News 2002年10月25日 11:48 PM 更新

「Banias以後」の戦略は?――Intel副社長に聞く

2003年第1四半期に登場するモバイル専用プロセッサ「Banias」。そのプラットフォーム戦略や、“オールウェイズオン”のノートPCに向けたロードマップについて、Intel副社長のChandrasekher氏に話を聞いた

 「Intel Developer Forum Fall 2002 Japan」のために来日したAnand Chandrasekher副社長は、来年第1四半期の登場が見込まれているモバイル専用プロセッサ「Banias」で注目されているMobile Platform Groupを担当している(講演記事はこちら)。Baniasは省電力を付加価値としてアピールするだけでなく、プラットフォーム全体でPCの付加価値を向上させる戦略を取るなど、これまでのIntelとは異なるベクトルでのマーケティングが行われるなど、これまでのクロックスピードに頼ったマーケティング手法を変更している点でも注目を浴びている。

 今回はChandrasekher氏に、Baniasのプラットフォーム戦略について話をうかがった(聞き手・構成、本田雅一)。

ZDNet:Baniasプラットフォームは携帯性を重視した企業向けの製品として出発するようですが、日本のモバイル市場は個人のビジネスユーザーがこの市場をリードしている面もあります。日本向けに戦略にアレンジを加える計画はありますか?

Chandrasekher:Baniasプラットフォームは、あらゆる面でモバイルPCの付加価値を向上させます。もちろん、日本のモビリティユーザーにもより良い製品になるでしょう。ワールドワイドの戦略でBaniasは、まずSOHOやエグゼクティブ向けのビジネスツールとしてアピールしていきますが、個人向けのモバイルPCとしても高い価値を提供できます。Banias登場前から、日本ではモビリティが重要視されてきました。

 もう少しハッキリ言うと、営業戦略として新しいプラットフォームを普及させる突破口を企業ユーザーに求め、マーケティングリソースを企業向けにフォーカスしているだけです。もちろん、日本においては消費者市場を無視できないことは理解していますから、そこをおろそかにするつもりはありません。

ZDNet:Baniasプラットフォームの戦略は、これまでのようなフォームファクタによる市場の切り分けに加え、ユーゼージモデル(利用形態)をより意識したものだとのことですが、日本のビジネスマンのユーゼージモデル(電車通勤など)は、欧米のそれとはかなり違うように思います。

Chandrasekher:私は日本のビジネスマンのユーゼージモデルこそ、Baniasプラットフォームが適していると考えています。日本は携帯電話のからのネットアクセスや第3世代携帯電話網の整備などが進んでいますよね。日本人は日々の生活の中でワイヤレスに慣れ親しみ、いつでもどこでもネットに接続できる環境での使い方が、日常的に浸透していると思います。

 Baniasプラットフォームはノートブックという、携帯電話とは異なるフォームファクタで、そうした使い方の幅を広げることができます。PCには携帯電話にはない機能性があるからです。しかし携帯電話を置き換えるわけではありません。携帯電話とBaniasプラットフォームを採用するノートPCは、互いに補完しあう関係にあります。

ZDNet:Baniasは省電力と同時にパフォーマンスも求めた製品になるようですが、Baniasとその次世代製品のDothanが予定通りに性能を向上させていくと、(クロック周波数は低いが)実性能でモバイルPentium 4を、そう遠くない将来に追い越すのではないでしょうか?

Chandrasekher:Baniasは実行の効率を重視したデザインになっていますが、Pentium 4はクロックスピードを重視したものになっています。Baniasは熱設計電力とパフォーマンスのバランスに優れた製品のため、革新的なフォームファクタの製品が登場することを促します。しかし、Pentium 4は熱設計電力よりもクロックスピードを重視しています。熱設計電力の枠組が異なるため、直接の競合はないと考えています。

ZDNet:盛り上がりつつあるホームAVネットワークにおいては、Baniasプラットフォームで提供されているデュアルバンドソリューションが重要になると思いますが、CalexicoをモバイルPentium 4のプラットフォームに投入はしないのでしょうか?

