News 2003年4月11日 11:27 PM 更新

“ひらめき”を素早く商品に――松下ベンチャー「ピンチェンジ」

大企業にはないフットワークの良さを持つ松下の社内ベンチャー「ピンチェンジ」。“ひらめき”と“スピード”をポリシーにしたこの技術者集団が開発する商品には、ユニークなものが多い

 「お遍路(へんろ)さん」をご存知だろうか。

弘法大師(空海)が修行で巡ったとされる足跡を訪ね、四国にある88カ所の寺院を順番に参拝するというこの“巡礼の旅”を、家庭用ゲームソフトにしてしまった企業がある。それが「ピンチェンジ」だ。

 ピンチェンジと聞いても“ぴん”とこないかもしれない。

 同社は2001年8月に松下電器の社内ベンチャーとして設立。同社広報の立野明弘氏は「社名の“Pin”は『新たなライフスタイルを創造するアンテナ組織(Panasonic Innovative Navigator)』という意味。必要なものを素早く製品化することを企業ポリシーとしている技術者集団」と説明する。


同社広報の立野明弘氏

 同社が開発した商品は、これまで見えない場所で活躍してきた。昨年から札幌を中心に設置されている公衆電話機能付き情報端末「MOSIVO」は、15秒の広告を見るだけで約9分間の通話が無料になるという無料公衆電話機能に加えて、設置場所の地域情報がタッチパネル操作で簡単に入手できる情報端末機能も備えている。


無料公衆電話機能付き情報端末「MOSIVO」

 ZDNetが展示会レポートなどで取り上げた注目商品の中にもいくつかある。一人暮らしや介護を必要とする高齢者の安否を確認し、双方向で情報のやり取りをする「見守りペットロボット」も、同社が手がけたアイデア商品の1つ。また、オープンプラットフォーム「T-Engine」を採用した純国産の小・中学生向け教育端末「TEA端末」は、近々教育機関向けに発売される予定だ。


「見守りペットロボット」(左)や小・中学生向け教育端末「TEA端末」(右)

 そのほか、描いた絵が大画面PDPの仮想水槽の中を泳ぎだす「バーチャル水族館」といったアミューズメントシステムや、4月に発足した日本郵政公社の新サービスとして話題となった「プリクラ切手」の開発にも同社は携わっている。

 これまで裏方的存在だった同社がコンシューマ向けに開発したのが、昨年10月に発表した小型オーディオ「PLUPLU」。ダイマジックの3Dサウンド技術(DiMAGIC Virtualizer X)を搭載し、高品位な5.1ch相当の迫力ある仮想サラウンド再生を本棚に入るぐらいの小型ボディで可能したコンパクトCDプレーヤーだ。「PLUPLUはTVの報道番組でも取り上げられるなど話題の商品。販売チャンネルが限られているため数は出ていないが、実際にサウンドを体験したユーザーの購買率は高い」(立野氏)。

 冒頭で紹介した「お遍路さん」は、このPLUPLUに続くコンシューマ製品第2弾となる。

実写映像と足踏みパネルでお遍路さんを仮想体験

 任天堂のゲームキューブに対応した旅行シミュレーションゲーム「お遍路さん」は、徒歩で40日以上はかかるといわれている四国88カ所巡りの行程を、ゲーム上でシミューレートしたもの。実際の参拝コースを撮影した実写映像が、歩数を重ねることで刻々と変化していき参拝気分を高めてくれる。


 寺社の境内では、決められた順序や作法でお参りすることも可能。寺社の縁起や建立時のデータ、文化財や見どころなどの情報が、音声や文字で分かりやすく解説される。


寺社の境内では、決められた順序や作法でお参りすることも可能

 操作はコントローラだけでなく、遊び感覚で足踏み運動ができる専用パネルを別売りで用意。約1200キロメートルの道のりを、実際に歩いて巡ることができる。


 また、歩数を溜めることができる印篭型専用歩数計もあり、日常で歩いた距離をゲーム上の歩数に加算することも可能。歩数計には運動量や消費カロリーがチェックもできる健康チェック機能も備えている。


健康チェックも行える印篭型専用歩数計

 実際にお遍路さんとして四国を巡る人は年間10万人以上に及ぶ。だがそのほとんどが、バス/車や電車を使って短期間で巡礼を終えてしまうスタイル。実際に徒歩で巡る“歩きお遍路”は、1000−2000人ぐらいといわれている。

 「いつかは行きたいという“予備軍”も含めると、お遍路さんの潜在ニーズは非常に大きい。誰もが本当は歩いて巡りたいと思うのだが、時間や予算、体力的な理由などから断念している。今回のゲームは、実写映像でお遍路さんをバーチャル体験できるだけでなく、健康チェック機能などで目的意識を持って楽しめるようになっている。家庭だけでなく、福祉施設などのコミュニケーションツールとしても有効」(立野氏)。

“ひらめき”と“スピード”――大企業にはないフットワークの良さ

 松下のベンチャーからPLUPLUのようなオーディオ機器が出てきたというのはある程度想像がつくが、今回の「お遍路さん」は松下という企業イメージからは異色に映る。

 「われわれはなにも、ゲーム業界や介護ビジネスに本格参入しようというわけではない。今回のお遍路さんは、当社の社長が自分の母親の声からひらめいたアイデアを商品化したもの。単なるきっかけから生まれた製品の1つ。市場調査もしていないので、どれだけ売れるかは分からない。だが、ひらめきとスピードを重視し、アイデアを思い立ったらすぐに行動に移すという、大企業にはないフットワークの良さを持つこと。それが当社のポリシーでもある」(立野氏)。

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[西坂真人, ITmedia]

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