高速記録と低レーザーパワーを実現

 「CDとDVDの世界では、まずROMがある。このROMというものは、反射率が高く、色素を使って高反射率を得る必要があった。しかし、Blu-ray Discは、リライタブルから始まっているだけでなく、合金でフェーズチェンジ(相変化)を使っており、もともと反射率が低い。無機膜でも十分同じ反射率が得られる。しかも、Blu-ray Discの記録ストラテジを変更するだけで同じ特性が得られるようになり、ハードからみると非常に作りやすいというメリットがある」(飯崎氏)。

 TDKとパイオニアの両社が、今回の追記型ディスクでともに反射率が低い「無機膜」と呼ばれる合金を記録層に採用した最大の理由がここにある。Blu-ray Discの具体的な反射率の数字は公表されていないが、だいたい「15−25%」といわれている。つまり、TDKの追記型ディスクに採用された記録材料は、この反射率を満たすことができ、かつPRTR法で指定されていないものの中から選択されたのである。逆にTDKが有機色素を採用しなかったのは、「Blu-ray Disc互換を考えると低反射に“抑える”という難しさがでてしまい、高い反射率で設計してしまうと規格から外れてしまう」(同氏)からだ。

 加えて、今後Blu-ray Discの再生専用の規格を策定するときに、すでに策定済みのBlu-ray Discと同じ反射率に設定すれば、再生専用(ROM)、書き換え型、追記型の3種類すべてが同じ反射率で揃えられるというメリットもある。DVD規格では、追記型と書き換え型で反射率が異なってしまい、それが原因で再生互換性に問題が生じてしまった。しかし、今回のように最初にできたものに合わせておけば、そういったことも回避できるだろう。

 さらにもう1点、TDKやパイオニアが開発した追記型ディスクでは、すでに高速化を視野に入れているという点も見逃せない。TDKの開発した追記型ディスクは、「(Blu-ray Discの)2倍速(72Mbps)で記録できるだけでなく、4倍速(144Mbps)にも十分対応できる。5倍速を超える200Mbpsでの記録も確認している」(飯崎氏)。加えて、「今回の発表したメディアなら4倍速書き込みでも記録ストラテジを若干変更するだけで、レーザーパワーをあげることなく対応することができる」(飯崎氏)という。

 これはすごいことだ。これまでは、高速記録を行えば行うだけ高出力なレーザーが必要となるというのが常識だったからだ。ところがTDKの開発した追記型ディスクでは、4倍速というスピードで書き込みを行っても、レーザーパワーの出力の増加がほどんど必要ないというのである。

 同社では、Blu-ray Discと同じ波長405nmの青紫色レーザーと0.1mmの保護層を採用した書き換え型ディスクでも検証を行っており、こちらも追記ディスク同様、最大「200Mbps」というスピードで書き込みできることを確認しているようだ。言い換えれば、Blu-ray Discでも、書き込みスピードの高速化のめどがすでに立っているとも言えるわけである。

[北川達也, ITmedia]

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