News 2002年12月4日 08:52 PM 更新

“生みの親”が語る「ASIMO開発秘話」

21世紀の幕開けを間近にひかえた2000年11月、本格的なヒューマノイド(人間型ロボット)として誕生した「ASIMO」。大地をしっかりと踏みしめるその2本足に息づく“HONDA”のチャレンジ精神や現場主義とは?

 幕張メッセで12月4日から開催している半導体関連の展示会「セミコン・ジャパン2002」の基調講演で、ASIMOの“生みの親”である本田技術研究所 和光基礎技術研究センターの広瀬真人氏が、同社のロボット開発の経緯や苦労話などを語った。


本田技術研究所 和光基礎技術研究センターの広瀬真人氏

 広瀬氏がHONDAに入社したのは今から16年前の1986年7月。工作機械メーカーからの転職組だった。当時30歳だった広瀬氏は、入社直後からロボット開発を命じられることになる。

「アトムを作れ!」

 「時期外れの中途入社で、たった1人で研修を受けていた私が、1番最初に言われたのが『アトムを作れ!』だった」(広瀬氏)。

 もちろんこれは、本当に“鉄腕アトム”を作れということではなく、一般ユーザーと同じ生活環境の中で、フレンドリーで役に立つロボットを作ろうという意味。ここから“一家に1台のロボット”を目指すHONDAの挑戦が本格的に始動した。

 ロボット開発のプロジェクト自体がトップシークレットだったため、窓が1つもない鍵がかかった小さな部屋で開発がスタートしたという。だが、本格的なロボット研究などを行う企業はなく、未知の分野だっただけに、手探りでの研究は苦労も多かったようだ。

 「プロジェクトに参加した初日に、上司から『3日後に社長に見せるから図面を提出しろ』と言われた。しかし、研究室の本棚を見ても参考文献どころか、そこには鉄腕アトムのマンガとなぜか四谷シモンの人形があるだけ。しょうがないので、それを眺めながら図面を引いて3日後に社長に見せたら、案の定、『こんなのは構想レイアウトじゃない』と一蹴された」(広瀬氏)。

ロボット開発に息づく“三現主義”

 広瀬氏は、自動車メーカーのHONDAがロボットを開発する理由について「HONDAは動くものなら何でも取り組む“モビリティの企業”。ロボットは新しいモビリティへの挑戦」と説明し、ヒューマノイドにこだわるのは「2足歩行はあらゆる地形に対応できる究極のモビリティ。人間のように歩くロボットを作り出すのは非常に困難だが、不可能へチャンレジするのがHONDAの精神。だから2足歩行型ロボットに挑戦する」と語る。


 そして広瀬氏は、1歩踏み出すのに約30秒もかかっていた1号機の「E0」から人間並みの歩行速度を可能にした「E3」、世界初の人間型自律2足歩行ロボットとして発表された「P2」など、ASIMOに至るまでに生み出された10体のロボットそれぞれの、技術的なブレークスルーや開発苦労話を紹介した。

 このようなHONDAのロボットへの取り組み姿勢やASIMO誕生に至るまでの開発経緯は、広瀬氏の上司である本田技術研究所常務の平井和雄氏が今年7月の「産業用バーチャルリアリティ展」基調講演で語った内容と同じだ。

 広瀬氏は、ロボット開発に重要なのは“三現主義”だという。

 「われわれが開発していると、幹部がひんぱんに研究室を訪ねてくる。そして、『研究所に閉じこもっていては何も生まれない。体を使え』『こんな動きではヒューマノイドといえない』などと叱咤激励していく。だが、そのような助言や研究所の外でのひらめきから、技術的なブレークスルーが生まれることも多い」(広瀬氏)。

 広瀬氏ら研究陣は歩行の原理を解明するために、実際の歩行者をつぶさに観察したり、出社せずに一日中動物園で動物の動きを眺めたり、自分達が実験台になるなど、まさに“体を張った研究”が続いたという。

 「歩行者を観察していたら職務質問されたり、足の動きのメカニズムを知りたくて『どこに麻酔を打てば歩けなくなるか』と医者に質問して怒られたこともあった。だがそれが、柔らかくて安定するわけがないと思われていたゴム素材の活用や、積極的に倒れる動作を歩行に生かす制御など、“逆転の発想”に結びついている」(広瀬氏)。

 「現場に行って現実を知り、実際の現物を見て対策する。机上の空論ではよいモノは作り出せない」というHONDAの有名な“モノづくりのポリシー”が、ロボット開発にも息づいているのだ。

ASIMOも現場主義

 21世紀の幕開けを間近にひかえた2000年11月に、本格的なヒューマノイドとして誕生したASIMOは、J-Debitのセレモニーでキャッシュレスショッピングをアピールしたり、RoboCup-2002の開幕イベントでゴールを決めてみたりと、実際の“現場”で多くの活躍を見せている。

 「ニューヨーク証券取引所で開始のベルを鳴らしたり、IBMでは受付案内も行っている。最近では、海外展開の第1弾としてタイに渡り、国王と挨拶も交わした。ロボット開発は、われわれと同じ環境の中で使ってみて、いろんな課題や何をやればいいのかが分かってくる。それが、最終目標である“人社会とロボットとの共生”につながる」(広瀬氏)。



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▼ 本田技研工業

[西坂真人, ITmedia]

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