Chandrasekher:無線LANの高速化はすべてのクライアントに関係する事柄です。モバイルPentium 4のノートPCにもデュアルバンド化が徐々に進むでしょう。Baniasプラットフォームでデュアルバンドの無線LANソリューションが提供される理由は、ワイヤレスアクセス時の消費電力を低減させるために様々な工夫を行う必要があるからです。省電力機能をプラットフォーム全体で実現し、各チップの相互運用を確認してます。これに対してモバイルPentium 4搭載のノートPCは、いくつかの無線LANチップから選んで搭載することになるでしょう。

ZDNet:BaniasプラットフォームはIntelの製品のみで固められていますが、今後、このプラットフォームにサードベンダーの製品が加わる可能性あるのでしょうか? ないとすると、Baniasプラットフォームに含まれるコンポーネントでは、水平分業は行われないということでしょうか?

Chandrasekher:Baniasプラットフォームは、モビリティ向上に必要なすべての要素を組み合わせ、それらが揃った場合のバリデーションを取ったものです。プロセッサ単体、あるいはチップセット単独で消費電力が下がるのではなく、それぞれの要素が結びついて全体で消費電力を下げます。したがって、Baniasプラットフォームのコンポーネントとしてサードベンダーの製品は入ってきません。

 しかしBanias自身は単独のプロセッサですし、チップセットも同様です。しかし、他社製のコンポーネントが使えないわけではありません。モビリティのニーズに対するベストのソリューションとして、Banias以外に周辺技術を集約してBaniasプラットフォームとして提供するわけです。

 もちろん、あらゆる分野で業界が協力して前進するモデルは理想だとは思いますが、エンドユーザーから見ればひとつのベンダーがトータルで価値を高めるため、すべての要素をIntelが提供した方がいい場合もあります。

ZDNet:Baniasのようにワイヤレス、セキュリティ、コネクティビティ、それに冷却技術などをプラットフォーム技術として供与するようになると、PCベンダーが独自に工夫を凝らす領域がどんどん小さくなるのでは? IntelはPCベンダーに、どのような分野でのイノベーションを期待しているのでしょう。

Chandrasekher:Intelが提供している技術は、PCを構成する要素の中でも特にシンボリックなものだけです。私たちは日本のPCベンダーともよく話し合っていますし、彼らからユーザーニーズを学び、それをベースに周辺技術の開発を行っているのです。PCがより良いものに成長し、市場をさらに伸ばしていくためには技術革新が必要不可欠です。

 日本の市場は横ばいではなくむしろ落ち込んでいる状況で、PCの価格も下がっています。しかし、プラットフォームレベルで技術革新を進めることで、その上でいろいろなPCベンダーが別のイノベーションを起こすでしょう。業界が協力し、技術革新を加速させ、エンドユーザーから見て魅力的な製品によって市場を刺激していくために必要な事です。

ZDNet:個人的には2004〜2005年ぐらいにバッテリやシステム全体の消費電力など、バッテリ駆動時間を決定的に伸ばすブレークスルーが現れていると考えていますが、あなたはどれぐらいの時期に大きなブレークスルーが訪れると考えていますか?

Chandrasekher:まず2003年、Baniasが登場します。これはモビリティを大きく向上させるブレークスルーなのです。さらに革新は続き、チップセットへのワイヤレス機能の統合やプロセッサへのワイヤレス機能の搭載などです。また先週、台湾で12のベンダーが集まり、バッテリ駆動時間を延長するための様々な技術要素について協力する作業部会が発足しました。

 一言でバッテリ持続時間と言っても、人によって求めるものや、求めるレベルが異なります。また、バッテリ技術そのものだけでなく、省電力に関するあらゆる技術開発を加速させます。バッテリ持続時間はこうした活動でさらに伸びていくでしょう。その成果はひとつづつ市場に投入されるでしょうから、いつブレークスルーがあるというよりも、徐々に、しかしより速くバッテリ持続時間の向上が図られていくことになると思います。

ZDNet:Intelはオールウェイズオン(常に電源を入れたまま)で使えるモバイルPCを将来的に目指すと話していましたが、そうした利用環境を私たちが体験できるようになるのはいつ頃になるでしょう?

Chandrasekher:オールウェイズオンはバッテリ持続時間を延長するだけでは実現できません。常に電源を入れたまま、常にネットワークにワイヤレスで接続されたままで利用されるようになるため、それに付随してセキュリティ機能を強化する必要があります。

 その両方向にたいして、業界はチームを組んで技術革新を進め、ブレークスルーを生み出していく必要があります。近い将来には2004〜2005年ぐらいに電池のブレークスルーが考えられますが、セキュリティ面では別のブレークスルーが必要でしょう。しかしIntelだけでそれを実現することはできません。ワーキンググループを結成したのも、チームで取り組まないとオールウェイズオンの世界は実現できないと考えたからです。



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[本田雅一, ITmedia]

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