News 2002年11月22日 11:14 PM 更新

「ComicStudio」は、Tablet PCのキラーアプリ?

ビジネス向けの用途提案が目立つTablet PC。だが、コンシューマ向けにもTablet PCは大きな可能性がある。マンガ制作ソフト「ComicStudio」を手がけるセルシスに、Tablet PCの可能性について聞いた

 Microsoftが力を入れているTablet PC。11月7日には、PCメーカー各社からWindows XP Tablet PC Edition日本語版を搭載したTablet PCの発売が始まったが、現在のところビジネスシーンでの用途提案が目立つ。Tablet型携帯端末の市場がすでに存在するビジネス市場に期待するのは分かるが、コンシューマ用途でTablet PCのメリットを生かせるソフトが見当たらないという声も聞かれる。だが、それは大きな間違いだ。すでにTabletデバイスを積極的に取り入れている分野がある――。それは、マンガ制作の世界だ。

 マンガ制作ソフト「ComicStudio」シリーズを手がけるセルシスに、マンガ制作ツールとしてのTablet PCの可能性について聞いた。

 同社は、設立当初からアニメーション分野向けに「RETAS!PRO」という業務用アニメ制作支援ツールを開発している。同社営業企画部チーフスタッフの中島延浩氏は、「現在放映されているアニメの100%が、なんらかのカタチでアニメ制作にデジタル技術を使っている。RETAS!PROは、そのアニメ制作ツールの中で90%以上のシェアを誇る。アニメ制作の基礎部分としての“マンガ”に着目して生まれたComicStudioは、RETAS!PROのノウハウが生かされている」と語る。


同社営業企画部の中島延浩氏(左)と竹内久美子氏(右)

 昨年8月に発売されたComicStudioは、ネーム/ペン入れ/仕上げ(トーンや効果線)/せりふ入力といったマンガ制作の工程をPCで可能にした「世界初のマンガ制作グラフィックツール」(同社)だ。紙にペンで描くような“手描き感覚”でデジタルマンガに取り組めるツールとして、プロのマンガ家から趣味でマンガを描いているアマチュアまで、幅広いユーザーに支持されている(ComicStudioとTablet PCに関しては、ZDちゃんが登場する別記事を参照)。


幅広いユーザーに支持されているComicStudio

 ComicStudioは、入力デバイスとしてワコムのintuos2/FAVOといったペンタブレットを利用することを前提としている。「ペンタブレットは、マウスよりはるかに手描きに近い入力環境だが、正面のディスプレイを見ながら手元のペンタブレットを操作するため、紙に直接描いているような感覚に乏しくなってしまうのが欠点。プロのマンガ家などは、液晶ディスプレイとペンタブレットを組み合わせた“Cintiq”を利用しているユーザーも多い」(中島氏)。

 液晶ディスプレイに直接描き込むことができるCintiqは、まさにペンで紙に描く感覚でマンガ制作が行えるわけだが、18.1型SXGAのC-1800SXが39万8000円(WACOM Direct価格)、15型XGAのC-1500Xでも16万3000円(同)と値段の高さがネックで、一般ユーザーには高嶺の花となっている。

 「われわれに寄せられるユーザーの声でも、“画面に直接描きたいのだがCintiqは値段が高くて手が出ない”というのが多い。ペンタブレットでも高機能なモデルは数万円する。CintiqとPCが1台になったようなTablet PCは、デジタルマンガ制作を行うユーザーにとって、待ち望んでいた商品」(中島氏)。

 自然なタッチでペンで紙に描く感覚を提供することをComicStudioシリーズの開発テーマとしていた同社にとっても、“デジタルペーパー”をテーマにしたTablet PCはコンセプトが合致する商品ということから、早くからTablet PCへの対応表明を行っていた。第1弾として、エントリーモデルの「ComicStudioDebut」をTablet PCに対応させるアップデートプログラムが、11月末から同社ウェブサイトで無償提供される(別記事を参照。当初のアナウンスでは11月20日から提供される予定だったが変更された)。


アップデートプログラム適用後のComicStudioDebut。上部のツールバーに各種ボタンが追加される

 「紙とペンという従来のマンガのスタイルでは、どこにでも持ち運べて描けたのが、PCとペンタブレットを使ったデジタル制作では、PCのそばでしか作業ができないのがネックだった。マンガ作成には、ストーリーやキャラクターをラフ描きするネームと呼ばれる作業があるが、プロのマンガ家などはネームの段階ではファミレスや喫茶店など戸外でやることが多い。ネーム段階から紙に描くのと同じような環境が手に入るのはTablet PCだけ。画面が縦型にできるのも、マンガ作成には好都合」(中島氏)。


紙のようにどこへでも持ち運べて描けるのがTablet PCの魅力

 Tablet PCはそのほかにも、筆圧感知によって自然なペンタッチが表現できるほか、スケッチブックのように回転させながら描くといったことも可能だ。 「流線や集中線を描く時や、斜めからのキャラクタ描画などは、従来の手描きスタイルでは紙を回転させながら描いていく。ComicStudioでは、今までソフト側で画像回転機能を用意していたが、Tablet PCなら紙と同様に本体を回転させて描き込むことができる。このほうが、より紙に近い使い方」(中島氏)。

コンシューマ向けとしてのTablet PCの可能性

 ペンによる手書き入力をサポートしたTablet PCは、今までとは違ったコンピューティングの世界が期待されるが、メーカー側のTablet PCのターゲットは、現在のところビジネスユーザーを中心に考えられているようだ。国内でTablet PC発売を表明しているPCメーカー9社も、ソーテック以外はビジネス用途をメインに考えている。「Microsoftの自体が、現在のビジネスノートPCの置き換えというのをTablet PCの戦略としており、ビジネス向けアプリが多い。グラフィックソフトでTablet PCに対応しているのはほとんどない状況」(中島氏)。

 米ラスベガスで今週開催されているCOMDEXでもTablet PCは大々的にPRされており、テキストと手書き文字を混在できる機能を搭載したMicrosoft Journalの発展型のような新ソフト「Microsoft OneNote」も披露されるなど、Tablet PC対応ソフトも徐々に充実してきているが、その多くがビジネス路線を強調したものだ。

 「ComicStudioシリーズは、累計3万本を出荷し、2万人のユーザーに愛用されている。店頭デモなどでは、孫を連れたおばあちゃんが、PCと一緒にComicStudioを購入したり、中年層のサラリーマンが買い求めるケースも多い。コミケ(コミックマーケット)に訪れるユーザーも年々増えており、マンガを描いてみたいという潜在ニーズは若年層から中高年まであると思う。Tablet PCによってデジタルマンガ制作に新たな世界が見えてきた。Microsoftもコンシューマ向けとしてのTablet PCの可能性に、もっと注目して欲しい」(中島氏)。



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関連リンク
▼ セルシス
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[西坂真人, ITmedia]

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