News 2002年11月12日 11:08 PM 更新

音作りに1年――スチール弦のサイレントギター“フォークギターモデル”発表

ヤマハがサイレントギターのフォークギターモデル「SLG-100S」を発表した。音作りに約1年を費やすなど、音へのコダワリが込められた同社の自信作だ

 ヤマハは11月12日、サイレントギターの新製品として、フォークギターモデル「SLG-100S」を発表した。12月1日から発売し、価格は6万7000円。


サイレントギターのフォークギターモデル「SLG-100S」

 サイレントギターは、同社の長年にわたるギター作りのノウハウとサイレント技術を結集して作られた新ジャンルの楽器。弦の振動をピックアップし、デジタル処理して生成したギターの音色を、ヘッドフォンで聴くという仕組みだ。

 共鳴胴を持たないその構造から、ギターから発生する生音はとても小音量になる。周囲に気兼ねなく演奏を楽しめるという製品コンセプトが初心者からプロの演奏者まで幅広いユーザーに支持され、2001年12月に発売された第1弾のクラシックギターモデル「SLG-100N」は、バックオーダーが多数発生するほどのヒット商品になった。

 同社弦打楽器事業部長の丸橋雅彦氏は「昨年の12月にナイロン弦タイプを発売してから、予想以上の反響があった。今年4月からは、海外への販売展開も開始。北米や欧州でも反響は高い」と語る。


同社弦打楽器事業部長の丸橋雅彦氏

 「ナイロン弦のSLG-100Nを出した時に、ユーザーから“どうしてスチール弦はないのか?”という問い合わせが数多く寄せられた。スチール弦採用のフォークギタータイプは約1年かけて音作りを行い、今回の発表に至った」(丸橋氏)。

 サイレントギターのフォークギターモデルとなるSLG-100Sは、ピック弾きなどフォークギターならではの演奏法を可能にした。ボディ中央部にフィンガーレストを装備しており、ピックによるコードストローク奏法やリード(メロディ)奏法、指弾きによるスリーフィンガー奏法などが行える。


ピック弾きなど、フォークギターならではの演奏法を可能にしたSLG-100S

 気軽に演奏できる点や音色の親しみやすさ、ロック/カントリー/ジャズなど幅広い音楽性にマッチする点などから、フォークギターは世代を超えて幅広く愛好されている。

 「ナイロン弦のクラシックギターモデルは、30−50代の男性ユーザーから非常に支持された。われわれはこのユーザーを“ギター回帰層”と名づけているが、ギター分野で新たな需要を掘り起こしたと自負している。今回のフォークギターモデルは、女性ユーザーを含む10代からシニア層まで幅広いユーザーを狙っている」(丸橋氏)。

 通常のフォークギターに比べて約1/10(同社比)の音量という高い静粛性を実現したSLG-100Sは、本体に同社のアコースティックギター製造ノウハウを生かした天然木を使用。ピックアップ部は、ギターのピックアップシステムでは定評があるL.R.Baggs社のピエゾ(圧電式)ピックアップを採用している。

 本体内蔵のプリアンプには、演奏ホール空間の美しい響きが表現できる2段階のリバーブや、きめ細かな音質調整が行える高音/低音用のトーンコントロールを装備している。入出力端子を装備しているので、ギターアンプなどを出力端子に接続することで大音量での演奏や本格的なライブにも使用できるほか、入力端子にCDプレーヤーや電子楽器を接続してアンサンブル演奏も行える。

 新製品発表会では、ギタリストの古川忠義氏によるSLG-100Sを使ったミニライブが行われた。


ギタリストの古川忠義氏によるSLG-100Sを使ったミニライブ

 演奏を終えた古川氏は、「去年の12月からナイロン弦タイプをコンサートなどで使用している。今回の新製品は、アコギ(アコースティックギター=フォークギター)で起こりがちなハウリングが発生せず、また高音域や低音域で安定した音が作れるなど“音作り”の面で楽なのがプレーヤーにとって助かる」と、SLG-100Sの感想を述べた。

クラシックギタータイプの発売から約1年をかけて、じっくりと音作り

 フォークギタータイプを望むユーザーが多かったにもかかわらず、昨年12月のクラシックタイプ発表から約1年を経過してようやく今回の発表に至った。事業開発本部商品プロデュース促進プロジェクトリーダーの笠原芳樹氏は「ナイロン弦の開発期間は1年3カ月だったが、その多くはコンセプトやデザインに費やしていた時間。基本部分は完成しているので、当初、スチール弦は半年ぐらいで開発できると思っていた」と述べ、フォークギタータイプ発表の遅れは予定外だったことを打ち明けた。

 素人考えでは、クラシックギタータイプにスチール弦を張り、音質の調整をするぐらいで済むのではと思うのだが、そう簡単にはいかなかったようだ。

 「実際にクラシックギタータイプにスチール弦を張ってみたら、出てきた音がフォークギターではなかった。何社ものピックアップメーカーが発売する数十種類に及ぶピックアップ製品を吟味し、それぞれ電気回路の特性や相性など、さまざまな組み合わせを検討して選び出した」(笠原氏)。

 試行錯誤の結果、なんとかフォークギターの音が出る試作機が完成したものの、それは楽器としての“味”に欠けたものだったという。

 「弾いてて楽しくない、おもしろくない、という問題が出てきた。このような音作りに、予定外の時間を費やしてしまった。最終的には、今年夏過ぎぐらいになって、やっと非常に素晴らしい音が出るようになった」(笠原氏)。

 「音にこだわっため」という同社らしい理由で発表が遅れたフォークギタータイプ。この新製品に対する同社の期待は大きさは、イメージキャラクタにシンガーソングライターの中島みゆきさんを起用したことからも汲み取れる。発表会では、実際に新製品を使った中島みゆきさんから“みゆき節”を効かせたコメントも寄せられた。

 「サイレントギターのフォークギタータイプと聞いて、正直言ってアコースティックギターの音が単に小さくなっただけだったら、布団かぶって弾けば十分なのでは……と、このように思っていたわけなんです。ところが、弾いてみてビックリ、予想とは大きく違って、アコースティックでもなくエレキでもない、なんだか面白い音が出たんです。レコーディングやコンサートなどで、このギターの音の個性を生かしたら面白いものができるのではとワクワクしました。よろしかったら、みなさんもまずお手にとって“チャラーン”と弾いてみてくださいませー。中島みゆきでした」。


中島みゆきさんがSLG-100Sのイメージキャラクタに。十二単をまとったみゆきさんのコンセプトは「静午前」。これは誤植ではなく、同社いわく「“静”はサイレントを表し、“午前”は夜更けから明け方にも気兼ねなく弾けますという意味」とのこと

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[西坂真人, ITmedia]

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