News 2002年9月10日 10:35 PM 更新

福祉・介護の世界で活躍するIT技術

ITの最新テクノロジーは、障害者や高齢者に大きな恩恵をもたらしている。「国際福祉機器展」で、福祉・介護の世界で活躍するIT技術を見てきた

 IT技術の発達によって、われわれの生活は大きく変化した。そしてその最新テクノロジーは、障害者や高齢者にも恩恵をもたらしている。東京ビッグサイトで9月10日から開催されている「国際福祉機器展」で、福祉・介護の世界で活躍するIT技術を見てきた。


東京ビッグサイトで開催している「国際福祉機器展」

福祉・介護の世界にもロボット技術

 福祉・介護の分野は、ロボットが実用化されている世界の1つだ。例えば、指先やアゴの動きだけで操作できる車椅子などは福祉ロボットの1つ。実際に展示会では、ハイテク技術を駆使した電動車椅子の展示が盛んに行われていた。そのほかにも、机などに設置してモノを取ったり本のページをめくったりするアーム型ロボットもある。

 そのような福祉・介護ロボットの展示で注目を集めていたのが、セコムが出展した日本初の食事支援ロボット「マイスプーン」。同社が11年もの開発期間を経て商品化したものだ。会場では、デモ機を2台用意し、来場者が実際にマイスプーンを体験できるようになっていた。


日本初の食事支援ロボット「マイスプーン」

 今年5月から発売およびレンタルを開始したマイスプーンだが、38万−43万6000円という価格から買い上げ方式を選ぶユーザーは少なく、月額6100円から利用できるレンタル方式が大半だという。「今回の展示でも、『行政からの補助金は出るのか』という質問が来場者から多く寄せられた。現在のところ補助金は出ないが、今後は補助金制度が受けられるように各方面に働きかけていく」(同社)。

 松下電器産業のブースでは、同社が以前から提案していたペットロボット「モーリー」を参考出展していた。AIBOのようなメカニカルなものでなく、ヌイグルミの外見が特徴。ただしペットロボットとはいっても、ピンクのボールを追いまわしたりすることはない。


ペットロボット「モーリー」

 同社のペットロボットは、一人暮らしや介護を必要とする高齢者の安否を確認し、双方向で情報のやり取りをする“見守り”機能が主な役目だ。また、自律会話機能を使って独居老人の話し相手となり、精神的な“癒し”になることも目的の1つ。ヌイグルミの首にぶら下がっているオモチャのカメラがCCDカメラとなっており、内蔵のPHSを介して福祉支援センターや遠方の家族が“見守る”ことができる。大阪府池田市で2000年4月からこのペットロボットを使った実証実験が行われていたが、来年春頃をめどに商品化することが決まったという。ただし、一般向けには販売されず、自治体や公共機関の福祉支援センターなどが一括購入して、ユーザーにレンタルするカタチになる見込みだ。

 また、同社のブースでは、お掃除ロボットの実演展示も行われていた。部屋の形状や床面状態、ゴミの量などに応じて最適な掃除パターンを自動で制御する「自律制御システム」を搭載するハイテクロボットだ。


自律制御システムを搭載した松下のお掃除ロボット

 先日、東芝が実売29万円前後の家庭用自走式掃除機「トリロバイト」を発表したが、松下のお掃除ロボットの商品化は早くて2年後で、価格も現時点では40万円弱とまだまだ高価。ただ、このような製品が登場することで高齢者や障害者の家事の負担が軽減されることを考えると、お掃除ロボットも立派な福祉商品というわけだ。

位置情報は路上から

 福祉関連に力を入れているエレクトロニクスメーカーの1つに日立製作所がある。同社のブースでは、国土交通省との共同研究プロジェクト「視覚障害者向け誘導システム」の紹介を行っていた。


「視覚障害者向け誘導システム」のデモ

 バリアフリー対応の歩行空間を提供する「歩行者ITS」の実証実験として行われたこのプロジェクトは、路上に埋め込まれている点字ブロックに位置検出用のICタグを内蔵。利用者はICタグリーダーを搭載した白杖を使って位置情報を読み取ることで、自分が今いる場所を知ることができるほか、音声による道案内も受けられるという。「8方向を認知できる方位センサーによって、利用者が現在向いている方向を識別できるため、適切なタイミングで情報が提供できる」(同社)。


路上の点字ブロックに埋め込まれたICタグの位置情報を、白杖に内蔵されたICタグリーダーで読み取る

 電源のいらないICタグを使うことで、位置情報提供システム側はメンテナンスフリーにした。ナビゲーションを行うのは、Windows CEベースのPDAで行う。「白杖との接続は当初Bluetoothで行っていたが、白杖の重量が2倍になってしまうため有線接続に変更した。将来的にはユニットを軽量化して、無線通信接続にしたい」(同社)。

 このサービスは視覚障害者向けだが、このようなインフラが整備されれば高齢者はもとより一般のユーザーにも便利なシステムとなりそうだ。実用化の時期だが「願望では1年、目標は2年以内だが、実際には2年以上かかってしまうかもしれない」(同社)とのこと。課題は耐久性とコストだという。また、現在テンキーで行っている目的地の入力も、将来的には音声認識で対応する予定だ。

音声で家電を操作

 この音声認識も、福祉の世界で注目されている技術だ。旭化成テクノシステムが、この技術を利用して家電やAV製品のリモコン操作を行う「ライフタクト」というシステムを紹介していた。


旭化成テクノシステムの環境制御装置「ライフタクト」

 家電やAV製品の操作には必須アイテムとなったリモコンだが、製品自体が多機能になるにつれボタンの数も多くなり、障害者や高齢者にとってはかえって操作しづらいものとなっている。音声認識システムを内蔵したWindows CE機に赤外線リモコンとマイク内蔵スピーカー、PHSカードをセットにしたこのライフタクトというシステムを使えば、「テレビつけて」「エアコンつけて」といった音声で家電やAV製品のリモコン操作を行えるという。付属のPHSカード(Air H”)で、音声による電話の受発信も可能だ。


テレビのチャンネル操作も「NHK」「フジテレビ」と叫ぶだけ

 音声認識システムには、旭化成の組込み機器向け音声認識エンジン「VORERO」を使用。高効率でコンパクトなソフトウエアライブラリで構築されており、Windows CE機のようなマシンパワーが低い機種でも実行可能なのが特徴だ。「エンロールと呼ばれる事前の音声登録も必要なく、外界からのノイズにも強い。価格は35万円で今秋発売予定」(同社)。

 このような音声認識によるリモートコントロールシステムは、障害者や高齢者だけのものでなく、一般ユーザーにも優しい“ユニバーサルデザイン”につながる。健常者/障害者、子供/老人、男性/女性といった区別なく、あらゆる人が使いやすいように考えて製品をデザイン・設計していくというユニバーサルデザイン的な発想は、福祉や介護の世界だけでなく、一般ユーザー向けにも必要なのかもしれない。

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関連リンク
▼ 国際福祉機器展(保健福祉広報協会)

[西坂真人, ITmedia]

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